見出し画像

サンドリオン。latte(ラテ)です。

その日は、九時半に目覚ましに起こされた。前日に泣き疲れたのか意外にもぐっすり眠れた気がする。
ソワソワしながら外へ出る準備をする。外に出る日は、家を出る二時間前には起きて身なりを整えるのがすっかり習慣となった。

この日は平日、本来ならば始業している時間。しかし、おやすみをもらっている日だ。
起きてすぐ、念の為に会社のスマホをチェックしておく。特に連絡はきていない。

大丈夫そうだ、準備を進めよう。
シャワーを浴びて、身体にクリームを塗り、ドライヤーをして髪を作る。
アイロンをするときのお供はエナドリになりつつある。
セットが上手くいくかはその日の髪質のご機嫌次第、エナドリでご機嫌をとる。
傍にスマホで動画を流す。元プロ野球選手のおしゃべりにクスッとしながらも、下から順番に進めていく。
普段よりも念入りにしたつもりだけど、上手くできてるかな。

彼女たちの最後に見合うように。

どうせぐしゃぐしゃになるんだけど、それでも、彼女たちはいつも時間をかけて綺麗にしてきてくれるから。
心のざわめきを抑えながら、いつも以上に気持ち丁寧に仕上げた。

今日、十二月二十五日は、『サンドリオン』の解散の日。

私がオタクイベントに行き始める前から、『サンドリオン』は活動している。つまりわたしは、『サンドリオン』がいないオタク人生を知らない。

『サンドリオン』として、今のこの四人でパフォーマンスをする姿を見られるのは、今日で最後。この事実が脳裏にちらつくだけで涙が込み上げてくる。
まずい、今からこの調子では会場まですら危うい。気を取り直して、歯磨きをして、エアコンを止めて、明るい日差しが指す外へとゆっくりと足を踏み出した。

今回の会場はところざわサクラタウンジャパンパビリオンホールA。元々山野ホールだったはずだけれど、集団幻覚だったらしい。山野ホール?そんな会場は...元々...ないではないか…
ところざわサクラタウンは『SELECTION PROJECT』の実質ラストイベントを見届けた場所である。普通に鬱だ。

東所沢駅に向かう電車の中では、絶えずこぼれ落ちそうになる涙を悟られないように細心の注意を払う。耳元に差し込んだワイヤレスイヤホンから流れる『サンドリオン』の歌声を噛み締めながら、先日の『BUMP OF CHICKEN』のライブで藤くんが言っていた言葉を思い出しながら、自分でも制御できない感情が渦巻いていた。

「始まったら終わってしまう」「終わらなければ始まれない」あの日聞いた言葉がずっと頭の中をぐるぐるしていた。
「生きるのは最高だ!」あの日言うことができたこの言葉、サンドリオンがいなければ言えなかったかもしれない。
人生を広く支え続けてくれているBUMPの音楽と、色を失いかけていた人生に新しい色を塗ってくれたサンドリオンの音楽が、"今"重なる意味を考えていた。

BUMPが"君"に向けた音楽を受け取って、真っ先に頭に浮かんだのはサンドリオンだった。
BUMPとサンドリオンは共通して、"君"に向けた音楽を届けてくれる。いつでも居場所でいてくれる。いてくれた。

なんて考えを巡らせていると東所沢駅に着いていた。ホームに降りると何の偶然か、サンドリオン現場における初めての知り合いにばったり遭遇する。そんなことある?

会場までの道中、一度だけ来たことのある、あの日の記憶が思い出された。セレプロちゃん、、、
時間にして昼下がり、会場に着くとすでに人が集まっていた。メンバーへのメッセージカードを書いたり、徐々に集まってきた友達との会話を楽しんだり、物販を買ったり。いたっていつも通りの"ライブの日"、を過ごした。
缶バッジの当たりは一切出ることなく、私らしいななんて思いながらもサイン入りポスターはしっかりと目当てを自引きして、連番者の分も引き当てた。こういうところ。
メモリアルブックのインタビューは、こわくてまだ読めない。

辺りはすっかり暗くなり冷え込んでくるとともに、少しずつ近づくその瞬間に緊張感が増して...そんな余裕すらもなく震えながら整理番号が呼ばれるのを待つ。さむい!

やっと整番が呼ばれ、入り口でチケットを確認してもらい、半券を受け取ると、サンドリオンの半券をもらうのも最後か、と感慨に耽る間も少なく、先に入っていたみんなの元へ。今日はスタンディング、整番がすべてであり、戦争である。...と思っていたのだが、入ってみると区画分けされたような柵、花道、センターステージが見えた。そして、センターステージ横に陣取るいつもの顔ぶれ。位置取り天才すぎんか?

とても良いとは言えない整番ではあったが、ひと区画をいつメンで固めて、センターステージのおまけ付き。いつもであれば「スタンディングなのにセンターステージ!?!?!???!!??この柵の数は何?????」と文句の一つでも出るのだが、今回ばかりはもしかしたら感謝しなければならないかもしれない、と思った。

開演前のいつもとは違う会場の空気、未だ整理のつかないざわつく心、言いようのない気持ちが渦巻いて、すでに泣きそうになっていた。
心のどこかでは、いつものライブ前特有のワクワクも戻っていた気もする。これも最後なんだな。

初めてサンドリオンのライブに行ったのは、約六年前の二周年ライブの日だった。
オルスタの勝手もわからず、物販に翻弄されながら、一人で参加したあの日。ライブ前のワクワクはあの日から変わらない。

影ナレが始まり、拍手が鳴る。何を言っていたか、正直何も入ってこなかった。
「始まったら終わってしまう」
それだけが頭にあった。

あれ、配信で何か投げれば何かもらえるんだったっけ。もう間に合わないや。
そうこうしているうちに、フッと暗くなったホールから大きな歓声が聞こえてきた。

あぁ、始まってしまう。

スクリーンにOP映像が流れ、Overtureが聴こえてくる。
この頃には、ラストの始まりを飾るのはあの曲かな、こっちもあり得そう、なんて、すっかりライブモードに移っていた自分が浅ましい。

ステージに、白を基調とした新衣装を身につけた四人が揃う。この瞬間が一番好き。
一曲目は最高の物語を作るために、最後の大冒険が始まる曲。わかってはいたけど、メインステージにいるメンバーの表情を細かく確認できる距離ではなく、目に焼き付けるほどゆっくりみる余裕がない。スクリーン越しに見える彼女たちは、緊張している表情はなく、幾分か晴れやかにさえ見えた。ただ、声は気持ち上擦っていた気がする。

ライブは進み、自己紹介パートへ。
この自己紹介のコール&レスポンスも最後。二曲目に感じていたけれど、「後悔のないように、最後まで楽しんでいきましょう。」なんかもう、楽しむしかないのかも。

メドレーコーナーが始まるらしい。"肯定的思考Timeがくるならメドレーだろう"前日に話をしていたことだ。
怒涛のメドレー、ここで消化される曲、フルで聴きたかったな。
予想通り肯定的も入っていた。2019年のクリスマスライブ以来、#肯定的フルでやれ部 の活動が実ることはついになかった。
「打ち込み曲が今の楽曲に合わない」、「作り直すためにお金をかけるなら新曲にしてもらう」、などの理由は直接聞いていた。これまでの想いをぶつけるように、私たちのブロックは沸いていた。

メドレーを通して感じたことは、ここで消化された曲のうち、中盤から後半で入るであろう"メッセージ性の強い曲"が軒並み含まれていたことで、そういう気持ちにはさせてくれない、という意思である。
あくまで、"いつも通り"、"サンドリオンらしく"、残った曲たちを愛して欲しい、ということ。
ただ、私の中で一番記憶に残ったのは、"恋フルシルシがかかって、高まった瞬間終わって横転した"こと。初めてライブでガチ横転した。おもしろいって言ってたのこういうこと?ちなみに、"ひとりひとつ"はそれ以上に短く、横転する余裕すらなかった。

メドレーが終わり、続いてきた曲は"告白星"。メドレーで、別バージョンだけどやらなかったっけ、"メグル・オモイ・メグル"は別バージョンと一緒にしたのになぁ。おもしろいって言ってたのこういうこと??

幕間映像が流れ、エルタマの企画によって作成したチア衣装にチェンジをした四人が揃う。常々大事にしている、と言っていた衣装だ。後半に入ったんだな。

こんな調子でライブは進んでいくが、MCも含めてところどころにツッコミどころがありすぎる。盛り込みすぎだよ?
タオルを客席に投げようとして、あっちこっち舞っていたり、曲中に靴紐を結んで歌えなかったり。「サンドリオンっぽいよねー」いくらサンドリオンでもこれは初めてである。

私が初めて参加したイベントは、2ndミニアルバム「WANDERLAND」の予約イベント。一目惚れ、一聴き惚れだった。その頃から"Never give upをもう一度"が一番大好きで大事な曲になっていた。のだが、最後に振りを見ることが叶わなかった。正当なタオル曲、他にあるじゃん!ねえ!

ここまでのライブを通して、明確に終わりを感じて気持ちを持っていかれ、涙が流れ落ちたのは、メジャーデビュー後、初のアニメタイアップ曲"天体図"のときだった。
メインステージで始まり、花道を通ってセンターステージへ。客席を見渡して噛み締めたあと、メインステージに戻り、ステージ中央で向かい合う。それぞれの顔を見合わせて、"大丈夫"と確かめ合うように。

初披露の「ANIMAX MUSIX NEXTAGE 2023」で、ちょうど正面から見えたあみちゃんの安心した表情がすごく刺さって以来、頭から離れない。
最後もここだけは肉眼で見ないといけない、とオタクの頭の隙間から見届けられてよかったな。
その流れでの"星のLarme"は、ほとんど泣いていて記憶がありません。

最後は、どんなに遠くでも絆を感じる、ここが大好きな居場所だと伝えてくれる曲で、一つの締めを迎える。ボクはキミがいないとダメだよ...

四人が顔を合わせて、四色のスポットライトの下に移動する。"『サンドリオン』の色"だった四人が、何の色にも染まることができる"白色"になる演出でエンドロールを迎える。本当に終わるんだな。

アンコール明け、"がむしゃらリテイク"はもう、やりたかったことを全部やった、と思う。"大切なこの時間が いつまでも消えないように"。特にその場の全員での肩組み大移動、なんか円になってて笑ったけど。

そして本当に最後、"タイムトラベル"。
初めて聴いたあの日から、全ての想いを繋いできてくれたこの曲は、ライブで聴くたびに気持ちが溢れて泣いていたっけな。
自分は変われないと思っていたけど、サンドリオンに出会えて変われた気がする。サンドリオンは変わらずそこにいてくれて、一緒に歩いて来ることができた、大切な居場所だった。

あの日出会えてなかったら、今ここにいないだろうし、すべてを投げていた可能性もある。それに、このブロックに集まってる、かけがえのないオタク友達とも出会えてないんだよな。
私の人生を彩ってくれて、救ってくれて、ありがとう『サンドリオン』。

外に出ると、夜の世界に煌めくオリオン座が目に入った。

今は帰り道。以前に来た『SELECTION PROJECT』のときと同じように、抜け殻になったまま、一人で駅に向かいながらこの文章を書き出した。
先にこの文章を書いている。ここまで書き進めるのはいつになるだろう。

駅に着くと、何の偶然か先に帰ったはずの、サンドリオン現場における初めての知り合いにまたまたばったり遭遇する。そんなことある??

今日は平日、仕事帰りのサラリーマンやOLが疲れた顔で電車に乗っている。日常に生きる彼らは、わたしがさっき大事な瞬間を見届けて、大きな一歩を踏み出したことなんて知らない。
わたしだけがそこにあった大きな愛、様々な想いを知っている。それが不思議でたまらなかった。

サンドリオンのみんながいる場所は、愛と笑いと楽しいで溢れているけれど、今回ばかりは濃度がググッと高かった。そんなみんなの目は前を見据えていて、可愛くて、カッコよくて、それがなんだか寂しかった。

パレットの上の七つの色は、いつしか重なり合って六色、五色、四色になっていったけれど、私に塗られた特別な六色は、すっかり馴染んで変わることはない、わたしを作る色。
「終わらなければ始まれない」新しい始まりを迎えるみんなの目指す色は何色なんだろう。
そんなことを考えながら、日常に戻っていった。いつかまた逢える日まで。

この文章は、黒木ほの香さんのエッセイ【黒木ほの香のどうか内密に。】にある「愛情の世界」に大きく影響を受けて作成しています。
(ほのちゃんに「このエッセイを元に書きたくて~」という話は直接しています。)

https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/241021r


いいなと思ったら応援しよう!