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【開催報告】「『出櫃(カミングアウト)―中国LGBTの叫び』映画上映会&監督アフタトーク」(2024/07/19)

 皆さんこんにちは!GSセンター学生スタッフ・ルーです。

 今回は2024年7月19日に開催したイベント「『出櫃(カミングアウト)―中国LGBTの叫び』映画上映会&監督アフタトーク」の開催報告をお届けします!ルーが観て、カミングアウトと親子関係について色々と感想を抱いた作品のため、今回はこの作品の上映と監督によるトークが実現し、とても感動しました。参加してくださった皆さん、誠にありがとうございました!

 参加したかったけれど他の用事があって参加できなかった方もいらっしゃるかもしれませんので、この開催報告をご覧いただいて当日の雰囲気を感じていただけたらと思います!



1.イベント概要

 みなさんは、中国のLGBTQ+事情についてどれぐらいご存知でしょうか?中国のLGBTQ+コミュニティについて、どんなイメージを持っていますか?

 このイベントを企画した学生スタッフのルーは、日本以外の東アジアの地域のLGBTQ+の生き様について学ぶ授業を受けた時、韓国や台湾の話はたくさん扱われますが、中国について言及されることはあまりない感じがしました。中国のLGBTQ+の人はどのような現状に置かれ、どのような生活をしているのかについて知る機会が必要だと思い、この上映会を企画しました。

 本イベントは、中国LGBTQ+のカミングアウトに関するドキュメンタリー映画『出櫃(カミングアウト)―中国LGBTの叫び』を通して、中国のLGBTQ+の現状について知るきっかけの提供を目的とし開催しました。映画の上映のあとに、監督の房満満さんをお招きするトークイベントも行いました。映画を製作した際の思いや中国のLGBTQ+の現状に関する話をしていただき、会場からのご質問に監督から答えていただきました。

2.イベントコンテンツ

①ドキュメンタリー映画の上映

 イベントの前半では、『出櫃(カミングアウト)―中国LGBTの叫び』の映画上映が行われました。中国のLGBTの人が親にカミングアウトするエピソードで、カミングアウトというテーマを子どもの視点だけでなく、親の視点も入れて描かれた作品でした。また、映画には同性愛に対する偏見や排除的な言説が登場人物からなされる場面が含まれているため、上映前に日本語と中国語でトリガー注意の説明を行いました。


②監督のアフタトーク


房満満監督の紹介

 イベント後半では、本作品の監督房満満様にゲストとしてご登壇いただき、司会の学生スタッフ・ルーが用意した映画の内容に関連している質問にお答えいただきました。

1つ目の質問

 ひとつ目の質問は「作品を作りたいと思ったきっかけ・作っていたときの思いについて」というものでした。監督がご自身がアライの立場でこの映画の製作を始めており、そのきっかけは会社のレズビアンの後輩だったと共有してくださいました。また、カミングアウトというテーマを扱う際に、特に親を子どもに相反する立場にいる「悪者」として描かないことを意識していたそうです。「親」対「子ども」という二元論的な視点に止まらず、カミングアウトというものの背後に隠れている愛憎、複雑な関係や感情をドキュメンタリーを通して表現したいという監督の思いがこの作品に含まれています。


2つ目の質問

 二つ目の質問は、映画の中に出た同性愛親友会という団体の活動内容について伺いました。映画撮影当時は「同性愛親友会」という名前でしたが、その後の数年間に名前の変更(今は「True Self 出色伙伴」という名前。ウェブサイトはこちらhttps://www.chuse8.com/)を経て、今でも中国の各地に支部があり活動を続けていると監督から教えていただきました。具体的な活動内容として、子どものジェンダーアイデンティティやセクシュアリティをまだ受け入れていない親の支援、それからカミングアウトするかどうか迷っている当事者の支援、それからアウティング被害などの法律的な相談も提供しているそうです。

3つ目の質問

 三つ目の質問は、映画に出演してくれた中国のLGBTQ+の当事者のお二人を取材することに決めた経緯について伺いました。監督によると、出演者のお二人は同性愛親友会を通じて取材させてくれる人を募集したところ、協力してくれた5名の中に入っていました。映画に収録されなかった3名に関して、うち2名は個人的な理由で出演を辞退し、残り1名は方言が強く、取材した映像にはスタッフが会話を理解できない部分があまりにも多いので字幕を作ることも難しく、最終的に映像を使用しないことを判断したそうです。

中国のトランスジェンダー当事者の
ドキュメンタリー映画『有性無別』

 四つ目の質問では、中国のトランスジェンダー当事者を取り巻く環境について伺いました。作品には含まれていませんが、中国のトランスジェンダー医療を提供する医療機関には治療を求めるトランスの若者とそれを止めようとする親が訪れてくると監督から共有していただきました。司会のルーも、補足として中国のトランスジェンダー当事者のドキュメンタリー『有性無別』(2016)について簡単に紹介しました。

③質疑応答

質疑応答のセッションでは、会場の皆さんからいただいた質問に房監督にお答えいただきました。


質問応答のときの房満満監督と司会のルー

 作品の中には親子関係に関する描写が多いため、それに関連する質問をたくさんいただきました。例えば、「父・母が受け入れてくれれば自分は幸せだ」、「親戚の間でのメンツはどうするんだ」という当事者である出演者の発言が印象に残り、中国社会における家族関係がLGBTQ+の受容に及ぼす影響について聞きたいという質問をいただきました。それに対し、中国は日本と比べて親子関係が強く、そして「結婚しないと(人生)終わり」といった社会通念があると監督からお答えいただきました。

 また、カミングアウトというテーマの取材を親にどのように説明し同意を取ったのかについて聞きたい方もいらっしゃいました。監督によると、出演者の安安さんの母は最初から取材の本当の目的が分かっていたようです。一方で、谷超さんの父には最初「息子さんの青春を記録したい」とだけ説明しました。その後本当の目的を知ったお父さんは映画の公開には反対していましたが、超さんが説得してくれて、公開できることになりました。ドキュメンタリーにおける「暴力性」や取材者と協力者の「共犯関係」について考えるきっかけとなるエピソードだったと監督から共有していただきました。

 最後に、LGBTQ+の表象の商業化についての監督の考えを聞きたい質問もありました。それに対し、行き過ぎた商業化は問題だが、中国のような社会状況中で商業だから許されることもある、と監督からお答えいただきました。LGBTQ+のことを知らない人の目に触れていくことは必要なので、こういうときに商業化された映像に果たせる役割もあるという意見をいただきました。

3.学スタ後記・感想

 ルーが2年前にGSセンターで「『クローゼット』について考える:カミングアウト戦略比較」というイベントを企画しました。イベントの報告記事にも書きましたが、2年前のこのイベントのきっかけも実は今回上映した房満満監督のこの作品でした。

 残念なことに、中国では医療機関と名乗る転向治療を実施している施設がいまだに存在し、LGBTQ+の子どもをこういうところへ送り込む親もまだ大勢います。また、この作品に示されたように、互いのことを人生の中のかけがえのない存在に思っていながら、ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティのことで理解し合うことができず、苦しむ親子もいます。

 ルーは2018年に親にカミングアウトしてから6年経ち、今年でようやくお母さんが受け入れてくれるようになりました。私はカミングアウトしてからの6年間のほとんどは日本で過ごしたので、お母さんの変化をあっという間に起きたものに感じたこともあります。

 しかし実際にお母さんとカミングアウトの後に考えてきたことについて話してみたら、お母さんが受け入れられるまでにつらい気持ちをたくさん抱いたことを知りました。周りに友人に「子どもがいつ結婚するの?」と聞かれ、本当のことを言えずに誤魔化すしかなかったり、クィアとして生きていくと決めたわたしの未来を心配したりすることはたくさんあったといいます。全く同じわけではないですが、お母さんの話を聞いて自分が経験してきたクィアとしてのつらさと似ていると思いました。クィアのわたしが自分を受け入れるまでに時間がかかったと同じように、お母さんにもきっとその時間が必要だったのです。

 どこでこれを聞いたのかよく覚えていないのですが、「LGBTQ+の子どもから親にカミングアウトするという行為は子どもをクローゼットから解放した同時に、親をクローゼットに閉じ込めるものでもある」という言葉がいまだに印象が残っています。クィアとしてのわたしは日本に来た後色々探して今所属しているコミュニティにたどり着き、自分らしさを保てるようになりました。いま振り返ってみたら、コミュニティの仲間やリソースに頼らずに自分一人で乗り越えられたとはあまり思いません。それはきっと、お母さんにとっても同じでしょうと最近強く思いました。そのため、作品の中に出た親子の支援を行う団体の存在は、本当にとても貴重に感じました。

 自分にとって大切な人にカミングアウトするかどうか、そしてする場合どのような形でするか、これらの質問には正解のようなものはきっとないし、今回上映した作品も「正解」を提示しようとしているわけではないと思います。ただ、映画を通して、大事な家族との繋がりを大切にしながら自分らしさを受け入れてもらうためにできることを知ることができたらと思います。そして、勇気を持って自分と向き合い、そしてその思いを自分にとって大切な人に共有するときに大変な気持ちになったら、無理せずに支援を行っている団体に繋がりましょう!

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!