【見解】リキッドワックスはベースワックスを溶かすのか?
結論的には、気にしなくて大丈夫と考えています。むしろ気にして使うことをやめて滑走面を劣化させる方が滑りも悪くなりますし、期待効果が得られないと考えます。
一番の誤解は、「スキーの板が滑るのはワックスを塗るから滑る」と考えていることだと思われます。板が滑るのは「ワックスが浸透した滑走面が滑る」のであって、ワックス自体が滑るというイメージが誤解を生じていると思います。
ワックスは車の塗装のようにコーティングして使っても滑りは発揮されません。良い状態の滑走面を維持することが良い滑走性を発揮します。なのでワックスを塗った後のブラッシングという作業が必要で、ツルツルに磨き上げることで高い滑走性を発揮します。
イメージとしてこれは近いものにはなりますが、冬の時期、手の甲が乾燥でかっさかさになりますよね。その状態で布に触れると引っ掛かりますよね。ですが、ハンドクリームを塗って保湿してあげれば、さらっさらに触れても滑らかに感じられます。
ですが、ハンドクリームも塗れば良いということはなく、塗りすぎたら今度はベトベトだし布を汚します。多からず少なからずのこのちょうど良い塗り加減が、最高のすべすべさらっさらの感触を味わえます。
この手の甲がスキーの滑走面で、ハンドクリームがワックスと想像してください。
そのハンドクリームと言えるワックス(=固形ワックス)が今までは知識や経験も必要で結構使い方が難しくて大変だったのですが、リキッドという便利なものが登場して気軽に塗ることができるようになった、というのが今の状況です。ですが、そのリキッドの成分が、ハンドクリームでいうところの手の甲の元々の油脂を溶かしてしまったり、分泌を損ねてしまうから使わない方が良いのでは?と思う話が今回の話と似ています。
確かに間違った使い方でハンドクリームを使っていたらより酷いことになる可能性も確かにありますが、正しく使えることが前提で、使わないでカッサカサの肌に使わないで、治療が必要なくらいひび割れなどおこる方が面倒は大きいと考えます。
この例えは対象が異なるので実際は違いがありますが、イメージとしてはそう間違ったものではないと思います。さっくりと今回の話を理解する場合、このような感じで間違いはないかな?と思います。
では、ここからは少し難しい話になります。
さて、まず滑走面と溶剤について。リキッドワックスはメーカーによって様々な溶剤と呼ばれるワックスを溶かす液体にワックスを溶かし、それを塗る、吹き付けるなどして程なく溶かしていた溶剤が乾いて板の表面にワックスが残ることでワックス塗布を速やかにしています。一般でいうアイロンを使ったホットワックスとの違いは、直接ワックスを塗布するか、間接的に塗布するかの違いです。
スキー板の滑走面に利用されているプラスティックはポリエチレンという素材で、この素材は表面にワックス(パラフィン)を浸透させると滑りが良くなることが知られているので、スキーでは当たり前のように使用されます。ただ単純にポリエチレンにワックスを浸透させることは難しく、基本的には熱を用いると簡単に浸透させられます。それがアイロンを使ったホットワックスで、固形のワックスを熱で溶かして液状にして付着させ、液状になったワックスが滑走面に染み込むことで浸透します。
そして浸透しなかった無駄なワックスをブラッシングなどで除去して浸透した滑走面を露出させて、気持ちの良い滑走性を体験できる。というのが、滑走面とワックスの仕組みです。
リキッドワックスはこの固形のワックスを液状にする変化を、熱ではなく溶剤を用いているだけです。溶剤に溶かすことで液状に近い状態で滑走面に触れさせて、溶剤が乾くまでの時間で浸透させます。
ここで一つ、リムーバーというものがあります。ワックスのクリーニングで使うもので、簡単にワックスを溶かしてくれて滑走面の余分なワックスを除去できます。リムーバーの仕組みはパラフィンがトルエンなどの炭化水素系溶媒に溶けやすい仕組みを利用しています。
この溶媒が滑走面を溶かすので、リムーバーを使うとせっかく頑張って仕上げた滑走面をワックスごと溶かして意味がなくなる。と思われていたことがあります。
実際は、例えばトルエンで滑走面を溶かすには温度(高温)が必要です。なので、リムーバーを使ったあとに十分乾燥した状態ならば影響はありませんが、乾いていないのにホットワックスをすると高温になって溶剤のせいで溶かしてしまう場合があります。この場合の溶け方はゲル状になるそうです。
また、リムーバーが根こそぎワックスを溶かして浮かしてしまうと思われていますが、実際はよほどどっぷり漬け込まないければ根こそぎ溶かしてしまうことはありません。一般的なリムーバーの使い方は吹き付けたり布にとって塗布して速やかに拭き取るので、染み込んで溶かし出す前に表面のクリーニングがなされてリムーバーは蒸発して影響を及ぼすことはほとんどありません。
先ほどの手の甲で例えるならば、手の甲にアルコール塗るとスーッとしてすぐに乾きますよね。塗りすぎたりそのまま放置すると荒れたりしますが、すぐに拭き取れば手にも残りませんし、綺麗にもしてくれます。
このリムーバーと同じ成分なのか違うのかはメーカーそれぞれなのでわかりませんが、リキッドワックスの溶剤はリムーバーとして使えるものではないと考えられます。なので原材料としては別のものが採用されているのでは?と考えるのが妥当です。
でなければ、使用方法として「クリーニング効果がある」と記載があると思われるからです。昔からあるスプレーワックスはこのリムーバーにワックスを溶かしているものが多く、実際に「クリーニングとワックスが同時にできる!」などと売り文句で売られていたことは、皆さんも記憶にあるのでは?このスプレーワックスはワックスを付着させるだけで、効果も全然持たない印象がありますが、リムーバーとしての効果が発揮されてワックス成分は浸透せずに滑走面に乗っかっているだけだからそりゃそうだよね、というところです。
こうしたスプレーワックスって、よーく使用方法見ると吹き付けた後に乾いたらコルクなどで擦るように指示されているんです。つまり、コルクで圧着しないとただリムーバーしただけの状態なので、そうなると半日くらいしか効果がないように感じられます。
これとリキッドワックスがどう違うの?というところですが、リキッドの肝はおそらくこの部分だと思います。溶剤については企業秘密もあると思うので調べられていませんが、おそらくポリエチレンに対して溶解性がない有機溶媒を採用しているのでは?とまず考えます。
そして塗布することで染み込むので、熱で液状にしているのか、溶剤で液状にしているかの違いで原理は近しいものになります。その後、ホットワックスでは余分なワックスが大量に残るのでスクレーピングやブラッシングではぎ取って仕上がった滑走面を露出させて滑りが発揮する、リキッドは余分なワックスがほとんど残らないので、フェルトなどで拭き取ってしまえばOK、というような使い方の違いになっていると思います。
最後に、ホットワックスとリキッドの併用について
ホットワックスは滑走面全体にしっかりとワックスを浸透させられるメリットがあります。リキッドは手軽ですが、ホットワックスほどしっかりと浸透させるのがちょっと苦手です。
なので、ベースとしてはホットワックスで浸透させておく方がムラなくワックスを浸透させて使いやすいのです。ワックスの浸透している層は表面のごくごく薄い表面だけなので、滑走すると削れたりして失われていきます。そうなっても都度塗り足していればワックス切れになることはありませんが、作業が面倒なホットワックスだと都度塗り足すのは本当に大変です。
さらに、ベースとしてホットワックスで仕上がっている板の方が、添加剤の含まれたリキッドワックスの効果が高くなる効能もあります。添加剤は表面に無いと全く意味がないものなので、滑走面に浸透させることはあまり意味がないのです。
他にも使い方が難しい低温度用の硬いホットワックスが楽にできるとか、状況にあわせたワックスチェンジが楽にできるなどのメリットがあるのがリキッドワックスです。スキーボードでは近年、従来よりもかなり良い滑走面を採用しているものも増えているので、その良さをより活かすためにもワックスをうまく利用して、快適なスキーライフを過ごしていただきたく思います。
というわけで最後に商売をw。GRではGRWAXとしてリキッドワックスを販売しています!
気になる方は試乗会で試用体験もできますので、ぜひお試しください!