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一期一会

「一期一会
一生に一度だけの機会。生涯に一度限りであること。」

ネットの辞書にはそう載っていた。

「一期一会か!先生にとっても、ここでの成功体験として心に残るじゃろ!なんたって術後の第一声がイケメンじゃもの(^^)」

これは、退院後診察を終えて送ったメールへの母からの返信。

麻酔から覚めた時に「イケメンですね」と言ったのはせん妄ではなかったと思いたい。

久しぶりに見た担当医は、やっぱりドランクドラゴンの鈴木拓さんとは少し違った。上品で優しそうで色白で、イケメンだった。鈴木拓さん、ごめんなさい。でも、油断すると顔が思い出せなくなり、鈴木拓さんの顔に置き換わる。おそらく、同系統の顔立ちであることだけは確かだろう。

自覚症状はほとんどないと言ったが、手術が決まった後に、気づいた。視野検査で異常があり、「両耳側半盲」という診断だった。左眼だけでスマホ画面を見ると、端の2-3字が潰れて何の字かはっきり見えなかった。このことを言うのか、とやっとわかった。そういえば、もしかしたらだけど、それ以前数ヶ月で何個か皿とコップを不注意で立て続けに落として割った。老化で手元が危うくなったのだろうと気に留めていなかったが、見え方が本人の感覚と違っていたからかもしれない、と今さらながら思う。

術後しばらく、見え方は変わらなかった。術中、腫瘍が取れた弾みで、脳の一部に穴が開き、その修復のためにボルヒールと呼ばれる血液製剤の「糊」をたくさん使ったそうだ。そのため、術後すぐは視交叉の圧迫が解除されたとは言い難かったようだ。退院後、術後10日目ほどだったろうか。左眼だけでスマホ画面を見ると、全部の字が見えるようになっていた。眼科の視野検査は少し先だが、自覚的には見えるようになった。

先生は言う。
・目が見えるようになった。
(視交叉の圧迫が解除された。)
・術後、尿崩症にならなかった。
・術後、脳髄液漏がなかった。
・術後、正常下垂体機能低下が見られなかった。
・腫瘍組織は下垂体腺腫(adenoma)として矛盾しない。

「(経過として)完璧ですね。」

本人の不安とは裏腹に、何も問題が起こることなく経過している。今後も定期的なフォローが必要だ。

先生は4月から遠い遠い地に転勤だそうだ。経歴から考えて、もう二度と会うことはないだろう。まさに、一期一会。
患者として貴重な経験をした。

母の言うように先生の記憶に残るとは思えないが、きっと私の方は先生のことを忘れないだろう。

今後、ネットなどを通して、先生の活躍を知ることになりそうだ。腕もいいと聞くし、きっと大成することだろう。ご活躍を祈っている。

さあ、イケメンと言うのは今日が最後。50過ぎたシミ、シワだらけのおばちゃんにイケメンと言われて相手も迷惑なことだろう。横にポッチャリした夫が座っている。

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