「#大切にしている教え」
「What does not kill you will make you stronger」。直訳すると「貴方を殺さないものは貴方を強くする」だろうか。私が大切にしている教えである。初めて聞いたのは20代半ばの頃、場所はアメリカ、ニューヨークだった。言った相手は当時の私の武芸の先輩。稽古後のことだったと記憶している。
当時、自分は独身の20代半ば、ニューヨークで仕事をしていた。日本で就職し一年後、会社の異動でアメリカに行く機会を得てのことだ。映画好きとしては常に大スクリーンで見ていた憧れの地で仕事をするのは大きなステップだった。JFK空港から市内に向かう際、マンハッタンが目に飛び込んできた時の感動は今でも忘れられない。
とは言え、日常生活から仕事まで、自分にとって知らない世界に飛び込むのはなかなか大変でもある。地下鉄のチケットすら満足に買えず、仕事では次から次へとトラブルが生じ、言葉と文化の壁を必死になって乗り越えようと無我夢中だった。そんな中、学生時代からやっていた武芸を異国の地でも再開しようと考え、道場を見つけて入門。様々な稽古仲間に恵まれる中、特に目をかけて可愛がってくれた先輩に言われたのが冒頭の言葉だった。
正直、最初の印象は「なんてアメリカ的マッチョイズムに溢れた言葉なのだろう」だった。しかしアメリカは日本と比べたら言った者勝ち、自己主張の国。様々な事柄が思う通りに行かない国で試行錯誤を重ねて生きる中、この言葉は次第に自分の中で座右の銘として根を張ることになった。
日本語でこれに近い言い回しだと「死ぬこと以外はかすり傷」だろうか。人生、楽しいこともあれば、辛いこともある、アンフェアに思うことも多々ある。そんな時に別にこれで自分の人生が終わる訳ではないし、これを経たら自分は人としてずっと強くなるだろうと思えるのは自分の心の拠り所としては悪くない。
ニューヨークでは10年間仕事をする機会を得て帰国。気がつけば結婚もして家庭も持ち、何度も転職をして、その都度新しい会社のみならず、新しい業界に飛び込んだりしてきた。自身のコンフォートゾーンを敢えて飛び出して新天地に飛び込むのはなかなか大変なこともあるが、そこから得られるものは大きい。視野は広くなるし、一つの業界や会社では常識だと思われていたことが外の世界ではそうではないということも日常茶飯事だ。
ただ当然、個人の置かれているライフステージによって優先順位は変わるし、いつも心身共にエネルギーがフルチャージとは限らない。手掛けていることがなかなか芽を出さなかったり、失敗したりすると、落ち込むことはある。そんな時にこの座右の銘は生きてくる。
と、そんな具合に「大切にしている教えや言葉」などの質問があった際に最初に頭に浮かぶのはこの言葉なのだが、実はアメリカ的マッチョイズムとは全く無関係の言葉であることを数年前に知った。
ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』という名作がある。1946年の本でナチスに捕まって強制収容所に送られて奇跡的に生還した著者の経験談。ずっと妻に勧められながら未読だったのだが、ある時、小学生の息子が先に読んでしまい、さすがに父親としては格好悪いなと思って後追いで読んでいたら本の最後の方で下記が出てきたのである。
先輩、ニーチェを引用していたのか。。。20年以上も経ってから学んだことである。
人生、日々、勉強。