薬剤師が小学校のプールに向かう理由を知ってほしい
プールの時期になりましたね。
皆さんのお子さんはプール、楽しんでいますか?
私の働いている調剤薬局では、プール熱や手足口病のお子さんが殺到しています。
例年通りではありますが、解熱剤をせっせと調剤しながら、夏の訪れを感じる毎日です。
さて、実はこの時期、一部の薬剤師は学校のプールに向かいます。
もちろん、泳ぐためではありません。
薬剤師は学校で、プールの水質検査をしているのです。
学校薬剤師って?
この時期、小学校のプールに現れる薬剤師の正体は、学校薬剤師です。
学校薬剤師というのは、子どもたちの健康増進や育成のため、学校内の環境衛生を整えることを主な業務としており、学校保健安全法により大学以外の学校すべてに配置が定められています。
立ち位置としては嘱託職員という扱いになります。
つまり、一般の病院や薬局などで働いている薬剤師が、掛け持ちとして学校の職員になるイメージです。
ただ、「環境衛生を整える」という裏方すぎる職務なのもあり、同じ学校であっても、学校薬剤師の氏名すら知らない先生も多いのではないでしょうか。
直接的に関わりがあるのは校長や教頭、養護教諭、そして体育教師ぐらいですので。
だからこそ、これを機に知ってもらえると嬉しいな、なんて思います。
「学校にプールがあること」の凄さ
学校薬剤師の存在と並べて、強調したいことがもう一つあります。
それは
「子どもたちが学校でプールに入れるのは、とても凄いこと」
だということです。
「学校にプール」は当たり前?
では、そもそも何で、学校にプールがあるのでしょうか?
当たり前?
いやいや、そんなことありませんよ。
「学校にプールが当たり前」なんてのは、日本ぐらいなのです。
日本が「学校プール大国」になったのには、ある切実な理由がありました。
なぜプールができたのか?
それは、児童の集団海難事故が原因だったと言われています。
1955年に「紫雲丸」という連絡船が沈没し、修学旅行中の児童が亡くなってしまった、という痛ましい事故です。
それ以来、日本政府は「子どもたちの水泳能力を高めなければならない」と強い危機感を抱き、それが現在の学校プールにつながっているのです。
努力の甲斐あって、その後、子どもの水難事故は減少していきました。
プールを守る人たち
でもよくよく考えると、「学校プール」なんてものが成り立つこと自体が不思議です。
お風呂を1ヶ月間、使い回す人はいません。
ましてやそれが、屋外にあるとしたらどうでしょうか?
大量の水の中に、毎日何十人という生徒が入水して、常に雨風にさらされ、昆虫や鳥が遊びに来る、学校のプール。
冷静になってみると、これを衛生的に保つということが、いかに難しいことか。
子どもたちのプールは、日本の技術力と、毎日の先生の努力とに守られているのです。
そしてそこに、ほんのちょっとだけ安心感を添えているのが、学校薬剤師です。
「プールのにおい」
さて、伝えたいことは大体書き終わったので、最後に一つだけ。
プールを衛生的に保つ上で、一番重要な物質の話だけして終わりたいと思います。
それは「塩素」です。
専門的には「遊離残留塩素」といって、私たちに馴染みのある「プールのにおい」の正体です。
塩素は、細菌やウイルスなどの病原菌を消毒して無毒化します。
子どもたちの汗や唾液、水着に付着したウイルス、動物が持ってくる細菌など、あらゆるものを塩素がやっつけてくれます。
ただし消毒に使った塩素は減ってしまうので、プールの中には「常に一定の塩素」が保たれていないといけません。
その塩素をこまめに測定して、補充しているのが、体育の先生方です。
そして、年に一回プールの水を採水して、もっと詳しい検査を行うのが、学校薬剤師のお仕事です。
他にもプールの構造設備に異常が無いか、プールに使う薬が正しく使われているかを確認することもしています。
子どもたちの安全と、楽しいプールを守るために。
私は今年も、採水ビンを持ってプールに向かいます。
まとめ
今回は、学校プールと薬剤師の意外な関係について書いてみました。
お子さんが参加しているプールの授業について、少しでも理解が深まれば嬉しいです。
普段は読書によって得られた知見をもとに発信をしていますが、
時おり本業の薬剤師業務についても書いています。
実は学校薬剤師のお仕事ってまだたくさんあって、プールの水質検査は数あるうちの一つでしかありません。
他の業務についても今後書いていきたいと思いますので、マガジンをフォローしていただけるととても嬉しいです。
それでは、また。