「空飛ぶモンティ・パイソン」第4シリーズ第2話、拙訳

大好きな「空飛ぶモンティ・パイソン」の中でも、偏愛している回をそのまま訳してみました。映画版をのぞいて、シリーズ中にも長編スケッチがいくつかあるのだけれど、唯一「ストーリーがない」「ギャグだけで進行していく」という、ナンセンスコメディとしては難しい域に挑んだ作品だと思っています。主要メンバーのジョン・クリーズが演技面では不参加で、過去のマテリアルを提供する形で脚本のみの参加となっている点だけが惜しいかな…と思うけれど、好きなモンは好きなんだもん。

海外の著作権なんかはよくわからないので、もし異議が出たら撤退します。

出演者は…
グレアム・チャップマン(GC)
テリー・ギリアム(TG)
エリック・アイドル(EI)
テリー・ジョーンズ(TJ)
マイケル・ペイリン(MP)
キャロル・クリーブランド(CC)
…です。

では、お楽しみください。

IT'S...


空飛ぶモンティ・パイソン
第4シリーズ第2話
「マイケル・エリス」

(1974年11月7日放送)

アニメーション・タイトル。
字幕「THE END」
クレジット・ロール。

ハロッズのような大きなデパートが映る。
外ではリムジンやタクシーの群れが大金持ち達を吐き出している。
非常に大きなコートを着たドアマンが自動車のドアを開けるためにいる。
鼻に包帯を巻いた男の人が店から出ていく。
大きな車が一台、そっと縁石に乗り上げ、小柄なドアマン(MP)がドアを開け、非常に裕福な婦人(TJ)が毛皮を着て出てくる。
ドアマンはドアを開けたままでいる。
婦人はドアマンの股間を蹴り、店内へと歩いていく。
自転車に乗ってクリス・クィン(EI)がやってくる。
クリスは縁石へ自転車を止めて(ドアマンがそれを投げる)、店の玄関ホールへ入って行く。
クリスはやはり鼻に包帯をまいたカップルとすれ違う。
客の騒ぎ声が聞こえて、大半がペッパーポットで、あわただしく出ていく。
ひとりの焦ったペッパーポットの買い物客が別の道を行こうとしたところ、二手に分かれた客の群れが去った片方のガラスドアにぶつかる。
彼女は痛む鼻を押さえながら泣き、大きなコートの店員が連れ添って去る。
クリスは壁にかかった案内を見る。
内容は以下の通り。


地下階:毒ガス・ウイリス・伝染病・レストラン・トイレ修理
大広間:紳士服・子供服・女装売り場・不健康食品
中2階:食器・キッチン用品・ソフト家具・ハード家具・堅牢家具
1階:苦情係
2階:化粧品・宝石・電化製品・皮肉
3階:鼻のケガ係・その他の物
4階:花崗岩売り場‐岩・泥板石・沖積土置き場・長石・カルパチア山脈・アンデス山脈・ウラル山脈・採鉱用品・原子分裂サービス
5階:苦情係
6階:苦情係
7階:苦情係
8階:屋上庭園
9階:TVアンテナ
10階:新鮮な空気・曇り時々晴れ

クリスは訳知った顔でドアへ向かい、前へと進み、さらにおずおずと入っていく。
ガラスドアに鼻をぶつける人々はコンスタントに現れ、BGMと合わさっている。
画面はギフト売り場。
長身のレディ(CC)がカウンターに立ち、薔薇の付属品のついた金属の円筒を持っている。

レディ:そうね、このタイプのがいいかしら。試してみてもいい?
店員(TG):どうぞ、奥様。

レディがボタンを押すと、炎がホール一面に広がる。

レディ:アラ! ごめんなさい! ごめんなさいね!(彼女は嬉しそう)これ頂くわ。
店員:振替でよろしいでしょうか、奥様。
レディ:ええ。

クリスは背中が燃えているのに気付かない客を、興味はあるが関心なさげに見通り過ごす。
彼は「アリ売り場」と書かれたカウンターへ向かう。
彼はそのまま、見たところ誰もいないカウンターで一瞬待ち、それからベルを鳴らす。

クリス:すみません? もしもし?

カウンターの反対側から、頭に奇妙なゴムマスクをかぶった男が現れ、奇妙な手ぶりと奇声を上げる。
すぐにやめる。

店員1(GC):あぁ、申し訳ございません…(彼はマスクを外し、ごく普通の店頭員になる)。他の方と勘違いしまして。
クリス:ああ、なるほどねぇ。
店員1:すみませんでした、ご用件は?
クリス:そうそう、実を言うとね、本当に興味があって、それを買いに…。僕を誰と間違えたのか聞いてもいい?
店員1:はい?
クリス:僕を誰と思ったの…ついさっき…僕を誰と間違えたの?
店員1:あぁ、お客様のご存知ない方です。
クリス:もしかして知ってるかもしれないよ。
店員1:そんなこと、ありえませんよ。
クリス:そう、知り合いは多いけど…。
店員1:お客様とは行動範囲が違うかと。
クリス:どうして、大金持ちなの?
店員1:あぁ、いいえ、そういう意味ではありませんよ。
クリス:貴族とか何かそういうの?
店員1:あぁ、いいえ、そうではありません。
クリス:そうか、単純に聞くよ。何て名前の人なの?
店員1:はい?
クリス:何て名前の人?
店員1:えっと…あー…。
クリス:何?
店員1:マイケル・エリス。
クリス:誰?
店員1:マイケル・エリス様。
クリス:そう。
店員1:お客様はご存知で?
クリス:アー、マイケル・エリス、マイケル・エリス…。
店員1:ご存知ない?
クリス:えっとね、覚えのない名前だな。
店員1:あの方は忘れられないと思いますけど。
クリス:どうしてだい?
店員1:えぇっと、約2メートルで40代、ここからここまで大きな傷があって、まったく鼻がない男をご存知ない?
クリス:…あぁ、そんな人なら思い出せるかも…。
店員1:という人は、マイケル・エリスさんではありません。
クリス:何?
店員1:彼はこれくらいのチビで、かん高い声の男性です。
クリス:うん、君からアリを買うのはやめだ。
店員1:(困って)あぁ、そんな、お願いです。
クリス:ダメ。君はきちんと教育されてないな。他の店員を呼んでくれないか。
店員1:あぁ、そんな…、お願いです…。
クリス:ダメ、別の店員じゃなきゃ。
店員1:わかりました! 別の店員を呼んできます。(彼はカーテンの陰に隠れる)
クリス:ありがとう。

店員1がマンドリン・スタイルの中華髭を付けて出直してくる。

店員1:(高い声で)いらっしゃいませお客様、ご用件は。
クリス:ダメ、違う店員を呼んでほしいの。
店員1:私ですよ、その違う店員でございます。
クリス:バカにするな。
店員1:(普通の声で)そんな、お願いです、お願いします、お願いしますから、どうか私から…。
クリス:ダメだったら! 別の店員を呼んでくれよ。
店員1:お願いですから、どうか…。
クリス:もし他の店員を他の店員を呼ばないんだったら…。
店員1:いえいえ、お客様、真面目にやりますから、本当に。(急に大げさなまでに丁寧になる)おはようございます…ご機嫌はいかがですか…今日は外はちょっと寒いですね…ですよね、お客さま…? とても素敵なスーツをお召しで…髭も今朝はよくそられてらっしゃいますね…。
クリス:よし、帰ろっと。
店員1:いえいえ、お願いです…(彼はつけ髭を外す)。今、別の店員を呼びますから(カウンターのベルを鳴らす)

間を置いて、非常にゆっくりと店員1の右隣から、同じマスクをかぶった男がとても静かに現れる。
店員1は彼を見ると、ギクッとして、強く小突く。

店員2(MP):Woooo…ooooo…。
店員1:彼じゃない!

店員2はがっかりした声を上げ、下に隠れる。

クリス:(カウンターの中に隠れた店員を指して)彼はダメ!
店員1:あぁ、お願いです、彼にチャンスを!
クリス:ダメ!
店員2:(カウンターの下から、マスクを外して現れる、一見清潔そうである)はい、お客様。何かお探しで?
クリス:ダメだよ、ごまかすなって。
店員2:すみません、何かごまかしましたか?
クリス:わかりきっているクセに。
店員2:申し訳ありませんが、何のことやら。
クリス:君はここに隠れて、バカなマスクをかぶって、Woooo-oooって…。
店員2:そんなことしていませんよ、お客様。
クリス:よし、わかった。支配人を呼んでくれよ。
店員2:どうやら幾分、誤解なさってますよ、お客様。
クリス:支配人!
店員1:この人が支配人です。
クリス:何?
店員2:(ばかげた声で)はい、私が支配人です。
クリス:支配人!(叫び続ける)
店員2:素晴らしい店でございましょう、私どもは高すぎるものをお勧めしたりいたしません。本当です、ネズミもいません。経営もうまくいっています。ああ、はい、タラはロンドンで1番新鮮ですし、2階、3階ではアリはここ、テレビと火炎放射機はあちら、その反対は食堂車の展示が6時まで…
店員1:(店員2を小突いて)急げ!

店員はふたりともカウンターに隠れる。
本物の支配人がやってきて、クリスに自己紹介する。

支配人(TJ):お客様、いかがなさいました?
クリス:(彼の襟元に支配人のバッジを見つける)あぁ、このカウンターの店員のことで苦情があるんだ。
支配人:申し訳ありませんが、どの店員でしょうか?
クリス:えっとね、隠れているんですよ。
支配人:と、言いますと?
クリス:そこに隠れているんだ、カウンターの裏に潜っていったよ。
支配人:なるほど。(彼はカウンターへ回り、確認するが、明らかに誰もいない。クリスも一緒に探す)…あの…ここには誰もおりませんが…。
クリス:きっと這って出ていったんだ、「大人のオモチャ」売り場を抜けてって。(指し示す)
支配人:はい、そうでございましょうね。
クリス:彼らは、マスクを被って、バカな声をあげて、一人は支配人を名乗ったんですよ。こんな感じで…。(彼は真似をしてみせる)
支配人:ああ! わかりました、お客様、わかりました! 仮装週間なんですよ。
クリス:仮装週間?
支配人:はい。ご存知でしょう、チャリティーですよ。
クリス:ああ! なるほど。どこかの大学か何かの?
支配人:いえいえ、当店の仮装週間でして。
クリス:デパートの仮装週間?
支配人:はい、年配のスタッフではなく、研修生が主ですが…。
クリス:商売に響かないですか?
支配人:チャリティのためですから。皆さんとてもご理解をいただいております、いかがでしょうか?(彼は貯金箱を振ってみせる)
クリス:ああ、はい、もちろん。(コインを入れる)
支配人:さて、お客様、ベテランの店員をお呼びしましょう―、アリでしたね。
クリス:はい、そうです。
支配人:(呼ぶ)スネッタートン君!(スネッタートン、すぐやって来る:彼は明らかに店員1で、短すぎるクルーカットのかつらを被って出てくる)このお客様のお相手を、スネッタートン君?
クリス:彼はダメ!
店員1:お願いです、チャンスを下さい!
クリス:嫌だ!
支配人:わかりました。ハートフォード君!
ハートフォード(MP):はい、おはようございます。ご用件は?
クリス:あぁ、そうだね。アリを買おうかと思っているんだけど。
ハートフォード:はい、わかりました。ご予算はおいくらぐらいのものを?
クリス:ああ、そうだな、実際飼うとなると、考えてなかったな。
ハートフォード:ではお客様、半ペンスから3ペンスまでございます、また3ペンス半のチャンピオン級もございます―インフレでして、申し訳ないです―。
クリス:じゃ、1ペンスから1.5ペンスのにしようかな。
ハートフォード:あぁ、はい、それは賢明なご判断ですよ、この小動物に関しては。ここだけの話、半ペンスのは病気持ちでして…。どれくらいの大きさをご希望で?
クリス:Mサイズ…かな。
ハートフォード:MサイズMサイズと…ここにございました。(彼はアリを箱から出す―アリは見えない―カウンターのにある特別なリングに出す)こちらがエアシャー種、それからこちらがキング・ジョージの女王アリでしょう…、そして小さなおいぼれを殺しているのがアフガン種です。
クリス:これがいいな。
ハートフォード:ではお手にとってご覧になりますか?(彼はクリスの手にアリを乗せる)あぁいいですね、なついていますね。彼はあなたのものだ。
クリス:エサは何をあげたらいいんですか?
ハートフォード:ブラマンジェです。
クリス:ブラマンジェ?
ハートフォード:すみません、なんでもありません。エサは全くいりません。
クリス:それでどうやって生きるの?
ハートフォード:無理ですよ、死にます。
クリス:死ぬ?
ハートフォード:もちろんです、エサをあげなければ。
クリス:わからないな。
ハートフォード:死にますが、新しいアリを買えばいいんです。エサ代より安く済みますし、コンスタントにいろんな小さい仲間と出会えます。
クリス:あぁ、なるほど。
ハートフォード:それが他よりもアリが優れている点でして
クリス:よし、それじゃこれを下さい、おっといけない、落としちゃった。
ハートフォード:お気になさらず。代わりをどうぞ。
クリス:他に何か必要な物はありますか?
ハートフォード:そうですね、アリの家が必要でしょう。(鳥かごを出す)このモデルがおススメです。
クリス:逃げちゃわない?
ハートフォード:はい。
クリス:じゃ、アリかごの良い点って何?
ハートフォード:えっと、何もありません。それからいくつか、カゴ用の家具でアリを楽しませるのも大事です。(とてつもなく小さな家具を取り出す)これがアリ用車輪、アリ用ブランコ、それからとても素敵なのがこちら、小さなハシゴ―アリがのぼると頂点でベルを鳴らします。これでちょっとした芸を仕込めます。
クリス:アリってそんなに生きるの?
ハートフォード:無理でしょうね。いや、でも、万一に備えるのも大事です。それから無線機もアリが使うでしょう…。それから書籍も必要です。(高価そうな本を取り出し、考えなしにアリの上に置いてしまい、大急ぎでそこを払う)
クリス:本?
ハートフォード:はい、アリの本です。
クリス:(自信なく見つめ)そうですか…。
ハートフォード:さて、お客様、これでよろしければ184ポンドと1ペンス半になります。
クリス:小切手は使えます?
ハートフォード:はい。お客様がよろしければ血液のサンプルと、ここのところの皮膚のかけらを頂けますか?(耳の後ろを示す)すみませんね…身元証明のためでして、心配はいりませんよ。(小さいナイフといくつかのコットンウールをクリスに渡す)
クリス:あぁ、やっぱり分割にしておきます。
ハートフォード:そうですね、その方が痛みませんしね。ともかく、アリは「人生の友」と申しますから、ね? ま、アリの人生ですがね(ハートフォードは大きなかご、家具、無線機とアリの本を巨大な箱に入れる:見つけるのが大変だったアリと共に:丁寧に扱いながら)彼の名前はマーカスです。(巨大な箱に入れてカウンター越しに渡す:箱のある一面には「アリ生存中・取扱注意」と大きな字で書かれている:空気穴があいている)もし彼が早死にしたらお電話をしていただくか、すぐに郵送をして下さい、よろしいですか?
クリス:本当にどうもありがとう。
ハートフォード:お気になさらず、ありがとうございました、エリスさん。

クリス、すぐに振り返る。
店員1がハートフォードの元へ素早く来る。

店員1:シーッ!
クリス:なんて言った?
ハートフォード:ありがとうございました、エリスさん、と…。
店員1:彼じゃないって。
ハートフォード:あぁ!
クリス:なぜ「エリスさん」なんていったの?
ハートフォード:(しらばっくれて)誰です?
店員1:いや、彼はそんなこと言ってませんよ。
クリス:いいや、聞こえたよ。彼が「ありがとうございました、エリスさん」って。
店員1:あぁ、いやいや―彼は「アリさん」と。
クリス:何?
店員1:あなたの「アリさん」に挨拶を。ありがとうございました。さようなら。(わざとらしく手を振る)
クリス:(カウンターから去りながら)マイケル・エリスが誰でもかまわないけどさ!

クリスが店内を歩いていると看板に「ペイズリー売り場」と書かれた売り場で、ふたりの客が鏡に向かって強いアイリッシュ訛りで話している。
(訳注:実際の映像では「カトリックはプロテスタントの鉄のブーツに踏みにじられるだろう」と言っている)
クリスはエレベーターへ向かう。
小柄な老婦人が通るが、ショッピングカートが煙をあげているのに気付いていない。
婦人が去りクリスが中に入ろうとする。
(訳注:実際の映像では、エレベーターの階数表示がランダムに飛んでいるさまが映る)

店内放送(TJ):マイケル・エリス様、支配人室までお越し下さい。繰り返します…。(クリスは辺りを見回し、聞く)ナイジェル・メリッシュ様、支配人室までお越し下さい。

クリスは目を細め、疑い深くなり、エレベーターにおずおずと乗り込む。


画面はクリス・クィンの自宅のキッチンへ変わる。
彼の母親が1ダースのエサ皿にペットフードの肉を最低ラインの半分までよそっていて、エサ皿にはそれぞれ色々な動物の名前が書いてある。
「ヒヒ」「ヒトコブラクダ」「ゴリラ」「マス」「センザンコウ」
そのキッチンの真ん中にトラの檻があり、「トラ」と書かれたボウルが置いてある。
大きなコブラが乾燥機に絡まっており、また水場の下にはオオカミのカゴがある。
サルは食器棚の頂上にいる。
クリスが箱を持って帰ってくる。

母親(TJ):今度は何を持って来たんだい?
クリス:アリを買って来たんだ、母さん
母親:どれかひとつにしたらどうなの! あたしゃ綺麗になったためしがないよ。アンタはトラを捨てるって言ってたけど、でもどうだい? 全くだよ。あたしが思うにね、興味があるのも今のうちさ。今は「アリ・アリ・アリ」で2日は過ごして、お次は突然「あぁ、母さん、ナマケモノを買ってきたよ」、そうでなきゃ、バクみたいな変な足をしたのを飼うんだろ?
クリス:今度は違うよ、母さん。このアリに夢中なんだ。
母親:同じことを、マッコウクジラの時にも言ってたよ…今じゃパパのガレージ代わりじゃないの。
クリス:アレはエサが足りなかったせいだよ。
母親:どこに行けば毎朝44トンのプランクトンを手に入れられるって言うのよ? パパがアレが死んだ時に怒ったじゃない。ご近所は惣菜屋でパパが狂ったって言ってたわよ。
クリス:少なくともパパにとっては、ガレージ代がタダで済むよ。(トラが唸る)
母親:そうもいくかい、車が魚臭いんだよ。(吠えるのが聞こえる)ああもう、トラだ。薬を欲しがってるよ。
クリス:トラに麻薬打ってるの?
母親:そうともヤクをやってるよ。
クリス:違法だよ。
母親:トラに言って聞かせりゃいいよ。
クリス:危険だと思うんだけど…。
母親:いいかい…ヤクをやる前は、1日に4人はエホバの証人の信者を捕まえてきたんだよ。それをペロリと食べちまう、パンフレットは吐き出してたけどね。
クリス:そこまでバカじゃないさ。

とても大きな吠え声と檻がガタガタする音が聞こえる

母親:わかったわよ!

彼女は注射器を用意し、トラに向かう。

クリス:じゃあ、僕はテレビを見ようっと。おいで、マーカス。

クリスはカゴからマーカスを出し、周囲を気にせず隣の部屋へ向かう。

母親:マイケルが1日電話かけてきたよ。
クリス:マイケル?
母親:知ってるでしょ、マイケル…マイケルさ、マイケル・エリスだよ。彼ったら一日中電話かけてきて…2回ウチにも来たよ。
クリス:どんな感じの人?
母親:あぁ、あたしゃ会ってないからね、モルモットが応対したからさ。アレだけは使えるね。
クリス:彼は今どこにいるの?
母親:彼なら2階でトラ公の処方箋の偽造をやってるよ!
クリス:違う違う。マイケル・エリスのことだよ。
母親:あぁ、さあね。大したことは言ってなかったわよ、どのみち。…よし、行くわよ。

母親がトラへ向かう。
クリスは混乱しているようで、肩をすくめると、マーカスと部屋へ移動する。
部屋には約20個の古いテレビが棚にある。
クリスは1台選び、テーブルに置くとスイッチを入れ、落ち着いて、マーカスとテレビを見る。

字幕(テレビの中)「放送大学」

アナウンサー(MP):(テレビの中)こんにちは、ようこそ、放送大学へ。まずは午後最初はシリーズの第17回、動物とのコミュニケーション学です。今日は最新の研究結果により発見された、仕草による家庭用アリの会話です。
クリス:これはツイてるね、マーカス…

画面はレストラン。
ウェイター(GC)が隅に立っている。
主人公(TJ)が入ってきて、ウェイターに近づき、彼らは複雑な仕草をするが、これが挨拶である。足をふみならすetc.
ウェイターは一連の奇妙な動きをする。

字幕「コートをお預かりしましょう」

主人公は足を踏みならし、ウェイターの尻をつかむ。

字幕「私はコートを着ません、アリなので」

ウェイターの番。

字幕「そうでしたね」

主人公の番。

字幕「ブルーノはいますか?」

ウェイターの番。

字幕「踏みつぶされました」

主人公の番。

字幕「今日のお薦めはなんですか」

ウェイターの番。

字幕「アリクイのヒレ肉です」

主人公の番。

字幕「いい気味だ」

母親が入ってくる。
彼女はケガをしていて、服はボロボロで顔は血まみれである。

母親:そんなもの消しておくれ!
アナウンサー:番組の途中ですが、マイケル・エリスの物語について最新のニュースをお送りします。マイケル・エリスはどうやら…。

母親がスイッチを消す。

クリス:ちょっと! 見てるのに…。
母親:ダメよ、トラが興奮しちゃって。(キッチンから吠える声と瀬戸物が割れる音がする)あぁ、チクショウめ!

母親はドアへ駆け寄り、キッチンへと出ていく。
クリスはすぐにテレビをつける。

アナウンサー:(雑音が止まるのを待っている)…でした。「放送大学」は続いて、大学院生向けのシリーズ「外科治療実習の基礎」パート68「アリ」です。
クリス:わぁ! またツイてるね、マーカス。

外科医がテレビに現れる。
軽くアリのジェスチャーをする。

外科医(MP):やぁ、諸君! 血や内臓を見る前に、小さなアリの構造を見てみよう。

画面はアリの絵。

アリ専門家の声:アリの体は3つの部位に分かれています。頭部、胸部、そして腹部です。彼らは強い鉄で作られた鎧のように強い「外骨格」に包まれていて、そしてそれらは他の小さな外敵から身を守ってくれます。しかし、あいにく解剖用のメスには勝てません。(ナイフを持った手が現れ、アリを切る)見ろ、何も出来ないだろ、強くもなんともない。それから足も…自分の体重より重い物にも耐えられますが、しかし見てみろ…(足が引き抜かれていく)私に比べれば強くもなんともない、4、5、6…ハハッ!
クリス:アリって6本足だったっけ、マーカス!
アリ専門家:その通りだよ、エリス君。
クリス:おい! 足が2本足りないぞ、それに触角も偽物じゃないか、マーカス! ちくしょう!

クリスは飛び起き、テレビのスイッチを切ると、部屋の隅のテレビの山に放り投げ、急いで出ていく。
トラがおとなしくしている。
母親は血まみれのボロボロで、「コブラ」と書かれた箱の中から「E・コブラ・キット」と書かれた空の缶を持っている。

クリス:このアリを返してくるよ母さん、―足が2本足りないんだ。
母親:ちょっと! マックウォンさんの奥さんから電話があったわよ! 白クマが奥さんのところの庭にまたいるってさ。
クリス:じゃ、店から帰ってくる時に連れてくるよ。
母親:忘れないでね、アイツはフンが巨大だからね。(クリスがドアに向かい出ていくところを母親が引き止める)あぁ、ちょうどいいから、別なテレビを2~3台手に入れてきて、ほら、180ポンド。(クリスに札束を投げる)

画面は外の庭。
庭の横にはテレビの山。
クリスが札束を受け取り、テレビのヴァンから半ダースのテレビが荷台に乗せられている横を抜け門から出ていく前を、テレビが荷台に乗せられて家の中へ運ばれて行っている。


画面は店へと戻る。
エレベーターの中である。
クリスは、アリを手に持ったまま立っている。
ドイツの民族衣装を着た2人の女性が入ってくる。
エレベーターガールの女性は、外斜視、木製の義足、歯列矯正器、補聴器、つかの上がった靴、首にコルセット、そして鉤の義手で復唱している。

エレベーターの女性(MP):2階…文具、革製品、鼻のケガ、クリケットのバット、映画スター、イルカの水族館。

エレベーターがいくつかの厄介事を越えて止まる。
ドイツ娘たちは手荷物を持って降りる。
1人のギリシャの民族衣装を着た男性(TJ)がオールを持って入ってくる。

エレベーターの女性:3階…化粧品、書籍、アイリッシュ・マッサージ、酋長の首飾り、アリ…(クリス、出ようとする)でも、アリの苦情は別です!
クリス:あぁ、苦情係はどこですか?
エレベーターの女性:まっすぐ行って、それから左へ、それから右に折れて、それから小さな階段を登り、それから右の柔らかい道を行き、それからガタガタの小道を下り、針を通り、壁の茶色いシミを右に見て、ドアに「出口」と書かれたところを左、です。
クリス:ありがとう。
エレベーターの女性:(ドアは閉まるが、彼女の声は聞こえる)4階…子どものパイプカット…。

アリ売り場。
明らかに同じ場所だが、雑な看板に「苦情係」と書いてある。
クリスは最初の店員と共に立っていて、店員は巨大な唇とアゴのかぶり物をしていて、それぞれ8インチと6インチある。

クリス:君じゃダメだ。
店員1:(しゃべりにくそうである)あの、あなたのアリに何か不都合でも?
クリス:ダメ! 君には話したくない。
店員1:足部門で何か失くし物でも?
支配人:いかがいたしましたか?

クリスが視線を向けると、支配人が半分麻袋に入って表れる。

クリス:ダメ! ダメ! ダメ! ダメ!
支配人:ああ、これはですね、お客様、競技の練習でして。
クリス:ダメ、ダメ、ダメ、総支配人と話したいんだ、苦情があるんだ。
支配人:ああ、それならば、カツラ売り場ですよ、お客様。
クリス:何?
支配人:カツラ売り場ですよ、エリスさん。(飛び去る)

クリスはストッキング売り場で、2人の太った男が頭にストッキングを被っているのを見ている女性店員に近づく。
クリスは店員に話しかける。

クリス:(きまり悪く)すみません、カツラ売り場を教えてもらえませんか、すみません?
店員(MP):はい?
クリス:カツラ売り場です。
店員:え?
クリス:カツラ売り場です。
店員:あぁ、カツラ売り場ね。(大声で)グラディス、カツラはどこだったかしら。
グラディス(GC):カツラ?(人々が注目しはじめる)
店員:こちらのお客様がお求めしてらして。
グラディス:(同じく大声で)カツラですか?
クリス:えっと、そうじゃなくて、本当は…。
グラディス:確か手品用品売り場の所じゃないかしら。
店員:そうね、そう、義足と補聴器の売り場を左に折れて、右に入れ歯売り場、左に義眼売り場のところへ行くとありますわ。気になさる方のためにカツラとは表示していませんが、ニオイでわかりますわよ。

この時から、人々が次々と彼のことを見る。

クリス:ありがとう。

彼が動くと人々が彼の頭をじっと見る。

女性:(友人に)あそこがつなぎ目よ。

クリスはいたたまれなくなって、一番近い売り場へと逃げる。
ドアの看板には「ヴィクトリア王朝 詩の朗読ホーム」とある。

画面は詩の朗読会。
ワーズワース、シェリー、キーツとテニソンが読み上げる。
クリスは静かに隅に立っているが、興味はなさそうである。

老婦人(GC):こんにちは、紳士淑女の皆さん、こんなにお集まりいただくなんて、素晴らしい午後になりました。では今日のこの午後にご出席いただいた方々をご紹介したいと思います…。ワッズワースさん…
ワーズワース(TJ):ワーズワース!
老婦人:失礼、ワーズワースさん…。ジョン・クーツさんにパーシー・ビッシュさん…。
シェリー(TG):シェリー!
老婦人:ミディアム・ドライを一杯。(小人のアシスタントが彼女にシェリーを一杯注ぐ)それにアルフレッド・ロードさん…。
テニソン:テニソン。
老婦人:テニスボール。
テニソン:ソンだ、ソン。
老婦人:失礼、アルフレッド・ロードさんはテニスボール卿の息子さんです。ではワッズワースさんに最新作を読んでいただきましょう。短い乳母車のタイトルは「カニのようにさまよう」で、アリについての作品です。
ワーズワース:
「雲のようにさまよう
 谷と丘の間を越え
 突然私は一群を見る
 まるで黄金に輝く働きアリのようだ」

拍手が上がる。

老婦人:ありがとう、ありがとうございます、ブレッドラフさん。続いてビッシュさん。
シェリー:シェリーだ。
老婦人:あら…(小人が彼女のグラスに再び注ぐ)では彼の乳母車を読んでいただきましょう、タイトルは「カニに捧げる抒情詩」です。
シェリー:(彼は静かに席を立ち、話し始める)えっと、これはカニのことではありません。実際のタイトルは「オジマンディアス」です。抒情詩ではありません。
「古代の国の旅人に会った
 彼は言う、
『巨大で幹のない六本の石で出来た足が
 砂漠に立っていた
 そして台座の文字はこうあった
 私の名前はオジマンディアス、アリの王
 (観衆から感嘆の声)
 私の触角よ、シロアリよ、絶望よ
 私はお前の見る限り、最大のアリである
 かつてこれほど大胆で巨大で
 凶暴なアリは私以外にない』」

 大きな歓声が上がる。

老婦人:ありがとう、アモンティラードさん。1つ2つご忠告がありますが、どうかカーペットにおもらししないで下さいね。階段を上がったところに休憩室がありますから、もし詩に興奮したら、使って下さいね。(彼女は倒れる)こんにちは。次はデニス・キートさんが最新問題の「一杯のシェリーに捧ぐ詩」を読んで下さいます。(彼女は台から落ちる)
キーツ(EI):
「我が心は痛み、ゆるやかにしびれ出す
我が感覚が、まるでアリクイを見たときのように
(パニックが広がり、観衆は騒ぎ始める)
いやらしく長い鼻の獣よ
(観衆から悲鳴が上がる)
毛むくじゃらの足と粘つき垂れ流した舌
我が目は残忍な顎を感じ
我が足を齧り
我が胸をも砕く
(何人か女性が悲鳴を上げ気絶する)
我が頭はふたつに割れ、我が脳をすする
すする、すする、すする、ゴクゴクと」
(彼は我を失っている)
老婦人: キーツさん、キーツさん、速やかに出ていって下さい。
キーツ:これは真実だ。目をそらすな。真実だ。これが現実なんだ。
老婦人:(彼女は彼を追い出す)紳士淑女の皆さん、は申し訳ございません…今のは乳母車とは呼べるものではございませんでした…こんなことになるとは…それとおもらしについて…お願いした通りカーペットにはなさらないで…。今のは、確かにとても酷い詩でしたけれど…でもお願いです! さてお茶とプラムウィッチに移る前に、アーサー・ロード・テニスコートさんに最新作の乳母車をご披露願いたいと思います、題名は「アリ旅団の突撃」です。
テニソン:「半インチずつ、半インチずつ…」

ヴィクトリア女王がファンファーレと共に登場し、アルバートの棺を連れてくる。

全員:女王陛下、女王陛下。(全員おじぎをし頭を下げる)
ヴィクトリア女王(MP):臣民の皆さん、我等は今日は国家的に重要な問題についてやってきました。我が亡き夫と我等は最近の文学の傾向についてますますの危惧を抱いています(ドイツ訛りになり始めて)この地のドイツ文学…いえ英国文学についてです。この地で優勢となっているエル…エリ…アリ…を…『英語ではなんて言うの?』
従者:テーマです。
ヴィクトリア女王:テーマとして取り上げる近代詩の傾向についてです、我がドイツにおいて。我等は…『なんて言えば?』(従者がささやく)不愉快に思います。今後、アリは禁止にいたします。代わりにはヒバリや水仙、ナイチンゲールに軍隊に…『何、この臭い…小便臭いわね…まったく』それでは、我等はもう去らないと競馬に間に合いません。皆さんに神の祝福あれ。

クリス出ていく。
画面は彼が「電気湯沸かし器」と書かれたドアを見つけるところ。

声:シー! 電気湯沸かし器はこちらです、お客様。

「カツラ係」と書かれた手提げの看板が彼を誘う。
彼がドアへ進むと中へ案内される。
そこには有名なハゲの世界的人物にカツラを載せた写真が壁に掛けられている。

カツラ係主任(TJ):ご心配いりませんよ、私達も仲間です、お客様。(主任はヒドいカツラをしている:クリスはそれに気づくと見つめないようにする:主任は彼の部下を紹介する)ブラッドフォード君、クラウリー君。(ブラッドフォードとクラウリーが来る:彼らは誰よりもヒドいカツラをしている)彼らは仕立屋でございます。私達はこの分野では経験豊富でして、自信を持ってベストかつ丁寧なサービスをご提供しております。お客様はお気づきではないかもしれませんが、実はこの中のひとりは実際にカツラを着用しております…。
クリス:えっと、全員でしょ、違います?

彼らは鏡へ走る。

ブラッドフォード(MP):僕だけじゃないのか?
クラウリー(GC):ああ、知らなかったな…
カツラ係主任:君たち二人もだとは…、自分だけだと思ってたよ。
クラウリー:えぇ、私もそう思ってました。 
ブラッドフォード:僕だって。(クラウリーに)似合うね。 
クリス:ただ、僕は支配人室がどこかを聞きに来ただけなんですけど。
カツラ係主任:待った、誰が全員がカツラだって言った? 
クリス:別に。
クラウリー:そう?
ブラッドフォード:何故知ってたんだ?
クリス:だって…見りゃわかるよ。
クラウリー:よく言いますよ! 彼のは自然じゃないですか。
クリス:でも、生え際から、色が違いますよ。 
ブラッドフォード:ホント!?
クラウリー:そんな訳がないよ! 
クリス:それに残りの髪と合ってないし…途中で浮いてるじゃないですか。
ブラッドフォード:君のよりはマシだ。
クラウリー:そうですよ。
クリス:僕はつけてないよ。

彼らはあざ笑う。

クラウリー:じゃあ、何故ここに来たんです?
クリス:支配人室だと教えられたからだよ。

彼らはまたあざ笑う。

ブラッドフォード:ああ、よく言うよ。
クラウリー: 白々しいな、まったく…。 
クリス:ホントだって!
全員:支配人室とは。(彼らはあざ笑い声をあげる)
ブラッドフォード:ほら、見ろよこれ。どこで作った、魚屋か?
カツラ係主任:ヒドいな、まったく。 
クラウリー:ナイロン製ですか?
クリス:違うって、本物だよ。(彼は引っ張って見せる) 
ブラッドフォード:そんなの、誰だって出来る。

彼らもやって見せる。ブラッドフォードの物は緩く簡単に外れる。

クラウリー: さあ、外しましょう。
クリス:やめろって。
カツラ係主任:さあ、ぴったりの物を作りますよ。
クリス:いや、いらないって。
ブラッドフォード:恥じる必要はないって。 
クラウリー:私たちはは白状したんですよ。
クリス:つけてないんだって。

彼らはしばらく見つめる、その目は「重症」だと言っている。

カツラ係主任:わかってないな…このことは折り合いをつけなきゃいけないんですよ。
クリス::僕はカツラなんか使ってないって! ただここが支配人室だって聞いたから来たんだよ、アリの苦情を言いたいだけだ!

彼らはお互いを見合わせる。

クラウリー:何を言い出すかと思えば、ねぇ。
ブラッドフォード:アリの苦情だとさ?
カツラ係主任:それじゃ君のためだ。

彼はクリスの髪をつかむ。
喧嘩が起きて店員全員のカツラが外れる。
クリスは後ろ向きでドアにぶつかる:ドアには「侵入厳禁」の文字。
彼は突然にこのドアの中へ逃げられる。
画面はドアの反対側へ。
クリスはターンし二度見する。
そこは支配人室。
苦情を待つ人びとが座る長蛇の列。
主任が映る。

苦情係主任(MP):(イラついた声で)はいどうぞ、お座り下さい。 

クリスはドアを閉め、苦情を陳情するために順番を待つ人びとの列の最後尾の席に座る。
ドイツ式物干しざおを持った男。
アイスランド蜂蜜週間の男。
自動車のタイヤを持ったギリシャ人。
ネコが突き出ている芝刈り機を持った男。
鼻に包帯を巻いた犬を抱える鼻に包帯を巻いた男。
鼻に包帯を巻いた婦人。
鼻に包帯を巻き小さい柱から煙が出ている乳母車を持った女性。
テニス・ラケットが頭に刺さっている男性に見えないこともない女性。
明らかに爆発した葉巻をくわえた男性―彼の顔は黒くなり襟元も歪んでいる―。
片方の腕の丈が2倍あり太ももの半分までしかないズボンの奇妙なスーツを着た男…などがいる。
制服を着込んだ店員がツインセットを着て真珠を身につけた女性の次に座っている、それを彼女のじっと夫は見つめている。
店員は時折彼女をまさぐって頬や目を凝視している。
女性と夫は正面を向いている。
次にいるのはユーイング大佐。
机では火炎放射気を持ったレディの順番。
係り員の机のところどころや部屋全体の訪問者の何人かは煤けたり、煙を上げたりしている。

レディ(CC):見てちょうだい! 自動制御がついてないじゃない、コレじゃ…あああ!(炎が吹き出る)つまり、間違って操作したらどうしますの? 
苦情係主任:わかりました、奥様。メーカーの担当者に問い合わせておきましょう。いかがです。
レディ:そうですか? それを聞いて安心しました。 

彼女は出ていきドアを閉める。炎が吹き出る音が聞こえる。

レディの声:ごめんあそばせ…。
苦情係主任:お次の方?

大佐が立ちあがる。同時にズィダンスキー氏(夫)が妻と店員を指し示す。

ズィダンスキー氏 (TG): 彼はまだ彼女を痴漢し続けるのかね?
苦情係主任:はい、はい、少々お待ち下さい、はい。(大佐が係り員の机のところへ座る)
ユーイング大佐(GC): 私も苦情がありましてね
苦情係主任:お座り下さい。この火にお気をつけて。 
ユーイング大佐: ああ、気にせんで下さい(彼は座ったまま)私は東側の方で慣れてましてね。. 
苦情係主任:東とはどこです? 
ユーイング大佐:ああ、ノルウェイに…スウェーデン…そんな感じの場所ですよ…ああ、すまないね、私のスーツは燃えやすいようでいかんですな。 
苦情係主任:消火器は? 
ユーイング大佐:ああいや、結構ですよ、成り行きに任せましょう。私が思うにね…ノルウェイはありゃあ、東側じゃありませんな。北側といった方がいいんじゃないでしょうかね。( 彼は炎を叩く)
苦情係主任:ノルウェイは火事が多いんですか? 
ユーイング大佐:その通りですな。あちらこちらで燃えてますよ。あそこは木造建築ですからね。ノルウェイで家内を亡くしましてな。 
苦情係主任:それはお気の毒に。 
ユーイング大佐:なに、あの女をご存じで?
苦情係主任:いえ、そういう意味では…。
ユーイング大佐:ああ、そうですか。いや、私には性に合わん女でしたよ。ある日ふたりでフィヨルドを散歩していると、地元の闘牛士が木製の家から出てきましてね、古い半月刀を何本も投げつけましてね、乱暴にワインセーラーにしまってあったギロチンを放り出して、見てみればほとんどが妻にぶち当たりましてね、即死でしたよ。
苦情係主任:はい、はい、それでご用件は…?

店内放送のチャイムが鳴る。アナウンスが流れる。

アナウンスの声:マイケル・エリスについて大切なお知らせを送りします。(クリスはスピーカーを見上げ、他の人たちも見上げる)ただ今をもちまして「マイケル・エリス週間」を終わります。ただ今から「クリス・クィン週間」となります。(憮然としたつぶやき)
クリス:ひどい終わり方だな。

場面は上品な身なりをした店員のいるカウンターに切り替わり、「番組エンディング売り場」の看板が大きく後ろに掲げられている。

係りの者(TJ):まあ、一番お安いものですと、こんなものでございますね 
クリス:他にはないの? 
係りの者:では、画面がゆっくりと引いていって、わかるかと思いますが、カメラがどんどんと引いて引いて被さるように…。 

彼が語るように、画面は引いていき、店の外へと移っていく。
ロンドン全体の上空映像へと画面が広がるように切り替わっていく。
急に止まり、クリスへと戻る。

クリス:違うな、もっとエキサイティングなものはないの? 
係りの者:例えば追跡モノとかですか?

支配人とカツラ販売員たちが驚き、ドアから出てくる

支配人:ヤツだ! 

エキサイティングな音楽。
彼らは売り場を出て、店の一角へとクリスを追いかける。
その後カウンターのクリスへと戻る。

クリス: うーん、ダメダメ違う。
係りの者:夕日に向かっていくっていう二のはどうです? 
クリス:どんな感じ?

浜辺のドラマチックな夕日のショット。
クリスと係りの者が夕日に向かって一緒に歩いて行く、その彼らの背中が見える
係りの物はジェスチャーを交えながら説明している。

係りの者:どうです、ふたりのシルエットが沈む光と太陽に映し出されて行くんです。音楽が高まり、胸に込み上げ涙が眼に…。

店内に戻る。

クリス:違うなあ。
係りの者:ああ、そうですか、私は良いと思うんですが…。 
クリス:何だかポイントがずれてるように思うんだけど、どうかな?
係りの者:ええ、マイケル・エリスで全てをまとめるというのもあるんですが、しかし…。 
クリス:しかし、って何? 
係りの者:いえいえ、何でもないです、何でも。
クリス:マイケル・エリスって、結局誰なの?
係りの者:ハッピー・エンディングなんかどうでしょう?

女性がクリスに飛びつき、抱きしめる。

女性(CC): ああ、クリス! 助かったのね!
係りの者: すみません、気に入らないですよね。

この間に女性は退場している。

クリス:何でそう思うわけ?
係りの者:評論形式はいかがでしょうか? お安いですし。大試合の後のように。

典型的なサッカー討論会のセット。マルコム・アリスンとブライアン・クリフ、セット奥には大きなジミー・ヒルの写真。

マルコム・アリスン(MP):そうだね。いい番組だったと思うよ。マイケル・エリスについては少しくどかったと思うけどね。
ブライアン・クラフ(EI):えっとね、僕は賛成しないな、マルコム、率直に言って気に入っているのは僕がこう映っている今だけだね。

店内に戻る。

係りの者:ダメですか? フェード・アウトは? 

画面がフェード・アウトしていく。

クリス:んんんん…ダメだね。

画面は戻る。

係りの者:じゃ、いきなり終わるのは?

暗転。


conceived & written by
Graham Chapman
John Cleese
Terry Gilliam
Eric Idle
Terry Jones
Michael Palin

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ニイモトイチヒロ
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