医薬品添付文書をめぐる小話
この8月から、医薬品の添付文書が原則として電子化されるそうだ。
これまで医薬品と同梱されていた添付文書。添付文書とは、医薬品の用法、用量、副作用など、医薬品を適正に使用するための情報が記載されている文書である。
実際、医薬品の箱の中には必ず添付文書が入っている。正直、新しいものが一つあれば十分なので、余分はゴミ箱へポイ、なんてことがほとんどだ。
そういえば、クレジットカードの明細書郵送も有料化するからWEB明細への手続きを、と知らせが来ていたっけ。
電子化、ペーパーレス化の流れだろう。ただ、キャッチフレーズ好きのどこかの政治家が言っていたけど、「見える化」。電子カルテやパソコンの画面の中で見ていてもしっくり来ない文書を、紙にプリントアウトした方が頭に入りやすいことある。
完全なペーパーレス化は、なかなか難しいのが実情である。
添付文書も、薬品棚に置いておけば、電話で他職種から問い合わせがあった時すぐに手に取り、答えることができる。
添付文書の電子化により、業務がどのように変化するか、またはしないのか、注目していきたい。
さて、添付文書のことである。
「フェジン」という鉄剤の注射は、添付文書上では10%-20%のブドウ糖注射液で希釈すること、となっている。臨床現場では5%ブドウ糖液が汎用されていると聞く。ちなみに、フェジンはコロイド性の鉄剤で、生理食塩水で希釈すると、コロイド粒子が互いに結合して沈殿を生じる可能性がある。
コロイド溶液とは、分かりにくいが、牛乳もその一種で、大きな粒子が液体の中で均一に分散している状態のことを言う。
添付文書どおりの10-20%のブドウ糖濃度ではpHが低下する他、浸透圧比が高くなり、注射をする時の血管の負担もやや大きくなるかもしれない。
次に、「ハンプ」という心不全に用いる注射剤について述べる。ハンプは、28個のアミノ酸から成るペプチドである。ハンプは、生理食塩水で直接溶解すると塩析(これもコロイド粒子関連の沈殿現象)が確認されている。生理食塩水で希釈する場合でも、一定の濃度を超えると不溶物を生じる。等張で電解質を含有しない5%ブドウ糖液は、ハンプを溶解、希釈しても不溶物を生じない。そのため、ハンプの希釈には5%ブドウ糖液が勧められる。
(この段落、引用多々あり)
ハンプの添付文書では、「注射用水5mLに溶解し、必要に応じて日本薬局方生理食塩液又は5%ブドウ糖注射液で希釈」となっている。臨床現場で、注射用水で溶解している場面は、なかなか見かけない。
これらの知識をもとに、かつて、ある日、生理食塩水で溶解する指示を見かけた私は、5%ブドウ糖液に変更するべきと考え、疑義照会した。
医師「何言ってるんだ、添付文書に生食もいいって書いてあるじゃないか。それでも変えろと言うのか」
いつか学会のシンポジウムでどこかの薬剤師が言っていた。
「添付文書に書いてあることしか言えない薬剤師ではダメだ。」
一方、添付文書は公的文書であり、裁判において証拠となり得ると聞く。
製薬メーカーも、添付文書に記載されていない内容の返答は立場上難しそうである。
添付文書という大きな存在を、結局は薬を作る側も使う側も、従うにしろ外れるにしろ、意識せずにはいられないことだけは確かなようである。
参考書籍:注射剤配合変化Q&A
他ネット情報少々