「ありがとう」と言うことについて
「ありがとう」
僕はこの言葉をよく口にします。コンビニやスーパーで買物をして、レジで支払いをして商品を受け取る時にも必ず「ありがとう」と言います。飲食店で食べるときも店を出る時に「おおきに、ありがとう」と言うし、タクシーに乗って降りるときには「ありがとう」と言います。僕よりも若い人だったら「ありがとう」だし、僕よりも年配の方だったら「ありがとうございました」だし、もう小さい頃からそれが普通になっています。
「いただきます」
「ごちそうさまでした」
「おはようございます」
「こんにちは」
「こんばんは」
「ありがとう」
日常でごく普通に使うし、自然と出る言葉です。
なぜこんなことを書くかというと、ネット上で『店員に「ありがとう」という人の気持が分からない』とか『客のくせに「ありがとう」とか言うのは何なの?』みたいな記事を見て少し驚いたからです。
客と店とはどっちが偉いのか
「サービスを受ける側の客はお金を支払うのだから、店側に感謝されこそすれ、客がお礼を言うなんて考えられない」ということだと思うのですが、そう思うのは割と若い人に多いようです。「お客様は神様です」と昭和の大演歌歌手 三波春夫氏の名セリフにもあったように、お金を払う側の方が偉いように思うのかも知れませんね。でも、はたして「客」>「 店」なのでしょうか。
僕は、お金を支払う側の方が偉いという考え方はしません。店側は、「商品」とそれに伴う「サービス」を「提供」しています。客はその「商品」と「サービス」の「対価」を支払っているに過ぎず、「店と客は対等」の関係です。どちらが上でも下でもありません。
例えば、ランチにカレーライスを食べようと思ったとします。自分で作るのは面倒ですし、お昼にそんな時間はありません。そこで近所のカレー屋さんへ行ったとします。そのカレー屋さんはカレーライスを商品として、その店の店員さんによって調理されサービス(提供)されます。そのカレーには、牛肉やジャガイモ、人参などの野菜、カレーのルーなどのスパイス、そしてお米などたくさんの材料が使われています。それらは農家や畜産家、漁師さんなどからそれぞれの流通ルートを通じて購入されています。当然それらを運ぶ輸送業の人たちも関わります。たった一杯のカレーライスですが、たくさんの人の働きや努力により賄われています。そういうことをすべて凝縮して、カレー屋さんのカレーライスは数百円という値段で提供されているのです。その値段は、いろんな材料や手間などを考慮し、計算された適正な価格のはずです。(もし味やサービスと値段が釣り合っていないと思えば、そのお店には行かなければ良いのです)
客は労せずにそのカレーを食べる代わりに、提供するお店にその対価を支払う。ただそれだけのことで、どちらが上というこはありませんが、カレーができるまでの労力やたくさんの人の手を経て提供されたものに感謝する気持ちとそのお店のサービスに対して、僕はお店の人に「ありがとう」という言葉で感謝の気持ちを表しています。
デザインの世界でも同じ。デザイナーとクライアントはどっちが上なのか
実は、この話はデザインの世界でもあることで、特に駆け出しの若いフリーランス・デザイナーによく相談されることでもあります。お金を支払うお客さま(依頼者・発注者:クライアント)が圧倒的に立場が上で偉い。また依頼者の言うことは絶対であると思い込むことがあるようで、またそのように教えるデザイン事務所や、そのように考えるクライアントもあるようですが、僕はデザイナー(制作者)とクライアント(依頼者)は、対等の立場であると考えます。デザイナーが企画やデザインなどの有形無形のものを提供する替わりに、そのための対価を頂くという、このシンプルなことをちゃんと理解しておかないと必要のない苦労をし、また悩む事にもなります。
カレーのように原価計算が明確に出せて、単価もスッキリと決めやすいのであれば良いのですが、デザインの世界はそう簡単ではなかったりしますが...
なので、依頼を受ける際には通常クライアントとなる人、企業から必ず条件が出ると思いますが、その条件は「絶対」ではないと思っていますし、こちらからもその依頼を受けるための「条件」を提示するべきであると思います。その条件とは、納期であったり、予算であったりすることがまず第一ですが、その依頼をクリアするために必要となるであろう様々な要素(撮影が必要だったり、コピーライターを加える、事前に現場を視察するなど)があり、それらは案件ごとに様々で、プロのデザイナーとして必須と思うことを正直に話せば良いと思います。最初に正々堂々と話し合って、お互いにどういう仕事をするのか、どうしていくのが最善かを理解し合い、それぞれの条件が合った上で仕事進めるのが最良と考えています。条件が揃わないと仕事をしないということではなく、何事も折り合いを上手くつけ、諸々調整ができることも「できる」プロの仕事のうちであるとも思います。
仕事を受ける僕たちデザイナーは、当然クライアント(依頼者)に対して、仕事をする機会を与えていただいたことへの感謝の気持ちをもって、しっかりと期待に応えるべく最善を尽くすことがプロの為すべきことだと思います。
とは言え、とても困った依頼や苦しんだ案件、とんでもないクライアントなどもあり、その都度悩みながら乗り越えてきた経験があったからこそ、このようなことが言えるのかも知れません。良い仕事も、喜ばしくない仕事も含め、様々な機会を与えてくださったことに感謝します。なにより、この言葉を素直に言えると気持ち良いです。
ありがとう。