冬布団
世間一般のお正月から一週間以上遅れて、ようやく実家に帰省している。
実家といっても、僕が郷里を離れたのちに母はそれまで住んでいた(つまり僕が幼少期から成人するまでを過ごした)家から引っ越したので、いま僕がいるこの家は「実家」という言葉にふさわしいほどの懐かしさは帯びていない。
(ただし贔屓目を抜きにしても、いまのここは「かつての実家」よりはずっと過ごしやすい。交通の便をのぞいては、あの頃よりもはるかに過ごしやすい)
ただ、母がいて、その母が僕の息子(つまり彼女の孫)を待っていて、郷里の街でそれほど気兼ねせず泊まれる場所がある、という意味で、この家は紛れもなく僕の実家だとも思う。
僕も大人になった。大人になって今の自宅を構えた。
今の自宅にいる時は、暖房の効いた部屋で足先まであれやこれやと重ね着をして快適さを求めてる。
でも、そんな僕も子供の頃は気密性の低い古びたアパートで、真冬でも靴下も履かずに過ごしてた。足先が冷たいのが当たり前だった。
それが僕の家だった。
別に今の自分がことさら経済的に余裕があるわけじゃない。
子供の頃自分も、お世辞にも裕福な家庭ではなかったけど、かといってそれほど困窮していたわけでもない。
ただ、幼少期の僕が母と過ごしたあの家は、冬は寒いものだった。そして、寒いのに、なぜか今ほどの厚着をしていなかった。
あの家は寒かった。
でも、冬は寒くて当たり前なのだ。
「冬は寒いもの」
かつての実家で僕はそんなことをごく当たり前に感じていたし、この実家に戻ってくるとそんなことを感じていたということを思い出す。
あの寒さ、あの手足の冷たさ、その冷たさを和らげようとするあれやこれやな工夫。
それらのことを、僕は今、思い出している。