野菜を切る。
料理は得意というわけではないが、家庭料理であれば、そこそこはこなせる。
「女の子は料理ができないと」と、若干ステレオタイプを持ち、私を厳しめに育てた母のおかげだ。
特に野菜の包丁捌きはだいぶ手慣れてきた。
家を出た時、料理の効率化に憧れ、初めてスライサーなるものを手にしたが、きれた野菜がボウルに入らず飛び散るのと、しかもそれで手を切ったのとで、今では全く手を触れていない。器用なのか不器用なのか。
包丁を手にしたばかりの頃は、輪切りや千切り、細切りなど、野菜を均等に細かく切れず、完璧主義気味ゆえ落ち込む私に対し、「もうちょっと細く切らないと」と母から追い討ちをかけられ、イライラしながらサラダを口にしていた。
そんな母は料理が趣味みたいなところもあり、みじん切りや千切りも、まるで市販されたカット野菜をそのまま出したかのような細かさである。
「なんでそんなに細かく切れるの?」
「慣れよ、慣れ」
母がため息をつきながら飽き飽きするくらいには、こんな問答を繰り返した。
同世代よりは料理に関わっているつもりではあったが、なかなか習得できず、不信感を抱いていた。
だが、当時を振り返れば上達しないのも当たり前だ。週1か2やってればいい方なくらいの頻度でしか、台所に立ってなかったのだから。
家を出て数年、料理をほぼ毎日するようになり、先述のとおり、スライサーいらずな切り方ができるようになった。
母が言う「慣れ」とはこういうことであったのか。
今、上手くできてないことも、毎日やっていれば、悩まずストトンと捌けるようになるのか。例えば、仕事とか、育児とか。
…何年積めばいいのかなぁと物思いに吹けながら、今日の献立の酢の物を作るため、きゅうりを輪切りする昼下がりであった。
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