ある家族の物語②
ある家族とはまた別の家族の、休日の朝。
「いっぱい練習したからちゃんと卒業式やりたかったな。」
「ごめんな。お父さんもお母さんも見に行ってやれなくて。」
「仕方ないよ。フヨーフキューの外出ってやつでしょ?」
「"不要"ねえ…」
「お父さんそれぐらいにして。中止にならなかっただけでもありがたいと思わなくちゃ。」
「じゃあ、いってきます…!」
「しっかりな。」
「気を付けていってらっしゃい。」
そんなやりとりをして、娘はいつも通りにマスクを着け、いつも通りに―いや、いつもより少し背筋をしゃんとして、家を出て行った。
「いざやることがなくなるとポッカリと穴があいた感じだな…」
つけっぱなしだったテレビに目をやる。
マラソンの中継だろうか。汗をこぼしながら走る選手達を、沿道から多くの人が熱烈に応援していた。どうやら重要な大会のようで、マスクをせずに唾を飛ばしながら応援している人の姿も多く見えた。
「何が違うんだろうな…」
そう心の中で呟くと、父親はそっとテレビを消した。
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