雨月蜜蔵
あの家の門柱んとこにある
あの桜
あの桜の見事なこと
知ってるか
ああ知ってるよ
あれを観て眉一つ動かさない
そんなことってあるか
あるよ
なんで
あるよ
そんなのあるよ
ある人からみたら
ただの木
いや
木でもなく景色
色なんざ気にしていない
まったくもってそのうねりさへ
一生気づくことないそんなことだってあるんだ
そんなもん
人間とおなじだよ
人間も動物も草も木もおなじ
自分が興味なかったらそんなもん
ただの背景ただの景色
だがな
そんなもんだとおもっていたけど
やっぱあれだな
どうしても目がとまるそんなもんも
あるのかもしれないな
俺は全くもって履き物なんかに気を遣わなかったけど
あいつのあのおしゃれなヘンテコな靴だけは
普段みなかった他人の足下
そんなところに目を配る自分に
はじめて遭遇しちまったよ
あれは本物だあれは金でできてた
だから俺は舐めてみたんだ
あいつはめちゃくちゃ驚いてたけど
それからというもの
俺の言うことをなんでも聞くようになっちまって
お前いったいなんでだと思うよ
俺はただただ金を舐めて観たかっただけなのにな
西洋かどっかの呪文で
”どうしても願いを聞いてほしいなら私の靴をお舐め”
ってのがあるらしいから
それが通用しちまったのかもしれねーな