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701号室

幼少の朧気な映像ではあるが、私は都会に移り住んだ時に初めて移り住んだのは、高層マンションの701号室だったと記憶している。
半分が今で言うサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)になっていて、よくご高齢の方とお話をしていたらしい。
そこまで土地柄は良くなかったが、幼少の私はお喋りが止まらなくて、誰にでも話しかけに行っていたそうだ。家を無くしている方にも、ガタイの良い外国の方にも。分け隔てなく笑顔で話しかけていたと。

先日ライブが終わった後、引越し作業に追われたりなんなりしていたら全くネタが書けなくなってしまった。元から書くのがてんでダメだけれど。

某チェーン店で気晴らしをしようと料理を待っていたら、隣が昼間から酔っ払って大声で話しているやや高齢のグループだった。ずっと気が立っていたので、なぜかまだ隔たれていたアクリル板越しに、うるせえ!と割と大きい声で言ってしまう位には、変に心身が追い込まれていた。

無事、店内丸ごと静かになり、酔っ払いも帰ったので私が一番「やばい」人間になった。別にそれ以降ノートと本とスマホを交互に見ている静かな、金髪が1人でにんじんサラダを食べているだけの状況が続いた。

やや居心地悪く読書をしていると、斜め前の女の子が手を振っている。

わたしに?

真っ白になりそうな程脱色された金髪で、先程急に大きい声で何か言っていた奴である。

何故かこちらが面食らってしまって、笑顔を作ってばいばいと手を振り返したら、黒目がちでまつ毛の長い女の子は、嬉しそうにばいばぁい!と手を振っている。3歳頃だろうか。幼少の私によく似ている気がした。無鉄砲さと、社交性。

私の机の前まで来て、ニコニコしていた。なぜだか泣きそうになった。祖父母に連れられてレジに行くまでこちらに手を振っていた。

上手く笑えなくなった最近の私の、少し微笑んだお話。

701号室に住んでいた頃見ていた世界と、大人になって歪んでしまった私の世界。手を繋いで店を出ていく女の子を眺めながら、珈琲を啜った。

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