見出し画像

バンド仲間のワンマンライブ

 ギタリストには、バンド仲間がいた。それは、私の同級生となるTの昔の同級生でもあった。それぞれ違う高校に進学したが、元中学のメンバーで集まって既に精力的なバンド活動を行っていた。その精力的さ故に、既に地元ではファンベースが出来上がっており、数百名で一杯になるライブハウスはいつも満員に出来るくらいの固定客がいた。

 彼らのバンド名は忘れたが、「かまいたち」というバンドをカバーし、そのほかにも「デランジェ」というバンドをカバーするバンド仲間もいた。そういうバンドのネットワークに私達も新しいバンドとして仲間に入れてくれた。
 仲間が増えると、ライブをブッキングしやすくなる。ライブハウスお初のバンドがブッキングするのは、集客を見込めないため、ブッキング担当は嫌がるものだ。日本では、チケットのミニマムさえ払ってくれれば運営に支障はないので、関係ないかもしれないが、ライブハウスも人気バンドをより連れてくることで、知名度を上げ、もっと名の知れたバンドを数多くブッキングすることを望んでいる。

 そんな中で、私達は何のつてもなかった。この友人バンド一つのお陰で、様々なバンドが関係するライブやイベントには誘ってくれた。いつもライブハウスを満員に集客するバンド仲間は、ある時、多目的ホールをブッキングし、ワンマンライブを結構した。

 そこはライブハウスではもちろんなく、小さいサイズの体育館だ。そんな場所でライブを行うと聞いて、「マジで凄いな」と思った。私の頭に浮かび上がった映像は、ステージがあり、照明で照らされ、観客が満員のまま、暗い箱の中でバンドと一体になっている、そんな光景だった。私が夢見ていた光景だ。それを高校生が叶えてしまうんだから、これはただ事ではないと、只々感嘆した。

 ワンマンライブ当日、期待を膨らませて会場へ向かった。会場には、文化祭でいつも依頼するPAシステム、ミキサーなどの一連の機材が搬入され、客も列をなして開場時間を今か今かと待っているんだろうな、と胸が高鳴った。バンド当事者も、このワンマンライブ敢行の為に、チケットの手売りに大忙しだった。それに、私達のようにバンド始めたばかりのバンドが手売りをするより、既にそれなりのファンベースが出来ているバンドから手売りされるのでは、反応も違うんだろうなと感じていた。

 会場についた。そこは、市が運営する多目的施設の小体育館。しかし、列はできていない。もともとコンサートホールではないから、ライブハウスのような行列ができる程狭くもないか、と思いながらホールの方へと進んでいく。

 正直、その多目的ホール以外にあまり人はいなかったように思う。本当に彼らのライブだけのために開いているのかなと思う程。ついに会場に足を踏み入れる。何と言うことだろうか。そこに広がっていたのは、大きめのギターとベースのアンプ、そしてドラムにボーカル用のPAが置いてあるのみ。文化祭の時に来てくれる、ミキサー技師がいたかどうかは定かではない。ただ、うる覚えでモニターアンプがあったような気がする。だとすれば、小型のミキサーがステージサイドにあった可能性もある。

 会場に入って漸く我に返った。大袈裟に言っていたけど、全て手作りだったのかと。最初は、地元で知名度が大きくなりつつあったそのバンドに、目をかける人が出てきて、その人がお金を出してワンマンライブを依頼されていたのかと思っていた。
 そうではなかった。自分達で、多目的ホール運営元へ連絡し、場所を借りて、自分たちの機材を持ち込み、DIYでワンマンライブを作ったのだ。

 集客は、普段の彼らが集客するよりも多い集客だったと思う。ただ会場が広いため、スカスカに見えてしまう。会場も舞台照明のようなものがないため、ホール側の電気を消しているものの、ステージの電気はつけている状態。この状態だと、余計に観客席が見えてしまい、スカスカな空間が見えてしまい貧相に見えてしまっていたのは、何とも気の毒に思えた。

 とは言え、DIYですべてをやってみた行動力には感服する。何もない空間でライブを行うには、数多くの裏方の助けが必要となる。無論、そこにはそれぞれコストが掛かってくる。ライブハウスには、既に全てが備え付けられているので、手軽にライブができるということがこれで分かるだろう。

 例えば、日本武道館のような空間でライブを行うとすると、「ステージを組む業者」「音響レンタルの業者」「舞台照明の業者」「音響技師」「照明技師」「物販担当者」「物販作成」「警備員」「会場運営業者」全てを外注して初めてライブが行われるのだ。

 当日の売上は、「チケット」「物販」「フードベンダー」からの売上から、全ての業者への費用を支払い、残りをバンドのメンバーで等分したものが、メンバー一人の取り分となる。正直、殆ど手元には残らない。

いいなと思ったら応援しよう!