奈良の鹿を巡るガイドツアーから見えてきたもの
この間の日曜日に奈良公園で奈良の鹿を観察するガイドツアーを行った。当日は天気にも恵まれ、鹿たちの様子をじっくり観察することができた。
いっしょにガイドを務めてくれたTさんは、なんと!馴染みの鹿、50頭以上の鹿の顔が識別できるらしい。私は主に鹿の習性について、Tさんは個別の鹿のエピソードについて、参加者に説明した。
そんな中、Tさんの顔が曇る場面があった。ガイドツアーの途中で浅茅が原という大きな木がたくさん生えている場所を通ったときのことだ。ある一角だけ木が切られて、広場のようになっていた。
Tさんの話によると「ここには以前たくさんのカシの木が生えていて、鹿たちの休憩場所でした。秋にはたくさんのどんぐりが落ちてきて鹿たちの貴重なエサになっていたんですが、奈良県が切ってしまったんですよ。」とのこと。なんでも新しくできたホテルからの景観をよくするためだそうだ。
しかし、一部の人たちへの景観だけのために木を切ってしまうことはいかがなものか。そもそも奈良の鹿は奈良の観光シンボルである。鹿たちが奈良公園で生きていけるように環境を整えるのは、県の役目ではないのかな?それに木陰があることで、夏でも浅茅が原を散策する際に暑さをしのげて人も助かっているというのに。たくさんの木を切ってしまったら、ただでさえ暑い真夏の奈良公園で熱中症リスクが高まるではないか。それに、景観という点では木がある方がよいという意見もある。トータルで見て木を切ることが観光にとってもマイナスになるのではなかろうか?
それにもう少し広い視点から眺めてみると、木は二酸化炭素を吸収して地球温暖化を和らげてくれるという事実がある。つまり今ある木を切り倒してしまうことで、地球温暖化を悪化させることを後押ししているのだ。東京都や大阪市で樹木の伐採を検討しているというニュースを見るたびに、日本の環境問題への関心の低さにあきれてしまう。現在、地球温暖化による干ばつや異常気象が頻発することで農作物の不作が続き、ひいては食品価格が上昇し、私たちの家計に大きな打撃を与えている。これに対して、何とか防がなければならないと、政治家や行政は思わないのだろうか。
農作物ばかりでない。最近気になる記事を見つけた。11月18日の日経新聞によると、地球温暖化による海水上昇でプランクトンの個体数が過去80年間で24%減少したとする結果を東北大学のチームが発表したというのだ。そしてこの傾向が続けば、2050年、2100年には多くの種が絶滅する恐れがあるというのだ。こちらの方が深刻である。サンマが高くなった!などと言っている場合ではない。プランクトンがいなくなってしまえば、すべての魚が海からいなくなってしまうではないか。そうなれば、食料危機である。
残念ながら、樹木の伐採はいたるところで起きている。今年の秋は例年と比べて暖かい、紅葉がなかなか見られない、など天気予報ではのんきなことを言い続けている。しかし、のんびりしている間にどんどん地球温暖化が進行して、私たちの食卓から食べ物が消えてしまう日がくるかもしれない。自分にできることとして、周りの環境に目を向け、可能な限り樹木の伐採にストップをかけていかなければならないのでは、と鹿のガイドツアーを通じて感じた。