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“Korean Grime”─韓国グライムシーンが秘めるバイタリティ

韓国において、K-ポップと双璧を成すK-ヒップホップカルチャー。Jay ParkやSik-Kなどアイドル級のラッパーが数多く存在し、クラブからTikTokまで、幅広い人気を誇っています。そうしたラッパーたちも小さなクラブからの叩き上げであることが多く、韓国におけるラップ・ヒップホップシーンはメジャーからアンダーグラウンドまで大小様々な潮目が生まれています。

gridsystemではそんな潮目の内の一つであるグライムシーンに注目。メジャーシーンにおいてもその存在感を際立たせつつあるグライムシーンは、どのように成長してきたのでしょうか?日本国内はもちろん、グライムの本場であるUKでも高い評価を集め、韓国・ソウルでのプレイ経験もあるプロデューサー/DJユニット「Double Clapperz」からSintaこと米澤慎太朗がその出会いを振り返ります。(編集部)

Text and photo:Shintaro Yonezawa

今回はお声がけいただき、韓国のグライムアーティストや楽曲を紹介します。2016年以降定期的にDJのためにソウルに行かせていただき、ダンスフロアの空気を感じてきました。その中で様々なアーティストと交流し、またグライムのパーティで私もプレイさせていただきました。

グライムとは… 2000年頃にロンドンで生まれたラップ音楽。レゲエ、ダンスミュージック、ヒップホップの影響を受けながら発展し、2015年頃からSkepta、StormzyといったUK出身のラッパーが世界的にヒットしたことで、ジャンルの認知度が高まった。

そもそもグライムという音楽は2000年代初期にロンドンで生まれ、2010年代中頃からヒップホップとの距離を近づけていきました。そして「Drake」がグライムを自らの音楽性に取り込んだことに象徴されるように、ラップカルチャーの一部としてグローバルで浸透するようになりました。中でもヒップホップシーンが強いソウルでは、グライムもヒップホップと同じように抵抗感なく受け入れられているように感じますし、韓国の中でグライムをやっているアーティストにも出会うことができました。今回は2010年代後半から活発化している韓国のグライムアーティストの活動や、ヒップホップシーンでグライムを取り入れる動きを紹介しようと思います。

韓国グライムカルチャーとの出会い

ラップミュージックを日々チェックする中で、初めて韓国のグライムを知ったきっかけは「Damndef」(ダムデフ)というラッパーでした。

2017年にUKのYouTubeチャンネル「SBTV」に突如としてピックアップされた「Damndef - Do It」は(おそらく)韓国語で初めてグライムをやった楽曲だったのではないかと思います。韓国語をグライムに乗せるという音の新鮮さやロンドンのMCと同じようにNikeに身を包むファション性に惹かれたのを覚えています。

この楽曲のリミックスである「Do It Remix」にはイギリスから「J-mal」、韓国から「Moldy」、日本から「Catarrh Nisin (カタルナイシン)」の3名のグライムMCが参加しています。

このリミックスに参加しているラッパー「Moldy」も面白いアーティストです。8名のラッパー、トラックメイカーからなる集団〈Grack Thany〉のメンバーで、幅広い音楽性の中でオルタナティブなラップミュージックを模索するラッパーとして注目しています。

The Henz Club -ヒップホップ・ブラックカルチャーに根差した人気クラブ

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(Boi B & Damndef at The Henz Club, 2020 Feb)

〈Grack Thany〉もリリースパーティを行い、先ほど紹介したDamndefもパーティを行ったThe Henz Clubは、グライムやヒップホップを語る上で欠かせないクラブです。ユースカルチャーの中心地の一つである弘大エリアにあり、元々ストリートウェアのショップ「Henz」から始まりました。今では「The Henz Club」と「MODECi」の2店舗をオープンしています。The Henz Clubではヒップホップ・ブラックカルチャーのファンが集まるイベントが多く、お客さんの熱気を肌に感じます。地元のお客さんが多く、エネルギーに満ちていて、フロアでは有名曲を合唱するような場面もあります。ラインナップにアナウンスされていないシークレットゲストが登場することもあり、例えば過去には自分のDJ中にOkasianが現れ、サイドマイクを握ってくれるサプライズもありました。

Okasian…〈YG Entertainment〉のサブレーベル〈The Black Label〉に所属する、韓国ヒップホップシーンにおけるトップアーティスト。韓国・日本で共作されたヒットチューン「Keith Ape − It G Ma」にも参加

メインストリーム・ラップシーンとの邂逅

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(Geegooin, Damndef, Boi B, 2020 Feb)

2017年頃からは、ヒップホップシーンがグライムの動きと呼応し、メインストリームでもグライムに挑戦する流れが出てきました。その裏には韓国のラッパーのオーディション番組「SHOW ME THE MONEY」の後押しがあり、〈Amoeba Culture〉と契約し、同番組で人気を集めているラップグループ「Rhythm Power」はグライムチューン「Bang Sa Neung (방사능)」をリリース、再生回数は2020年6月時点で30万回に上っています。

また、「SHOW ME THE MONEY」の高校生版、「High School Rapper」でもグライムに挑戦する流れがありました。挑戦者の「SIGA A(이진우)」と、Boi B (Rhythm Power)がコラボレーションし「Cowboy」を制作・披露。グライムのファッションスタイルの一つである黒づくめの服で登場し、注目を集めました。2020年6月時点で17万回再生となっています。

さらにこの曲のリミックス「Cowboy UK Remix」では、Damndef、Geegooin (Rhythm Power)、そしてUKグライムのMCであるJammz、Manga Saint Hilareによる韓国×UKのコラボレーションリミックスもリリースされています。韓国のメジャー、アンダーグラウンドを超えてコラボレーションを行い、さらにグライム発祥の地であるUKの有名MCも参加させてしまうことに、韓国の音楽シーンのバイタリティやエネルギーを感じます。

韓国のグライムミュージックの今後

「韓国語はラップしやすい、韻を作りやすい言語だ」ということも聞いたことがありますが、140BPMという速いビートが特徴のグライムに韓国語は乗せやすく聞こえます。これからは、DamndefのようなオーセンティックなグライムMCに加えて、Moldyのようにエレクトロニックミュージックの一つとして音楽性に取り込むラッパー、メインストリームのヒップホップからグライムに挑戦するRhythm Powerのような動きも加速していくのではないかと期待しています。今回取り上げた楽曲を中心としたSpotifyプレイリストを作りましたので、気になった方はチェックしてみてください!


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