キヨちゃんの炊き込みご飯
食いしん坊の私には、初めて食べた時の感動が忘れられない食べ物がたくさんある。
今日は、その中の一つ。
『キヨちゃんの炊き込みご飯」のことを語りたい。
キヨちゃんというのは、私の母方の祖母の兄の奥さん。
キヨコさんというのだけど、母や周りの人はキヨちゃんと呼んでいたので、私もそう呼んでいる。
祖母の兄の奥さんというと、一見血の繋がりのない人に思えるが、キヨちゃんは母方の祖父の従姉でもあるので、かなり薄いけど一応血縁関係はあるのだ。
私の母は宮城出身。
祖父も祖母も同じ町の出身で、お見合い結婚。
昔は近所同士の縁談も多かったようで、祖母の一番上のお兄さんの奥さんも、ひいお婆さんの姪っ子で、祖母の親友のお姉さんだとか、まぁ面白い関係である。
キヨちゃんときちんとお話ししたのは、私が小5の時。
祖母の姉の葬儀の時だった。
祖母の家は、本家と分家があって、分家は本家から坂を下ってすぐの距離にある。
キヨちゃんの旦那、やっぺさんは、次男坊。
本家と合わせて米農家だった。
本家の大叔母さんが亡くなると、親族はみんな料理を作って持ってきてくれた。
その中の一つが、キヨちゃんの炊き込みご飯だ。
お揚げが入って、コクのある炊き込みご飯。
あまりの美味しさに、パクパク食べて、キヨちゃんにも美味しかった〜!と感想を伝えたら、葬儀が終わって、一旦栃木の祖父母宅に戻る車内で食べられるようにと、おにぎりにして炊き込みご飯を持たせてくれた。
その年の初盆にも、私は母や妹、祖父母と従妹と共に宮城を訪れた。
キヨちゃんは、私が炊き込みご飯を好きなのを覚えてくれてて、お昼ご飯前に泊まっていた本家に戻って昼食を食べようとしたら、「ご飯作ったから、こっちでお昼食べな」と、炊き込みご飯、冷たい素麺、魚の煮付け、煮物、白玉団子を出してきて、いや多い多い!!!!
最後にはカレーうどんも出てきた(いつの間にか追加で作ってた)
お料理上手のキヨちゃん、どれもとても美味しかったけど、やっぱりあの炊き込みご飯が一番美味しいと思った。
それから10年くらいして、私の祖父が亡くなった。
祖父の葬儀には、従姉であるキヨちゃんは足を悪くしてしまい、来れなかったけど、キヨちゃんの息子、ツネおじさんがこう言った。
「また、宮城にばーちゃん(キヨちゃん)のご飯食べにきてよ。ばーちゃんは夏穂ちゃんが美味しいって言ってくれたの嬉しかったんだって。完全にご飯作りができなくなる前にさ…」
すごく行きたかったけど、その頃私は病気で旅費を稼ぐこともできず、出来たとしても、母が泊まらせてもらうとみんな高齢で大変で迷惑がかかるから、日帰りになると言われて出来なかった。
そこから更に10年経って、キヨちゃんは寝たきりになってしまった。
今はツネおじさんと、そのお兄さんが二人でキヨちゃんの介護をしている。
先日、東北で大きな地震があった際に、キヨちゃんの孫で、私にとってはハトコにあたるお姉ちゃんとLINEで連絡を取り合った時に、キヨちゃんの炊き込みご飯の話になった。
「おばあちゃんの炊き込みご飯おいしかったよね。私のパパ(キヨちゃんの三男)も大好きで、ママがレシピを教えてもらって作ってるんだけど、なんか違うんだって!お袋の味なんだろうね〜!」
と、送ってきたお姉ちゃん。
私が好きな味を、キヨちゃんの孫のお姉ちゃんや、おじさんたちも大好きだったと知れて嬉しかった。
キヨちゃんの炊き込みご飯は、もう二度と味わえない。
でも、その味を懐かしむ人が自分以外にもいるというのが、とても安心できた。
もう90半ばになるキヨちゃん。
会いに行くのは難しいけど、明るくて気さくで料理上手なおばあさんと、炊き込みご飯の味をこれからも忘れないように、文章に書き綴った夜なのでした。