見出し画像

英語教育@シンガポール

2023年のEF EPI英語能力指数ランキングで、シンガポールはアジアで1位、世界で2位を記録しました。シンガポールは英語圏と思われがちですが、実際に住んでみると、アメリカやイギリスとは全く異なる英語環境であることがわかります。例えば、タクシーの運転手には標準的な英語が通じないことがあったり、フレンチレストランでフランス人スタッフのフランス語訛りの英語が聞き取りにくかったりします。また、現地校の保護者会で標準的な英語を話す人に出会うと、それがあまりに珍しくて驚くこともあります。このように、シンガポールでは様々なバックグラウンドの人々が、それぞれ異なる種類の英語を使っており、必ずしも「正しい」英語環境とは言えません。だからこそ、英語が苦手な人でも暮らしやすく、発言しやすい環境であると感じています。

そんなシンガポールですが、現地校に通う日本人の子供たちは、小学校を卒業する頃には平均してCEFRのB2レベル(日本のスーパーグローバルスクールの高校卒業時に目指すレベルと同等)の英語力を自然に身につけています。そのため、親御さんたちは英検にすら興味を持っていないのではないでしょうか?街中では、ほとんどの現地の人々がシングリッシュ(標準英語ではない英語)を話しているのに、小学校1年生がアルファベットのなぞり書きから始めて、ここまでの差がつくのは不思議ではありませんか?ここでは、私なりに解釈したシンガポールの英語教育についてまとめてみたいと思います。

〈シンガポールの言語環境〉

シンガポールは、様々な人種、文化、宗教が尊重される国際国家として知られています。その文化背景を反映して、公用語は英語、中国語(マンダリン)、マレー語、タミール語の4つとされています。街を歩くと、様々な言語が飛び交っていますが、ビジネスの場や主要な商業施設では英語が主に使われており、ある程度英語を話せれば十分に生活できる環境です。1987年から義務教育で使用される言語も英語に変更され、現在、シンガポール政府管轄の全ての学校では、母語(Mother Tongue)や国民教育(Character & Citizenship Education)以外の全ての科目が英語で教えられています。

このような環境においても、実際には標準英語を日常的に使わない子供たちが多くいます。シンガポールで教育を受ける多くの子供たちが、シングリッシュや英語以外の公用語(中国語、マレー語、タミール語)、さらにはその他の主にアジア諸国の言語を生活言語として使っています。そのような子供たちのために構築され、時代とともにアップデートされてきたシンガポールの英語教育が、EF EPI英語能力指数ランキングでアジア1位という結果につながっているのではないでしょうか。

〈シンガポールの小学生レベルでの英語教育〉

シンガポールの教育省(MOE)のウェブサイトには、各教科のシラバス(授業概要)が詳細に掲載されています。シンガポールはこれまで急速に変化してきたため、各時代における国民教育のあり方を常にグローバルな視点で考え、シラバスのアップデートも細かく行われています。2024年には小学生の母語シラバスにもアップデートがありました。2020年の英語教科のシラバスに関する詳細な記述もありますので、興味のある方はぜひご覧ください。特に、シンガポールらしいアプローチが垣間見える興味深い箇所として、Section 2、Pg 14の最後の項目を紹介します。

”2. CONTENT: TEACHING AND LEARNING ENGLISH IN SINGAPORE

General Beliefs and Principles Underpinning the EL Curriculum Importance of Language and Literacy in the Curriculum
The key learning goal of the EL Syllabus 2020 at the primary level is for students to build a strong foundation in English and apply their knowledge, skills and strategies in order to use the language to good effect and to demonstrate learning and mastery. EL Syllabus 2020 continues to underscore the teaching of internationally acceptable English (standard English) as a common standard for every student in the classroom.
・Learning English in a multilingual context, like Singapore, is different from learning it in a monolingual or first language context. Within the context of a linguistically diverse and increasingly multiliterate learning environment in the Singapore classroom, teachers are encouraged to adopt a principled blend of first language (L1) and second language (L2) 14 methods to achieve a balance between systematic and explicit instruction, and a contextualised and holistic approach to teaching English.”
*引用ーhttps://www.moe.gov.sg/-/media/files/primary/2020-english-language-primary.pdf

【翻訳】

”2.内容: シンガポールにおける英語の教育と学習

英語カリキュラムの基礎となる一般的な信念と原則
カリキュラムにおける言語とリテラシーの重要性
2020年版英語(EL)シラバスの小学校レベルでの主な学習目標は、生徒が英語の強固な基礎を築き、その知識、スキル、および戦略を効果的に活用し、学習と習熟を示すことです。2020年版ELシラバスは、すべての生徒が教室で共通の基準として国際的に受け入れられている英語(標準英語)を学ぶことを引き続き強調しています。
・シンガポールのような多言語環境で英語を学ぶことは、単一言語環境や第一言語として英語を学ぶこととは異なります。
シンガポールの教室における言語的に多様で、ますます多リテラシー化する学習環境の中で、教師は第一言語(L1)と第二言語(L2)の指導法を組み合わせることが奨励されています。このことにより、体系的かつ明示的な指導と、文脈に合わせた全体的なアプローチのバランスをとりながら、英語を教えることが求められています。”

シンガポールの英語教育は、日本の国語授業で「ひらがなのなぞり書き」から始めるように、入学後最初の授業でABCのなぞり書きからスタートします。6年間を通して、語彙の継続的なインプットや文法など、基礎をしっかりと学んでいきます。国の政策により2022年度には学校での中間テストを全て取り除くことに変更され、試験頻度は以前より確実に減っていますが、小学校6年時に受験するPSLEと呼ばれる国家試験のためにワークシートも活発に使われます。ワークシートを用いた学習には、三択問題、穴埋め問題、書き換え問題などがあります。高学年になると、英作文の指導に力を入れ、ニュース記事や手紙、広告などを読み理解した上で自分の意見を述べる練習も行われます。

本を読む習慣を身につけさせるために、先生方や保護者が協力して図書館でイベントを開催したり、授業中にクラスで図書館を訪れる機会を増やしたりと、英語学習のためにさまざまな工夫がなされています。

子供たちへの個別サポートとしては、期末試験やスペリングテストなどを利用して、それぞれの子供の学習進度を定期的にチェックし、必要に応じて早期に対策が取られます。ほとんどの学校では、学習の進度が遅れている子供たちに対して、リメディアルと呼ばれる補修授業が無償で放課後に行われています。また、学習進度が進んでいる子供たちにもストレッチと呼ばれる補習授業が勧められることがあったりします。

上記の学習の成果として、どの程度の英語力がつくのでしょうか?私が主催するシンガポール現地校の日本人保護者コミュニティで収集したデータは限られたものですが、TOEFL(JrやiBTなど)を受けた現地校に通う日本人の子供3名のスコアを見ると、小学校高学年(5・6年生)の時点で全員がCEFRのB2判定(英検準1級・2級相当)を取得していました。例外もあるかもしれませんが、小学校卒業時までにこのレベルの英語力を身につけることができれば、中学・高校時代に自主的な学習が盛んになる時期には、子供たちの世界観が大きく広がることが予想されます。

日本は単一言語環境ですが、日本の学校で英語を教えている先生方や、自宅で英語教育を実践している親御さん方にも、このシラバスから学べる点があるのではないかと思い、情報をシェアさせていただきました。資料を参考にして、実践できそうな点をぜひ指導に取り入れてみてはいかがでしょうか?

シンガポールの英語教育の成功は、単に英語を教えるだけではなく、多言語環境における適切な指導方法やカリキュラムのアップデートに基づいています。日本でも、シンガポールの教育方針から学ぶことが多くあります。例えば、英語を単なる教科として学ぶのではなく、コミュニケーションのツールとして実践的に使用する機会を増やすことや、子供たちの多様なニーズに応じた個別指導の強化などが考えられます。シンガポールの事例を参考に、グローバルな視点での教育アプローチを取り入れることで、子供たちの英語力を飛躍的に向上させることができるでしょう。英語教育の未来を見据えた戦略的な取り組みを行うことで、子供たちの国際的なコミュニケーション能力を育成し、日本の教育全体の質を高めることが可能です。是非、これらの考え方を活かし、日本の教育現場で新たな一歩を踏み出してみてください。これらのアプローチを参考にし、日本の教育現場でも取り入れてみてはいかがでしょうか。子供たちの英語力向上に向けた新しい取り組みが、きっと実を結ぶことでしょう

#シンガポール英語教育 
#多言語教育
#国際教育
#英語学習
#グローバル人材
#シングリッシュ
#日本とシンガポール
#英語力向上
#多文化共生
#教育方法

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?