コロナウイルス連作短編その123「あのね」
フアンは小学校の友だちである千百合といっしょに帰る。さいきんは、ほかの友だちもまじえて5,6人で帰っていたけども、今日はみんなに用があるということで2人だけの帰りみちだった。千百合はとしょかんで見た虫のはなしをする。そとでさいていたピンクいろの花、そこにへんな虫がいたという。ものすごいながい口で花から花へとうつっていき、ミツをすっていたのだそうだ。それはハチのようにも見えたけども、あのながすぎるストローみたいな口は、どちらかといえばチョウのように見えたらしい。
「それって鳥じゃないの」
そう言うと、千百合は目をおおきくひらいた。そしてマスクもずらして、おおきくひらいた口をわざとフアンに見せた。
「でもすごいちっさかった。あんな鳥いるの?」
「いるよ。何か、ずかんでよんだ」
とは言いながら、フアンにもカクシンがない。でもなんとなく鳥だとおもった。
歩いているとセブンイレブンが見えてきた。前には車のためのデカいばしょがあり、ユニフォームをきたヒゲつらの大人たちがたくさんいる。タバコをすっている人がいれば、弁当とか、おやつを食べている人もいる。
「コカコーラかおうよ」
千百合が言った。
「おこずかいないよ」
フアンがいうと、彼女がまたマスクをずらす。こんどは三日月さながらニヤニヤしてる。
「じゃあ……奢るよ」
“奢る”! そのことばに思わずのけぞる。トレスは、これはスゴいことになったと感じた。
「お姉ちゃんがひみつでおかねくれたんだなあ」
ほこらしげに千百合がいった。そしてそのままズカズカとセブンイレブンにはいっていき、いそいでフアンもついていく。あっという間にのみものコーナーにつく。ペットボトルをワクワクしながらつかんだ。それでも千百合がよこにある、さらにデカいペットボトルをつかんだので、またおどろく。
「500ミリリットルじゃなくて、700ミリリットルだろ!」
まるで兄をきどるみたいに言うので、アットウされた。いきなりオシッコがしたくなって、セブンイレブンのトイレへにげこんだ。にげこんだけども、べんき、そのゆかがビジョビジョでウゲッとなる。
「立ってオシッコするなって何回も言ってるだろ! 座るんだ!」
そんなパパのおこりごえが、バクハツするみたいにはじける。じっさい、こんなにオシッコでトイレをよごしたことはない。だけども今日くらいはすわってオシッコしようとおもえた。それくらい、きたない。
オシッコをおわらせ、そとにいくと、もう千百合がコカコーラ700ミリリットル2ほんをかっていた。ついにこのときがきたか、フアンはそうおもう。
そと、ゴミばこのまえで、コカコーラのふたをあける。プシュケーとさわやかな音、今はもう10月でさむいけれども、じぶんのまわりだけ夏になったきぶんだ。そして、のむ。あまい、くちがディリディリする、おいしい! よこでは千百合がコーラをドボドボのみまくってるので、じぶんものみまくる。やはり、おいしい! さいこうのきぶんなのである。
とつぜん、ひめいが聞こえた。体がビィクンとなってしまった。キャアキャアという、ひめいはつづく。タバコをすってた男の人たちがようすを見にいく。
「わたしたちも見にいこ」
そう言ったとたんには、千百合ははしっていた。もんどうむようで、フアンもはしる。コンビニのそと、むこうの川までずっとつづく道、嫌だアアアアアアア、そのまんなかに車が止まっている。何で何で何で何で、そのよこにキミドリ色のふくをきた女の人がしゃがんでいる。彼女がさわっているのは、嫌嫌嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だフサフサのなにか、そのビクビクしているかたまりだった。犬だったやつ。ヤバいものを見てるとフリオはいっぱつでアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア分かった。女の人はずっとひめいをあげており、ことばだとはおもえないのに、たしかにことばなので、こわい。ちゃんとリード掴んどけよ、このボケが!
「ヤバいね、警察来ちゃうね。証言しなきゃだよ、証言」
千百合が今きた道をダダッともどりはじめ死んじゃ嫌だ死なないで死なないで死なないでお願いお願いしますフリオもついていく。証言するのはフリオもイヤだった、それでも何回も何回もうしろをむいたし、ひめいはずっとつづいた。
「じゃね」
千百合は右にいって、フリオはまっすぐいく。ひとりで歩いていく。工事げんば、さいきんまでおおきい車の店があったけども、ぜんぶつぶされて、土の空きちになった。そのとなりには工場。きょだいトラックがでていってはいって、これをくりかえすけども、何の工場かはぜんぜん分からない。そのとなりにはまた工場。ドアがなくて、なかでおじいちゃんたちが服を作っているのがまるみえだ。そのとなりにはじどうはんばいき。ゴミばこからペットボトルやカンがめっちゃあふれている。そのとなりには、ほどうきょう。ちょうきょだい、である。高速道路をまたぐみたいに、かかっているので、デカい。そして『ハリー・ポッター』のホグワーツみたいに、かいだんがウネウネとしている。ここを上っていき、家にかえるのだ。
「おーい!」
声がするので上をみたら、パパがいた。左の手でじてんしゃをささえながら、右手をふっている。うれしくなって、こっちはりょうてをふりまくる。そのままじゃんけんをしながら、かいだんを上る。4しょう1ぱい!
「おかえり」
「ただいま」
パパがフリオのあたまを死んじゃ嫌だ死なないで死なないで死なないでお願いお願いします死なないで死なないで死なないで死なないで死なないで!
いきなりそんな声があたまでひびいて、グラッと体がゆれた。じぶんでもどうしていいか分からなくな
「おい、大丈夫か?」
パパが言うけども、何もいえない。
「なんか…………いやなことあったか?」
いやとか、いやとかじゃない。そんなことばが、言えない。ただただほどうきょうに立っていた。
するとパパがフリオをだきしめる。
くさかった。
そしてパパも何もいわないで、フリオのあたまをじぶんのおなかにうずめさせて、りょうてでなでる。
やっぱりくさかった。
「いこう」
フリオはあるきだす。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶじゃない、けど……」
フリオはパパのほうをむく。
「あのね」
私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。