色と音が自慢です
僕は楽器が好きです。とりわけエレクトリックベースという種類の楽器に偏執的な魅力を感じているフシがあります。なんだったら音楽をやるために楽器を買ってるのか、楽器を買う口実に音楽をやってるのか時々わからなくなることが稀によくあります。十代の終わりごろに最初の一本を手にして以来、気付けば可処分所得の大半をこの楽器というやつにつぎ込んで今日まできてしまいました。現在も折につけ楽器店の軒先やネットの通販サイトを覗き込んでは、襲いくる物欲への抵抗もむなしく(ほとんどしてない)新機材が生活空間を圧迫し続けています。総数はカウントしましたが僕の両手の指では数えきれなかったのでわかりません。
もちろん僕はバンドマンでもあるので、単なる収集趣味ではなく「買ったら使う」をモットーに、すべての機材は学園祭学園での実用を想定して購入しています。今回の新アルバム『ユートピアだより』の制作でも、ベースに限らず僕の所有する機材が活躍する機会が何度かあり、表面的には「ふーん、よかったじゃん」とか平静を装いながらも、心中では自己ベストを更新したアスリートのようにガッツポーズを繰り返していました。
そんな我が家の楽器群のなかでも入手から今日まで、最もいろんな場所で使っているのが通称「金色」と呼んでるジャズベース型の個体です。2014年のワンマンライブで使い始めてからほぼ毎月どこかの演奏で使用しているので、もしかしたら目撃したことがある方もいるかもしれません。
今回の学園祭学園の新アルバム『ユートピアだより』でも、最も多くの楽曲(たぶん8曲)をこいつで演奏録音しているので、ベースの音が気になるという奇特な方は曲ごとの音色の違いを分析してみたりしてください。アルバム全体の音作りに携わってくださったディレクター杉浦“ラフィン”誠一郎氏と、エンジニア中山譲氏の辣腕によって、およそ1本のベースで録られたとは思えない音のバリエーションになっています。
実はこのベース、ボディはフェンダージャパンの入門用ジャズベ(木材はバスウッド)で、ネックはオーダーメイド品という歪な構成になっています。元々フェンジャパのジャズベはネックを部品取りする目的で入手し、ボディは完全に箪笥の肥やし状態だったのですが、「ワンマンライブやるしステージ映えする派手な楽器を持ってみるのもいいかな……」と思って大リペアを決意し、ネックをオーダーできる工房を探して埼玉の坂戸にある「ギタークラフトK-magic」というお店の門を叩いたのでした。(正確にはこれより前に一度お世話になってるのですが、その話はまた別の機会に)
K-magicの見事な仕事のおかげで、ネックはエボニー指板とカーボンロッドを備えた僕の手になじむシェイプになり、黒だったボディカラーはイカした金色にリフィニッシュされ、ピックアップはリンディ・フレーリン製のものに交換と、黙ってれば元がフェンジャパの入門モデルとは気付かれなさそうな仕上がりになりました。
それでも最初は「まあ軽いしライブとかで身体がラクになればいいな」程度の感覚で使っていたのですが、どこでどう聴いてもそれまで自分が持っていたベースの中で圧倒的に使いやすい音が出ることに気付き、瞬く間に僕のメイン機として重用するようになりました。
クリーンでもバンドの低域を担える音の厚みと、コードのルート感だけじゃなくオブリ的なフレーズを弾いても輪郭がぼやけない音の鋭さを両方持っているのは、うわもの楽器の少ない学園祭学園のベース担当としてはうってつけの特性といえるでしょう。その後も何本かベースを買ってはバンドの練習で使ってみるのですが、結局「困ったらコレ」的なポジションは揺るぐ気配がありません。
その後いろんな場所でガシガシ使い、ネックの反りや電装系にガタがきたのを契機に、現在もお世話になっている東十条の工房「birdcage」でオーバーホールをしてもらったおかげで今日も元気に鳴っています。birdcageのブログでは、この金色に限らず僕の楽器のリペア時の記事が時々アップされているので、機材フェチの人は読んでみると楽しいかもしれません。
敬愛するドラマーの内田稔氏が「楽器の価値は価格では決まらない」という旨のことを以前おっしゃっていましたが、僕にとってその言葉を実感する楽器がこいつです。明日からも末永くよろしくお願いします。