東京・渋谷に息づく日本ロック史の聖地『B.Y.G』に寄せて。
東京・渋谷の百軒店にある『B.Y.G』。
「思い入れのあるお店は?」と聞かれたら、真っ先に思い浮かべるお店のひとつです。
この『B.Y.G』が、昨年コロナの影響で存続の危機に。その状況を乗り越えるべく、クラウドファンディングを行なっていました。
色々な意味でお世話になっているお店。ぼくも微力ながら支援させていただきました。
そして、先日。リターンとして「食事券」が届きました。
本日2/22時点では、未だ緊急事態宣言下ということもあり。お邪魔するのは控えているけれど。晴れて宣言が明けてゆっくり伺えることを今から愉しみに。。
以前『B.Y.G』の個人的な想いとお店の紹介を寄稿したことがあり。加筆修正したモノを転載したいと思います。
今回ぼくが紹介するのは、渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)にある『B.Y.G』です。かれこれ30年近く通っているお店です。
『B.Y.G』は、ライヴスペースを併設した、いわゆるロック喫茶&バーです。オープンは1969年。現在も営業を続けているロック喫茶&バーでは、老舗のひとつです。
初めてこのお店を訪れたのは、たしかハタチのとき。大学の先輩に紹介してもらったのがキッカケでした。中学の頃からロック系の音楽に傾倒しはじめ、大学時代はバンド活動に明け暮れていたこともあり、その日から『B.Y.G』は、ぼくにとって大切な場所になりました。以来、渋谷クラブクアトロをはじめ、渋谷界隈でライヴを観たあとは、たびたび『B.Y.G』に立ち寄ることに。
当時の店内は終始大音量でロックが流れていたので、会話を楽しみたい人たちには、まったくの不向き。お客さんのほとんどは、ひとりで来店。各々が音楽に身を委ねながら、食事をし、酒を呑む。いつ行っても基本的に店内はガラガラ。ひとりでライヴを観に行くことが多いぼくにとって、『B.Y.G』は、ライヴ後に気兼ねなく愉しめるお店として、自然と足繁く通うようになりました。
とくに頻繁に通っていた時期は、30歳前後の頃。出版社の編集者として、月刊誌の音楽ページや音楽系のムック本を担当していたことから、レコード会社の人たちとの付き合いが多く、招待枠で週の半分以上は洋邦問わず雑多にライヴを観に行くという日々。ライヴ後にひとりで、あるいは関係者の人たちと、幾度となく『B.Y.G』を訪れました。
さらにその当時は、お客さんとしてだけでなく、ミュージシャンのインタビューや音楽絡みの企画で、取材先や撮影場所としても、コトあるごとに『B.Y.G』に協力してもらい、紹介させていただきました。
『B.Y.G』に来ると、決まって注文するのが「キムチチャーハン」と「コロナ」という組み合わせでした。たっぷりのキムチと豚肉が相まって、ピリッと辛いボリューム満点のチャーハン。特別な"何か"があるわけではなかったけれど。大音量で流れるロックと店内の雰囲気に、キムチチャーハンは不思議とマッチし、絶妙な味わいでした。が、5年くらい前だったか。これといった理由はないものの、数年ほど『B.Y.G』に行かない時期を挟み、久しぶりに訪ねてみると、メニューが一新され、残念ながらキムチチャーハンはなくなっていました。。
さまざまな思い出が詰まったキムチチャーハンとは別モノですが。最近のお気に入りは、店長の山口さんに勧めてもらったこれらのメニュー。ナポリタン、アンチョビのピザ、そして、コロナの組み合わせ …… 濃い目の味付けがロックと合います!
『B.Y.G』の特徴は、地下にライヴスペースを併設していることです。いや、むしろ飲食店としてではなく、ライヴスペースありきで、その歴史は始まっています。
オーナーの安本さんが50年以上前に『B.Y.G』をオープンさせたのは、「はっぴいえんど」や「はちみつぱい」という、日本語ロックの先駆者たちの活動場所を作りたい …… そんな強い想いでした。はっぴいえんどを筆頭に、数多くの伝説的なバンドやミュージシャンが精力的にライヴを行った場所=『B.Y.G』は、大袈裟ではなく、日本ロック史における聖地といっても過言ではないと思っています。
その軌跡からも想像がつくように、誰もがこの場所でライヴができるわけではありません。演者を決めているのは、いまでも安本さん自らが行なっています。出演可否の判断は、発せられる"音"や"言葉"に、オリジナリティを感じるか否か。現在、安本さんがブッキングするのは、鈴木茂や鈴木慶一、頭脳警察などのレジェンドをはじめ、BIGIN、向井秀徳、三宅伸治、リクオ、ブラック・ボトム・ブラス・バンド、アナム&マキ、バンバンバザール、ハッチハッチェル …… など、いずれもオリジナリティという"クセ"のある人たちばかり。70代後半とは思えない、安本さんの音楽に対する尽きない探究心と批評力には、驚かされます。
今回の取材当日。普段はあまりお店に顔を出さない安本さんですが、この日はわざわざお店に出られて、迎え入れてくれました。きちんとお会いしてお話するのは、おそらく十数年ぶり。にもかかわらず、ぼくのことを鮮明に覚えていてくださったことに、驚きと感激が。
「The Bandを超えるバンドは、いまだにいないですよねぇ」と言いながら、「○○っていう最近の日本の若手バンド知ってますか? 素晴らしいんですよ!」と嬉しそうに話す安本さん。
その昔、雑誌の取材で安本さんにインタビューしたときに聞いた言葉。
「『MUSIC FROM B.Y.G』という看板を掲げている以上、お客さんが聴きたいレコードは、すべて揃っていなくてはならないという信条があるんです」
とかく懐古主義になりがちなロック喫茶&バーとは一線を画すように。いまなお新旧の音楽にアンテナを張り続ける純然たる姿勢こそが、『B.Y.G』の魅力なのかもしれません。
1960年代は、渋谷の文化的な中心地だった百軒店。その地で半世紀以上にわたって続く『B.Y.G』。興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。
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