息子さんからのプレゼントは、かわいいハーモニカ
ある介護施設(サービス付き高齢者向け住宅)に、
とてもよく話しかけて下さる入居者の女性がいらっしゃいます。
毎回、レクリエーションとして伺う『歌声広場』の準備をしているピアノのそばへ来て、「先生、先生、聞いてくださる?」と遠慮がちに静かな声をかけてくださるんです。
遠く離れた鳥取県でずっとお住まいでしたが、ご家族・親戚の看取りを全部すませたので、娘さんが嫁いだ家の近くのこの施設に転居して来られたとか。自然の中で育ったのとは違い、都会の真ん中で最初はとまどいもあったようですが、娘さんの家の家事を手伝いに、お孫さんのお世話をしに、今は充実した新しい生活を楽しんでおられるようです。
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ある日、綺麗なハンカチに包んだ小さいモノを両手で大事に持って、私のところへ来られました。
「先生、先生、ちょっとだけいいですか?」
ハンカチを開けると、小さなケースに入ったハーモニカでした。
「ま、かわいいですね!」
「お部屋でね、昔覚えた曲を練習してるんです。聞いてくださる?」
「えぇ、もちろん!」
唱歌を少しだけ、吹いて見せてくださいました。
「すごい!すごい! お上手ですね。」
心臓が少し弱いとお聞きしています。
毎回、歌の時間はとても楽しみにされていますが、声は小さいです。
ハーモニカで好きな曲を吹く楽しみは、この方にとっては肺の機能を高めるかも知れない。
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「息子が離れたところに住んでいるのですけど、時々訪ねてくれます。
この前来たときに、プレゼントしてくれたんです。色々探しまわったんだよ、って」
息子さんが選んでくれたハーモニカを手にして、音を紡ぐ喜びが、何より幸せな時間を生み出すことでしょう。
吹いているときのお顔は、とても穏やかで、
故郷の大山の景色を思い出しているかのようでした。