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修論が国際学会ISBI2023に採択されたのでコロンビアのカルタヘナに行ってきた【1泊6日】

こんにちは、私は都内で機械学習エンジニア(新卒3年目)をやっている人間です。
このたび私の修士研究がISBI2023という医療系の国際学会に採択され、Oral発表の機会をいただいたので、南米コロンビアにあるカルタヘナという都市に行ってきました。

と、ここまで読んでいただいた方には既に3つほど疑問が浮かんだのではないかと思います。

  • カルタヘナ? どこそれ?

  • ISBIってあんまり聞いたことないけどどういう学会?

  • 社会人3年目で修論が学会に採択って時間軸どうなってるん?

この記事ではこれらの疑問に答えつつ、皆さんに「カルタヘナに行ってみたい」「ISBIってこんな学会なんだ」「自分も粘り強く論文出してみようかな」と思っていただけることを目指しています。

余談
私は以前卒論が画像認識のトップカンファレンスであるICCVに採択されたことがあり、今回のタイトルはそのときに書いた記事に寄せています。よければこちらもご覧ください。
卒論が国際学会ICCV2019に採択されたのでソウルに行ってきた

ISBIとは

学会サイト: https://2023.biomedicalimaging.org/

早速ですがまずISBIという学会について簡単に紹介します。
IEEE ISBI (International Symposium on Biomedical Imaging) は、ざっくり言うと医療画像に関する研究を扱う国際学会です。

医療画像認識を対象にした他の国際学会としてはMICCAIなどがよく知られていますし、画像認識や機械学習の文脈でNeurIPSCVPRといったトップカンファレンスにも医療系論文は多く提出されています。
ISBIはそれらと比較しておそらく日本での知名度は低く、ざっと検索しても採択実績がちらほらと引っかかる程度でした。
ただ、例えばこちらのサイトでImpact Scoreを調べてみると、特に医療系のいくつかの分野ではトップクラスの影響力があり、Computer Scienceの分野でもトップカンファレンスに次ぐ位置付けの学会であることが分かります。

https://research.com/conference/isbi-2022-ieee-international-symposium-on-biomedical-imaging より

これまでのISBIはイタリアのベニスやワシントンDCなどで開催されてきましたが、ちょうど20回目の開催にあたる今年のISBI2023は史上初めて南米での開催となりました。
ISBI2023は4/18 - 4/22の4日間に渡って開催され、現地参加とオンライン参加の両方が認められていました。プログラムには以下のようなものが含まれていて結構盛りだくさんです。

  • 採択論文の発表: Oral / Poster / Virtual Poster

  • Keynotes Talks: 著名な医師や研究者による講演

  • Clinical Day: 最新の治験等の意見交換の場

  • Industrial Day: 企業主導の説明会やコンペ

  • Challenge: 医療画像に関するタスクの性能を競うコンペ

参加した感想や現地の様子は後半で書いていきます。

今回の論文

続いて、私が発表した論文とはどんな内容なのか先に(ごく簡単に)紹介しておきます。こちらが論文のarXivリンクと実装のGithubコードです。

私が研究対象としていたのは病理画像という医療画像の一種で、細胞組織を切り出して染色し顕微鏡で拡大した画像です。病理医と呼ばれる医師が、この画像を精査してガンなどの病気の有無の最終的な診断を行う重要な役割を担っています。しかし、たくさんの画像を詳細にチェックする負担は大きく、病理医の人数も不足しているため、その診断プロセスをテクノロジーで補助したいと考え研究をしていました。

病理画像の例。
https://camelyon17.grand-challenge.org/Background/  より。

機械学習モデルを構築するためには、画像に対してたくさんのアノテーション(病気の有無などに関する正解ラベル)が必要ですが、正しくラベル付けするには医学的な専門知識と時間が必要で非常にコストが大きいです。今回の私の論文は、アノテーションのコストを下げつつ病気の診断性能を上げるための手法を提案しています(これ以上の説明はまた別の機会に…)。

採択までの道のり ~無限Submit編~

最初に述べた通り、私は普段機械学習系のエンジニアとして働いており、社会人博士をやっている訳でもありません。

ではなぜ社会人3年目にもなって論文が採択されたのかというと、ひとえに論文をSubmit(学会に提出)し続けていたからです。

始まりは修士2年の秋に遡ります。
私は修士論文のための研究をしている当時から、研究の成果を何らかの国際学会に出したいと考えていました。できれば在学中に論文を出したかったので、ターゲットをCVPR2021(2020年10月締切)にしました。こちらは画像認識に関するトップカンファレンスの一つで非常にレベルの高い学会ですが、チャレンジする価値はあると考えていました。

なんとか論文化できそうな成果が出てきたので秋頃に論文を書き上げてSubmitしました。しかし結果は残念ながらReject(不採択)。ただReviewerからのコメントはそこまでひどくはなかったので、もう少し内容を洗練させれば別の学会で採択の見込みはあるかもと思いました。

そこで次のターゲットとしてICCV2021(2021年3月締切)を選びました。2月頭ごろに修論自体の提出が概ね終わり、10月の時点から手法的な進展もあったので、秋に書いた論文を追加編集してSubmitしました。しかし、残念ながらこちらもReject。むしろCVPRよりもReviewerの反応は悪く、厳しい気持ちになりました。

2度のRejectを食らったものの、せっかく論文を書いたので何かしらの学会に出して成仏させたいとは思っていました。ただ、ICCVのReject通知を受け取った時点で私は既に就職していました。
普通ならこのままお蔵入りしてしまうところですが、私は「本腰入れて研究し続けるのは難しいが、既に書いていた論文を少し編集して別の学会にSubmitする程度ならできるかも」と思いました。研究室の先生方も、せっかくなら論文のAcceptを目指して欲しいとこの方針に同意してくださりました。

その後WACV2022(2021年8月締切)、MICCAI2022(2022年3月締切)、MICCAI2022 Workshop(2022年6月締切)に出したのですが、全てRejectされました。そして何度目の正直か、ISBI2023(2022年11月締切)に提出し、見事Acceptされたのです。

既に論文を書いていたとはいえ、それぞれの学会で論文のページ数やフォーマットが違うので、出すたびに色々と修正を入れる必要がありました。また手法自体はほとんど変更していませんが、最初に書いてから時間が経っているので引用文献や関連研究のパートは必要に応じて多少アップデートしました。さらに、MICCAIやISBIはページ制限が厳しいかつ医療系の学会なので、実験の内容を病理画像データに限定し他の実験を削ってAppendixに置いたりしました。

こんなに何度もRejectされているのは誉められたものではありませんが、複数回Submitした結果ようやくAcceptされたことでなんとか成果を世に出すことができ、今までの研究が報われた気がしました。何より、卒業した後にも関わらず何度も学会に論文を出すことを支援して下さった寛大な研究室の皆さんには非常に感謝しています。

採択が決まったら ~渡航準備編~

現地参加、する?

このように紆余曲折があった後無事論文が採択されたということで、論文発表に関する準備が始まります。ただ、そこで私はあることに気づきました。

「会場、カルタヘナ?」

採択されるまではほとんど気にしていませんでしたが、どうやら会場はコロンビアのようです。
実はカルタヘナという地名に聞き覚えがありました。私は以前世界遺産検定を取得したことがあるのですが、カルタヘナは街が世界遺産に登録されており、勉強中に目にしていたのです。まさかこんなところで知識が活かされるとは。

ただ、街の名前を知っていたからといってカルタヘナが遠いことには変わりありません。 私は南米はおろかアメリカ大陸に行ったことがなく(海外旅行もソウルに行ったことがあるだけ)、5時間以上飛行機に乗って地球の裏側まで行くような経験が皆無でした。さらにコロンビアと聞くとあまり治安がいいイメージがなかった(カルタヘナは比較的治安が良いが、エリアによってはかなり悪い)ので、そちらも多少不安でした。

ISBI2023は近年のパンデミックの影響もあり、現地参加とオンライン参加が両方認められているハイブリッド形式でした。
無難にオンライン参加することも考えましたが、研究室時代に医療系の研究でお世話になった先生(Kさんと呼びます)も一緒に行くといってくださったので、まあ2人いれば何とかなるかと思い現地参加することにしました。
また、学会参加ということで渡航費用や宿泊費用は研究室に出していただけることになり、「自分なら一生行かないような南米の都市に自費負担なく行けるのは貴重な経験だな」と思ったのも現地参加を決めた大きな理由でした。学会への現地参加は論文を書くモチベーションにもなりますよね。

発表準備あれこれ

論文採択が決まったらまずCamera ready(提出する論文の確定版)を作成しました。こちらは査読用に出したものからほぼ変更がなかったのですが、提出の際に現地参加かオンラインかを表明する必要がありました。現地参加の場合は発表形式がOral発表とPoster発表のどちらか、オンライン参加の場合は全員Poster発表に割り振られるとのことでした。

Oral発表では発表者が10分の論文説明スライドを作って聴衆に向けて口頭で発表します。一方Poster発表では発表者が論文に関するA0サイズのポスターを作って前に立ち、訪れた参加者にその場で説明したり質問に答えたりします。

意を決して現地参加を表明した後、しばらくしてOral発表に割り振られたという連絡が来ました。以前参加したICCVではPoster発表だったのでOralに割り当てられたのは嬉しかったです。また発表日程は19日の午後でした。到着した日の夕方に早めに発表が終われば残りの日程を気楽に過ごせることになるので、ベストな時間に割り当ててもらえたと思います。

今回のISBIにはオンライン参加用のVirtual Platformというものがあり、Oral発表のスライドに加えて、そちらで表示するVirtual PosterTeaser Video(2分くらいで簡単に研究を紹介するビデオ)を提出することを推奨されていました。
Oral発表が確定したのは学会の1ヶ月ほど前でスケジュールがタイトだったので、これらの資料(英語)を仕事終わりや土日を使って急ピッチで準備しました。Kさんにもスライドの添削などに協力していただきました。なお、スライドは学会の2週間前くらいが提出締切でそれ以降編集できなさそうだったので、スライドだけ確定して原稿にはその後練習しながら修正を加え、当日は原稿を印刷して持ち込みました。

渡航準備あれこれ

発表準備と並行して、まず飛行機を取りました。
United Airlineの系列で揃えたところ、以下のような日程になりました。

  • 行き

    • 羽田(HND)→ ロサンゼルス(LAX): 10h

    • ロサンゼルス(LAX)→ パナマ(PTY): 6h24m

    • パナマ(PTY)→ カルタヘナ(CTG): 1h10m

  • 帰り

    • カルタヘナ(CTG)→ ボゴタ(BOG): 1h30m

    • ボゴタ(BOG)→ ヒューストン(IAH): 5h10m

    • ヒューストン(IAH)→ 羽田(HND): 13h50m

地図で書くとこんな感じ。

赤が行き、青が帰り

さらに日程表にするとこんな感じ。

日本時間とアメリカ時間の比較。6日間の日程の中で2回しか宿で寝れない。


お分かりの通り、日本時間の18日夜から出発して23日夕方に帰ってくる2泊6日(!)の旅です。
せっかく南米まで行くのでもう少し滞在したかったですが、お金を出していただいている身分なので全て受け入れます。

海外旅行の手続きとして、アメリカ入国の際にESTA(エスタ)を申請する必要がありました。またコロンビア入国の際にはCheck-Migというサイトから情報を入力する必要がありました。このあたりは航空券を取った後Webサイトの案内に沿って手続きしました。

先に述べたように、私はコロンビアどころかアメリカ大陸に渡ったことすらなかったので、南米での生活や長距離のフライトにはかなり不安がありました。盗難防止のセキュリティーポーチ、お腹を壊したとき用の整腸薬、飛行機で読む文庫本、もしもの時の日本食など、やたら色々スーツケースに詰め込みました(ほとんど実際は使わなかったですが…)。

カルタヘナへの旅 ~紀行文編~

羽田からの出発

いよいよ出発当日!
早めに仕事を切り上げて夜7時に羽田でKさんと合流しました。

コロンビアの通貨はコロンビアペソですが、日本円と直接交換するのは厳しそうだったので、とりあえず空港で2万円ほどドルに替えました(大体の支払いはクレジットでできると聞いていたので半分保険のつもり)。

チェックイン等を済ませ夕飯を食べようとしましたが、出国した後のエリアにある店は既にだいたい閉まっていたので、見つけたセブンで軽くサンドイッチだけ食べました。そして21時過ぎにいよいよ搭乗。10時間のフライトは初めてなのでさすがに少し緊張します。

海外旅行経験豊富な知人から事前に聞いたところによると、出発から1、2時間くらい経つと機内食が出てきて、食後にはハーゲンダッツが配られるとのこと。機内食が出るようなフライト自体が初めてだったので、旅行者気分で長期間のフライトを楽しんでいました。

ところで、飛行機の座席の前にはモニターがあって映画などがみられますが、「フライトマップ」というのを開くと飛行機の運行経路や現在地が見えて楽しいです。
自分はその画面をつけたまま機内食を食べていたのですが、気づいたらなぜかロサンゼルスへ飛んでいた飛行機の目的地が羽田になっていて、飛行機も羽田の方向へ進んでいるように見えます。モニターの異常か、自分が変なボタンを押してしまったのか、しばらく見ていても元の航路に戻らないので、諦めて画面を消して、これから配られるであろうハーゲンダッツに意識を集中させていました。

しかし、その10分ほど後、機長からアナウンスが。

「誤って積む予定ではない荷物を積んでしまったことが分かったため、保安上の理由により一度この飛行機は羽田に引き返します。」

???

ざわつく機内。その後繰り返される英語のアナウンスで状況を理解しざわつく隣の外国人。

もう2時間も飛んだのにこれから羽田に引き返す?一つの荷物の積み間違えで数百人の乗客が引き返す必要があるのか?ベンサムが機長だったら間違いなくこのままロサンゼルスに向かうだろう…などといったことが頭に浮かびました。ですが詳しい事情は分かりませんし、おそらく法律上の問題などもあるのでしょう。どのみち空の上にいる我々にはどうすることもできないのでその判断に従うしかありません。

ジェレミ・ベンサム
功利主義の提唱者で「最大多数の最大幸福」を目指した

問題は次の乗り換えや学会発表に間に合うかどうかですが、今はなんとも言えないのでとりあえず次の出発を待とうという話に。
その後結局ハーゲンダッツは配られませんでした…

羽田からの出発リターンズ

羽田に戻ったのは日付を超えた深夜2時。一旦飛行機を降りてくださいとのことだったので全く同じロビーに帰ってきました。荷物の積み間違いとなると、1時間なのか3時間なのか、一体どれくらいで再出発できるのか分かりません。とりあえず待たされる乗客たち。うとうとしながら待っていると、午前4時ごろアナウンスが。

「再出発の情報は朝8時にお伝えします。」

朝8時!だいぶ先!学会に間に合わなさそうな雰囲気になってきて絶望感が高まりましたが、Kさんと相談して8時まではとりあえず待とうということになりました。一人だったら途方に暮れてもう家に帰っていたかもしれません。ありがとうKさん。

羽田で仮眠をとって迎えた8時。空港スタッフの方と話し込んでいる外国人もいるので、皆情報を待ちわびているようです。待っていると再度アナウンスが。

「再出発は午後2時になりました。」

ワオ!さらに6時間後!

その後空港スタッフの方と相談した結果、ロサンゼルス到着後は当初の予定のちょうど1日遅れの便に乗るのが最も良さそうという結論になり、カルタヘナへの到着が丸一日遅れることが確定しました。
初日に予定されていた学会発表には明らかに間に合いません。急ぎ学会のProgram Chair(学会プログラムの責任者)の方にメールを送ると、しばらくして返信があり金曜日の午前中のセッションに発表を移動していただけることになりました。学会の運営の方に感謝…

まとめると、日程はこうなりました。当初の予定と比較してみましょう。

当初の日程と変更後の日程
1泊6日の日程が爆誕

ちょうど到着が一日遅れたことによって、カルタヘナへの滞在日数が2日になり、1泊6日の日程が爆誕しました。現地での貴重な二泊のうち一泊分のベッドは羽田空港の椅子に変わったのです。

19日の夜にはコロンビアの伝統的なダンスを鑑賞する学会イベントがあったのですが、それも消し飛んでしまいました。残念…

学会サイトより、ダンスイベントの紹介
さようなら、全てのコロンビアンダンサー

辿り着いたロサンゼルス

そして永遠とも思われた時間の後、ついに午後2時を迎えました。ようやく出発できるんだという安堵と、もう何も起こらないでくれと祈るような気持ちを胸に飛行機に乗り込みました。見たところほとんどの乗客が変わらず搭乗しており、引き返すことを知って驚いていた隣の外国人とも再会しました。

その後飛行機は離陸、大きな問題なく太平洋を横断し、着実にロサンゼルスに近づいていきました。そしてついにロサンゼルス国際空港(LAX)に到着。まだ全く現地(コロンビア)に着いていないにも関わらず、何かを成し遂げたような感動と達成感がありました。それは隣の外国人も同じだったようで、友人に対して "We made it! We made it!" と繰り返していました。

万難を排してついに初めて新大陸に到達
コロンブスもまさに同じような気持ちだっただろう

さて、旅行日程をよく見ていただくとわかるのですが、飛行機の時間が変わったことで、元々7時間だったロサンゼルスでのトランジットの予定が13時間に変わりました。7時間だと空港内に留まっていた方が安心なのですが、さすがに13時間あるならちょっとはロサンゼルス観光をしてもいいだろうということで、街に出ることにしました。厳しい経験をしたのでこれくらいは許していただきたい。

LAXからロサンゼルスの市街地まではシャトルバスが出ているので、バスでまずターミナル駅のUnion Stationに行きました。ロサンゼルスではUberタクシーが発達しており、その後はUberで移動しました。場所間の移動で計3回ほどUberを使いましたが、すぐ来てくれて支払いもオンラインで完結するので楽でよかったです(なお渋滞だとなかなか来ない)。

観光に繰り出す前に、ここしばらく風呂に入っていないことに気がつきました。コロンビアの宿に行けるのはまだしばらく先ですし、このあたりで一度シャワーを浴びておきたいところ。空港のラウンジを使う手もありましたが、以下の記事でも紹介されている韓国式銭湯のWi SPAという施設が行けそうな距離にあったので利用しました。まさかロサンゼルスで銭湯に入るとは思いませんでしたが快適でよかったです。

リフレッシュしたところで、ロサンゼルス観光の定番であるハリウッドエリアに行きました。山に設置された"HOLLYWOOD"オブジェを見たり、アカデミー賞会場のドルビーシアターを見たりしましたが、ど定番過ぎて特筆することがないので詳細は割愛します。

マイケルジャクソンの手形を見て喜ぶ私

あと、知人に事前に勧められていた、アメリカ西海岸周辺にしかないハンバーガーチェーンであるIn-N-Out Burgerに行きました。ポテトはちょっと硬めに感じましたが、バーガーは適度にヘルシーで美味しかったです。地元の人でかなり混雑していた一方で観光客も多く、日本人の方も見かけました。

In-N-Out Burgerのチーズバーガー
ハリウッドエリアにあった

渋滞で飛行機に乗れないとまずいので、ハリウッドエリアを見た後は早めに空港に帰り、夕食でPanda Expressの中華を食べました。そして22時過ぎにパナマ行きの飛行機に搭乗しました。もはや飛行機が予定通り飛んでくれれば他に何も要らないと感じられるマインドになっています。

パナマ、そしてカルタヘナへ

6時間ほどのフライトの後、早朝にパナマのトクメン国際空港(PTY)に到達しました。到達直前に朝焼けの中にパナマ運河が見えたのですが、まさに絶景でした。

奥にパナマ運河があり、その手前で船が順番待ちしている

トクメン国際空港は非常に大きな空港で、乗り換え時間が40分しかなかったのでやや不安でしたが、実際は10分ほどで次の出発ターミナルへ移動できました。パナマからカルタヘナへは1時間ほどの飛行なので出発ターミナルは国内線のような雰囲気で、突然ローカル感が増しました。具体的に言うと、周りの人が皆スペイン語を喋り始めました。

その後すぐにパナマを出発し、ついにカルタヘナのラファエル・ヌニェス国際空港(CTG)に着きました。最初に羽田を出てからおよそ49時間。とうとうやり遂げたのです(まだ何もやり遂げていない)。

カルタヘナ到着直前の景色
ちょうど画面中央あたりに学会会場がある

国際空港、と言っている割にはかなりローカル感溢れる空港でした。具体的には、私の地元の鳥取砂丘コナン空港と同じくらいの規模感に見えました。
そして初めてコロンビアの地を踏んだ私の感想は

「暑!」

でした。というのもコロンビアは赤道直下にあり、カルタヘナの気温は年中ほとんど30度付近で一定なのです。体感だと急に梅雨明けの日本に連れてこられたような感じでした(海沿いなので湿度もまあまあ高く日差しは強烈です)。

©WeatherSpark.com より

ちなみに空港の入国レーンに並んでいると、スタッフのおじさんに「ミニョー、ミニョー!」と言いながら別のレーンを指差されました。結局よく分からなくてそちらのレーンには行かなかったのですが、後で考えたらどうもmenor(未成年)のレーンの話をしていたらしく、私の見た目が幼いために勘違いされたようでした…

空港で50ドルをコロンビアペソに両替したあと、タクシーでホテルに向かいました。コロンビアの人は総じて運転が荒いようで、めちゃくちゃクラクションを鳴らしたり、車の横をバイクが自由自在に追い越したりしていました。なんなら信号待ちをしてる目の前で車が軽く追突していて(事故!)ちょっと不安な気持ちになりました。

宿に向かうタクシーからの風景
カラフルな街並みが綺麗

15分くらいタクシーに乗るとついに宿に到着しました。宿泊したのはGHL Arsenal Hotelというホテルで、学会会場の目の前にあります。到着したのが9時ごろで、屋上でまだ朝食が食べられるとのことだったので食べに行きました。屋上は非常に眺めのいいところで、開放的なテラスで爽やかに朝食を食べることができました。
メニューはパンの種類がかなり豊富で、それ以外にもたくさんの種類のフルーツジュースやタコスなどがありました。想像していたよりどれも美味しかったです。

屋上の朝食会場でいろいろなパンをいただく

朝食のあと部屋に戻って念願のシャワーを浴びました。ここでようやく長旅から解放され、一息つくことができました(ちなみにシャワールームには仕切りがなくて脱衣スペースが浸水しましたが)。

学会の様子

ようやく宿に着いたとはいえ、我々には2日間しか残されていません。一息ついたらすぐに学会会場に向かいました。
学会の会場はカルタヘナの中心部にあるCartagena Convention Centerです。
こちらのサイトからバーチャルツアーもできるみたいなので興味があれば是非。

ここからは学会の様子を少しレポートします。

私が参加したのは主に論文のPoster発表とOral発表、そして招待された研究者が講演を行うSpecial Sessionでした。

こちらより、学会のスケジュール(最終日)

Poster発表では、大きな会場をぐるっと囲むように所狭しとポスターが並べられ、いくつかの時間帯に区切って著者が発表していました。発表と言ってもポスターの前に立っておき、自由に歩き回っている他の参加者が来たときに受け答えをするスタイルなのですが、割とどのポスターも著者と参加者が議論していることが多かったので、基本的に賑わっていたと思います。ポスターを見ていると、自分のテーマと同じ病理画像を扱う研究もかなりあり、医療系では変わらずホットなトピックであることを実感しました。

ポスターを見ている最中、九州大学から参加されている先生にお会いして少しお話ししました(先生の研究室からはPoster発表以外にもOral発表が2件あるということでとても凄い)。日本から参加されているのはほぼ我々と先生の2組だけだったように思います。

Oral発表については、トピックごとに複数の部屋に分かれて、参加者が順に発表していきます。一人あたり発表10分、質疑5分で、1セッションあたり4〜6個の発表が行われるスタイルでした。各セッションのトピックは、病理(Pathology)や、MRIで撮影した画像に関するセッション(MRI)、CTで撮影した画像に関するセッション(CT)などで括られていました。私は病理トピック等興味のあるセッションを都度選んで聴講しました。

Oral発表の様子

また金曜に、Special Sessionの一つである"Machine Learning in Medical Imaging"を聴きました。こちらは15分ずつ程の内容を6人が喋るオムニバス形式で、現地とオンラインの発表が混ざっていました。例えば「頭のMRI画像から脳の領域の境界線を素早く判定する研究」のようなかなり医療ドメインに特化したものから、「一般画像で学習したCNNがなぜ医療画像でも有効なのか、モデルフィルタの重みの分布を可視化して調べる研究」のように、画像認識の視点が強い内容まで様々あって興味深かったです。

その他、学会の合間にはCoffee Breakとして軽食やケーキ、ドリンクが配られる時間がありました。ドリンクはよく分からないフルーツジュースが4種類くらい並んでいて、コロンビアはフルーツが豊富なんだろうなと分かりました。
学会全体として参加者の人数もちょうど良く、わりとゆったりとした雰囲気だったなと思います。

自分の発表

自分の発表は本来水曜午後のセッション(Oral 6: Pathology)に予定されていましたが、到着日が遅れたことで金曜日の13時頃(Oral 17: RGB)に移動してもらいました。RGBというのはそのままRGB画像のことで、MRIやCTの画像に対して一般的な画像のことを言っているようです。病理画像も一応RGB画像なのでそこに滑り込ませてもらったのだと思います。

到着日の夜は夕飯を食べた後に疲労が溜まり過ぎて死んだように寝てしまったので、結果的に発表が翌日の昼になったことで、ゆとりを持って発表準備できてよかったと思います。

到着した日の夜にレストランで食べた、
魚のフリッターの魚が芋になったような料理

翌日の発表セッションの開始時刻になって会場に行き、まずChair Person(司会)の方々と挨拶をしたあとスライドのテストなどをしました。チェアの方から「絶対に10分で終わってね」と釘を刺されたのですが、その言葉の通り発表はかなり時間厳守で行われ、ほぼスケジュール通り進行していきました。

自分がやや不安を感じていたのは発表の後の質疑応答の部分でした。発表は時間を守って原稿通り読めば良いですが、質疑はその場で英語で行わないといけません。ここ数年毎朝英会話をやってはいるものの、その会話相手はほぼフィリピン人なので、現地のスペイン語訛りのある英語はあまり耳馴染みがありませんでした。チェアの方の英語は自分的に比較的聞き取りやすい発音だったのですが、聴衆の方からの質問はちゃんと聞き取れるか不安でした。

そして発表の順番が回ってきました。他の発表者の方はほとんど原稿を持っていなかったのですが、自分はそんなことを言ってられないのでガッツリ原稿を持ち込んで読みました。話す内容が多くて10分ギリギリだったのもあり後半やや急いでしまった感はありますが、なんとか無事発表を終えました。

そして質疑応答。何人の方かが手を上げて質問してくださいました。心配していた受け答えについては、全部聞き取れた訳ではなかったんですがなんとか文意を汲み取って応答できたかなと思います。
これにて、コロンビアに来た真の目的を果たすことができました。

セッションが終わった後何人かの方が"Nice Presentation!"と声をかけてくださって嬉しかったです。特に、自分の前に発表したメキシコ人の研究者の方が近づいて来て、"Good Job!"といいながらメキシコのお菓子を渡してくれたのが面白かったです(他のスタッフや発表者にも配っていた)。

カルタヘナ観光

学会には2日間を通して参加しましたが、せっかく来たので学会の合間にカルタヘナ観光もしました。

そもそもカルタヘナってどんな街なのかについて(今更ですが)少し説明します。
カルタヘナはコロンビアでは首都ボゴタなどに次ぐ第5の都市(人口100万人ほど)で、カリブ海に面する港町です。古くからの街並みや史跡が残るコロンビア随一の観光地として知られていて(日本で言うと京都もしくは横浜のようなイメージ?)、他の地域に比べて比較的治安が良いようです。

カルタヘナ、ポパの丘からの眺め
https://www.oooh.jp/magazine/spot_colombia/ より

カルタヘナは16世紀にスペイン人が建設し、南米の金や銀、もしくは奴隷を輸送する重要な港になりました。その結果カリブの海賊に狙われて何度も襲撃されたので、それに抵抗するため巨大な城壁や要塞が築かれました。サンフェリペ要塞をはじめとする石造りの要塞群や、旧市街の教会などは1984年に世界遺産に登録されています(コロンビアで最初に登録された世界遺産でもあります)。

カルタヘナの街の構造はおもしろく、まず沿岸に城壁で囲まれた旧市街があります。このエリアは古い街並みを残していて、いかにも観光地という感じです。学会会場や泊まったホテルもこのエリアにあります。
そこから海にせり出ている砂嘴(?)があるのですが、そこは所狭しと高層ビルが立ち並ぶボカグランデと呼ばれるエリアで、一気に最先端のリゾート地へ変わります。さらに船で30分ほど沖に出ると、海に浮かぶリゾート地であるロサリオ諸島もあります。
逆に旧市街から内陸側に進むと人が多く居住しているエリアになっていきます(治安もだんだん怪しくなっていくらしい)。

旧市街と高層ビル群の対比が面白いカルタヘナの地図
ベースにYahoo地図を使っています

私は主に旧市街エリアとサンフェリペ要塞を巡りました。本当はポパの丘やボカグランデにも行きたかったのですが、そこまで時間がなかったことに加え、日中あまりにも暑過ぎて外を歩いていると命の危険を感じ、あまり遠くまでは行けませんでした。ただそれでも十分カルタヘナの雰囲気や魅力を感じることができたと思います。
ここからは私が撮影したギャラリーをお楽しみください(?)

カルタヘナを代表する巨大な城、サンフェリペ要塞
入場料は1000円くらい
要塞の中は無数に通路(トンネル)があって面白かった
サンフェリペ要塞の頂上からの景色
湾の向こうにボカグランデのビル群が見える
旧市街の入り口にあるクロックタワー
タワーの下の空間で帽子やフルーツを
売っている人がたくさんいた
旧市街の名所、サントドミンゴ広場
広場というほど広くはないが、カフェなどもあって賑わっている
夜はさらに賑わうらしいが、治安がちょっと不安なので遠慮した
広場の横にあり、名前の由来になっているサントドミンゴ教会
広い空間のわりに、人はまばらにいる程度
あまりに外が暑いのでちょうどいい休憩エリアにもなる
旧市街のカラフルな街並み。南米っぽい
民族衣装を着てフルーツを頭に乗せながら
歩いている女性をよく見かけた
旧市街の城壁からの眺め
海賊から街を守るために大砲が配置されている

また余談ですが、泊まっていた宿の屋上にプールがあって眺めが驚くほど絶景でした。さすがに少し泳ぎました。泳いだプールで自撮りをしたら、後で写真を見た人から「成金みたい」と言われました。

宿のプールからの眺め

ヒューストン、そして羽田へ

帰りの飛行機は金曜の夜の予定だったので、17:30に学会のプログラムが終わるとタクシーで空港へ向かいました。

さすがにコロンビアに取り残されたくはないので「帰りは何もトラブルなく帰らせてくれよ」と願いながら待っていたのですが、搭乗手続きの際に窓口の方から「ESTAの証明書を提出してくれますか」と言われました。ESTAは先に述べたようにアメリカ入国に必要な書類で、事前に申請しておけばその場で見せる必要はないと思っていたので「証明書はないですが申請は通っています」と伝えました。
しかし窓口の人は「いや、証明書が必要です」と言います。証明書のようなものをそもそも受け取った記憶がないので手続き関連の画面を見せましたが、 "I can't read Japanese, Sorry (強い口調で)" と言われていっこうに進みません。
これは飛行機に乗れないのでは?とさすがに焦りましたが、英語でESTAの申請状況を表示できるサイトを発見し、それを見せて事なきを得ました(これがなかったらどうなっていたんだろう…)。

そうして無事飛行機に乗って1時間ほどでボゴタのエルドラド国際空港(BOG)に到着し、数時間後にヒューストン行きの飛行機に乗りました。
この時、自分がうっかりして手荷物タグの控えを無くしてしまい、搭乗手続きの時にボゴタのスタッフの方に「手荷物札がなかったらどうやって荷物を受け取るんですか?」と詰められました。あと、保安検査場を通過した後で水を買ったのに、飛行機に乗る直前でもう一回抜き打ち手荷物検査があり、買ったばかりの水を無情にも没収されました…。

そんなこんながあって6時間ほどのフライトの後ヒューストンのジュージ・ブッシュ・インターコンチネンタル国際空港(IAH)に到着しました。ヒューストンではトランジットが6時間ほどだったので、外には出ず空港で過ごしました。私はヒューストンで免税品を買って帰ろうかなと思っていたのですが、思いのほか商品の種類が少なくて結局何も買いませんでした(ヒューストンといえばNASAグッズもありましたが、別に現地を旅行したわけでもないので特に買わず)。コロンビアでもほぼお土産を買わなかったので結局めちゃくちゃドルが余りました。

現地時間の昼頃に飛行機に乗り、13時間の長いフライトを経てついに羽田へ帰還しました。余談ですがここでも私の見た目が幼すぎるせいで、ANA機内でドリンクを聞かれた際アルコールを頼んだら「失礼ですがおいくつですか?」と聞かれました。
行きに比べれば帰りはかなりあっさりでしたが、日本に帰ってきた瞬間はとても安心しました。

地球の裏側への旅ということで当初は時差ボケを心配していたのですが、旅のほとんどが飛行機での寝泊まりだったことと、現地滞在が2日だけだったことで、驚くほど時差ボケの影響を感じませんでした(生活リズムは完全に破壊されましたが、破壊され尽くしたことで逆に調整できるというスクラップアンドビルド状態かも)。その日は家で爆睡したのち、翌日から再び毎日労働生活に帰りました。

なお旅のお土産ですが、実はこの旅行中に私は各地のスターバックスを巡っていました。私はスターバックスのローカルグッズのファンなので、国内旅行の時も現地のスタバによく行ってご当地カードやタンブラーを買ってしまうんですが、ご当地グッズは海外にもあるのでこの機会に集めるしかありません。
わざわざ海外でスタバに通うのは普通に考えるとおかしいんですが、実は一緒にいたKさんは過去にスタバでバイトした経験があるらしく、快く私の趣味に付き合ってくれました。Kさんはコロンビアで抹茶レモネードなるものにトライしていましたが、想像通り口に合わず撃沈していました。

カルタヘナ旧市街の中心部にあるおしゃれなスタバ
日本でもコロンビアでもスタバは一等地にありがち

結局、ハリウッドパナマの空港カルタヘナ旧市街ヒューストンの空港でスタバに通い、お土産をゲットしました。カルタヘナのマグカップを持っている人は日本にほとんどいないのではないでしょうか?ちなみにアメリカではお金を払わなくてもスタバカードを自由に持ち帰っていいと言われたのでお土産におすすめです。

カリフォルニア、ロサンゼルス、テキサスのカードと、
パナマ、カルタヘナのマグカップ

終わりに

長文になりましたが、最初に言った3つのポイントを読者の方にも感じていただけたなら嬉しいです。

  • カルタヘナに行ってみたい
    コロンビアやカルタヘナは日本ではほとんど知られていないと思いますし、私もさすがに最初の海外旅行先としては積極的におすすめしません。ただ、見どころが多く比較的治安のいい街として、中南米やカリブ海の雰囲気を感じるにはもってこいの街だと思います!

  • ISBIってこんな学会なんだ
    ISBIという学会もあまり知られていないかもしれませんが、医療画像分野では影響力のある学会の一つで、プログラムも非常に充実していました。ISBIに参加する日本人の方がもっと増えるといいなと思います!

  • 自分も粘り強く論文出してみようかな
    私は学生時代からずいぶん長く時間が経ってしまいましたが、最終的にこうして論文を発表する機会をいただけました。もちろん研究室のサポートあってのものですが、私のようにたとえ卒業後であっても、自分の研究の成果を形にするチャンスがあればぜひ挑戦してほしいなと思っています!

最後に改めて、卒業後もこうして発表までサポートしてくださった研究室の先生方、さらに一緒にコロンビアに来てくださったKさんに感謝します。

ちなみに来年のISBI2024はアテネみたいですね!(完)


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