「上手くなりたい」
今回の記事タイトルは「僕が次のボイジャー探査機を作ることになったら地球の代表的芸術作品として搭載したいアニメ」もしくは「僕が市長になった街の成人式は参列者がこれをTV版26話+未放映1話+映画版3本全て観終わるまで退席できないシステムで開催したいアニメ」こと高校吹奏楽部を題材にした希代の快作『響け!ユーフォニアム』の主人公・黄前久美子さんによる物語前半ハイライトとなるセリフですが、これは楽器を手に取って演奏を志したことのある人なら(音楽に限らず描画、演技、造形、撮影、執筆など専門の技能を用いる全ての表現行為を志したことのある人なら)、誰しも大なり小なり一度は胸に抱いたことのある気持ちなのではないかと思います。
当然僕も日々この気持ちを胸に抱き、妄想では宇治橋を全力疾走しながら現実はデジマートの検索で半日を無駄にしたりしているのですが、僕の「上手くなりたい」はここ数年間はだいぶ具体的な形で去来することが多いです。それは「プレベをいい音で鳴らしたい」。
プレベというのはフェンダー社が1950年代に発売した世界初の量産型エレキベース「プレシジョンベース」の略称です。今日では同社の後発商品である「ジャズベース」とともにエレキベース界のスタンダードモデルとして世の中に定着し、僕自身も両タイプの楽器を所有していますが、この二種類を両方触ったことのある方ならば「プレベはいい音で鳴らすのが大変」という僕の感想に多少なりとも同意してもらえるのではないでしょうか。
ジャズベの方が弾くのが簡単だと言いたいわけではありません。ジャズベもへっぽこな演奏をすればモロに音に出ます。というかこの世のほとんど全ての楽器はへっぽこな演奏をすれば音に出るように作られています。そういうへっぽこ演奏をある程度克服した(と思いたい)エレキベース演奏者として思うのは、プレベは「良質だと感じる音を出すハードルがなんだか知らんが高い」のです。正しくチューニングしてそれなりのアンプに繋いで弦を弾きさえすればプレベの音は誰もが出せるのですが、自分で聴く自分の奏でている音と、音源やライブを通して数百回と耳で聴き「これやべえ!超かっこいい!」と感動した記憶の中のあの名演がなかなか近付いてくれない。僕の場合その記憶とは主にソウルやファンクですが、ロックンロール方面を思い浮かべる方もいるでしょうし、メタルとかハードロックだという方もいるでしょう。西暦2020年にもなってアホみたいなことを述べますが、要はきっとプレベで名演として残ってるいい音は、だいたい弾いてる人がみんなとんでもなく上手いのです。そうに違いない。いやそうであってくれ……。そうでないと僕は自分の腕の至らなさと真摯に向き合わなきゃいけない……。スマホからデジマートの検索結果を眺めてニヤニヤ現実逃避している場合じゃなくなってしまう。でも久美子みたいに仲間たちとキラキラまぶしい練習の日々を過ごして高みを目指すにはおじさんは歳を取り過ぎてしまったんだ。しかもおじさんだから周りにいる仲間もみんな等しくおじさんで北宇治吹部みたいな華もない。せいぜい栗田君ぐらいか、華。厳しい判定だなぁ。栗田君と大吉山登ってもたぶんときめかないよなぁ。
こういう厳しい現実をなんとか道具の力で打開したいと願って、僕は楽器をいっぱい買ってるし、G&LのSB-2(ヘッダー画像の楽器で、今回の本題です)を所有し続けているのです。これがもはや記事タイトルと完全に真逆の内容を喚いていることには自分自身も気付いております。
このベースは僕が初めて自分で稼いだ賃金で購入した楽器で、学園祭学園的には2008年末のポアロジャンボリー出演から2014年発売のアルバム『ユープケッチャ』制作ごろまでメイン機として使用していました。アメリカ製のメインストリームではなく、廉価版の日本製トリビュートカスタムシリーズ(後にプレミアムシリーズに改名)です。ボディ材は不明、ローズウッド指板にPJ配置のピックアップで、購入時は2ボリューム1トーンの3コントロール仕様でした。SB-2はアメリカ製のものはボリュームが2つだけの超シンプルな回路仕様なのですが、トリビュートカスタムはトーンポットが追加されており、便利なんだけどその影響で2階建てになったボリュームポットがなんか美しく感じられなくてモヤモヤしていました。一度自分でボリューム2つのみの回路に改造してみたら、250kΩのポットを使ってもだいぶトレブリーな音になってしまい(アメリカ製の回路に使われているポットの抵抗値が知りたい。100kΩのやつとか使えばもう少し落ち着いた音になったのか?)、やっぱり自分にはトーンポットは必要で、この3コントロール回路を維持したままどうにかノブは2つという仕様にできないかと考えた結果、トリマーポットを用いてキャビティ内への隠しトーンの設置という結論に至り、Birdcageにリペアを依頼したのでした。結果はもちろん大成功。
僕はもともとパッシブベースのトーンは目盛8~7ぐらいで使うことが多いので、隠しトーンも近い音になる設定で半固定。あとは表に出ている2つのボリュームのバランスで音を作るという操作感が僕の性にとても合っています。PJベースのセオリー通り、まずフロントボリュームをフルにして、リアボリュームを0からいい塩梅になるまでトレブルブースター感覚で足していくと、プレベ的なメコッとした音にパキッと輪郭線が描き足されていき、僕の耳と記憶の中にある「プレベのいい音」にだいぶ近い音が手元で作れるようになりました。素晴らしい。こんなのテクノロジーが身を助けてくれる好例じゃないですか。やっぱり練習も大切だけど使う道具だって同じくらい大切なんですよ。だからみんなもどんどん楽器買おう?ね?
今回の新アルバム『ユートピアだより』制作では、ある曲で僕の思うこの「プレベのいい音」がどうしても欲しくて、奏者の腕前を補ってもらう形で登板となりました。どの曲かは聴いてもらえれば一発でわかります。ラフィンさんのディレクションと中山さんのミックスのおかげでちょっと笑っちゃうくらい素敵な音になりました。100年後ぐらいに誰かが「あのプレベのいい音」として思い出してくれたら嬉しいです。あわよくばその時代の外宇宙探査機にユーフォと一緒に搭載されますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?