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オープン・イノベーション on CPS Part 2



DXを成功させるためのデジタル化の心得、CPSの狙い


1.ABC-Hub活動のスタート

  第1回のnoteでのレポートでは、ABC-Hub(Academic Business Collaboration Hub)の第1回ミーティングの活動内容をご紹介した(Open Innovation on CPS 1 )。
 ここでは、東京都市大学の学生と協議会会員の企業人材を迎えた初顔合わせであり、お互いに何が始まるか、手探りでオープン・イノベーションの手ごたえを掴んでいただいた。初めてのテーマで、また、これまでと違うコラボレーションに戸惑いながらも、皆さんが積極的に議論と発表を進めていただき、新たな第一歩を踏み出していただけたようだ。


前回のオープン・ディスカッションの様子

 ここから更なる深堀や広い議論に展開してくわけであるが、そのまえに、読者の皆様に本活動の基盤コンセプトである「オープン・イノベーション」の新しさ、独自性とともに、デジタル化を進めることについての見識、留意点をご紹介しておこう。

2.「オープン・イノベーション」活動の実情と留意点


 まず、「オープン・イノベーション」について再度、考えてみたい。前回、我々の考えるオープン・イノベーションについてお話ししたが、トレンドの言葉に踊らされずに本来の意義や狙いを忘れないで活動を進めることが肝要だ。文部科学省はオープン・イノベーション以下の様に説明している。

■「オープンイ・ノベーションとは、企業が技術の価値を高めようとする際、内部のアイデアとともに外部のアイデアを用い、市場化の経路としても内部の経路と外部の経路を活用することができるし、また、そうすべきであると考えるパラダイムである」(“Open Innovation is a paradigm that assumes that firms can and should use external ideas as well as internal ideas and internal and external paths to market, as the firms look to advance their technology.”)

■「オープン・イノベーションは、企業が自らのビジネスにおいて外部のアイデアや技術をより多く活用し、自らの未利用のアイデアは他社に活用させるべきであることを意味する」(“Open Innovation means that companies should make much greater use of external ideas and technologies in their own business, while letting their unused ideas be used by other companies.”)

■「オープン・イノベーションとは、内部のイノベーションを加速し、イノベーションの外部活用市場を拡大するために、その目的に沿って知識の流入と流出を活用することである」(“Open Innovation is the use of purposive inflows and outflows of knowledge to accelerate internal innovation, and expand the markets for external use of innovation, respectively.”)

「文科省・科学技術白書/オープン・イノベーションの加速」より

 このような考え方はその通りではあるが、単純に読み取ってしまうと、日本人の行動規範では水平に広げて母数を増やせばよいという活動に陥りやすい。残念ながら日本のオープン・イノベーションは「オープン・イノベーション」というより、「オープン・ソリューション」といったほうが良い活動のほうが多いように見受けられる。


オープン・ソリューションとオープン・イノベーション

 「三人寄れば文殊の知恵」はアリだが、「できることの範囲での合意形成」に陥らず、「まだ見ぬ姿、価値を生み出す行動」へと進む指針と意思が必要だ。寄ってたかって新しい価値づくりができれば儲けものではあるが、そのようなことは起きることはない。逆に衆愚状態に陥ってしまい、当たり前のモノが当たり前にできてしまうだけということになりかねない。ここでは、イノベーションを目指すという本来の狙いや活動指針を毅然とした姿勢で打ち出し、理想を追求する強い意志とオープンでニュートラルな感情で進めていくことが求められる。

3.イノベーションでのデジタル化の誤謬(ごびゅう)

 次にDX、デジタル化を進めるポイントとしても考えておきたい。本連載の第1回で少し、言及したが、一般社団法人グリーンCPS協議会ではCPSプラットフォームの上でのデジタルコミュニケーションによる「新結合」の在り方を目指すことを当初からの活動目標に掲げている。デジタル時代の取り組みでは、従来の活動に対するひとつひとつのデジタル化に留まっていてはならない。「森を見ないで枝葉を見てしまう」、「枝葉を見ないで森を見よ」とは、旧来からよく言われた格言である。

 オープン・イノベーションの観点では、枝葉を見ることで得られる小さな価値より、森を見ることよる価値の方が圧倒的に大きいのは説明を要しない。そもそも、スコープ全体を拡げ、大きな価値を探索しようとしている。また、時代の変化に合わせて「森」自身を変えていくことが本質的な革新である。その革新は枝葉を起点とすることではなく、森そのものの構成が大きな環境に合わせて変革していくことがサスティナブルであるための行動規範となる。
 今日、「DXを進めています!」、「ウチはDXできています!」という話をよく聞くが、単に従来のある局所的な作業をデジタルに置き換えることだけで「DX化できている」と誤認している組織は多い。
 そして、ここでの問題はそのレベル(範囲)でのデジタル化で業務が固着されてしまうと、将来の飛躍、つまり大きな視点での業務改革へ向けての「足かせ」になってしまうことにある。


部分最適は、直接的には全体最適につながらない


 枝葉の取り組みは否定されるべきものではない。ただ、その場合、活動のひとつひとつが森の動きを見ずに従来の活動のままにデジタル化されてしまうと、デジタル化された個々の活動を総合的に再統合することが非常に難しくなる。いわゆる、「たこつぼ化」である。

組織、システムの「たこつぼ化」

 一旦、たこつぼ化されてしまえば、部分最適から全体最適へは繋がらない。1番目の理由は、部分のデジタル化は比較的、簡単であり、いかにも「やった気になってしまい」、成果を誤認してしまうこと。2番目の理由は、部分デジタル化された異種で個々のモザイクの積み上げによって全体構成を再構築していくことは難しいことである。各々の石工が自分の思惑で切り出した石材を集めてもお城の石垣は再構築できない。環境の変化に合わせて石垣全体を柔軟に変化させてサステイナビリティを得るためには、石垣全体のシステム設計に対応してそれを構成するピースの設計が必要になる。

ミニコラム
余談ではあるが、この「たこつぼ化」は企業の内部組織に留まらず、企業全体、サプライチェーン、はたまた、産官学連携による技術研究や行政、また、教育機関、政治、さらには国民の生き方にも伝染しているように見えるのは筆者だけではない。ある意味、日本の構造的な社会問題でもある「たこつぼ化」を打破して、新しい日本にイノベーションしていくためには、小さいながらも本活動のような動きを発信していくことが重要と考えている。

 デジタル化へ向けてまず、考えるべきことは、デジタル化する前にそのサービスが関係させるべき範囲を広げて組織としての目指すビッグ・ピクチャーを描き、それへ向けたデジタル化として目指すものを議論していくことが肝要だ。本オープン・イノベーションの活動の意義はそこにある。「IoT」ブームもひと段落したかもしれないが、IoTでデータを集めてみて何ができるかを考えてみても、結局、出口が見えない状況に陥ることも、ある意味、同根であると考えてよいだろう。


IoT活動のあるある、DX化の壁と「IoT PoC疲れ」

 矮小化した足元のデジタル化により、本来、進めるべき大きな成長を止めてしまうということになる。
 ABC-Hubの本活動をデジタル化、DX化の観点で観ると、デジタル化の誤謬に陥らず、「あるべき姿」へむけてビジョンを描くトレーニングであるとも言える。システム全体のポテンシャルを深めるとともに顕在化して、既存組織が持つDX化の壁を突破するアプローチだ。

4.価値づくりをCPSで進めることの意義

 ここまでお話しした点をインダストリー4.0(第4次産業革命)の概念で整理してみよう。ご存じの通り、インダストリー4.0はドイツの acatech(ドイツ工学アカデミー)が2014年6月に発表したコンセプトが基盤となっている。
 ここでインダストリー4.0のロードマップ(下図)では、インダストリー4.0の実装はCPS(Cyber Physical System)であることが示されている。つまり、インダストリー4.0が目指すものは「CPS」である。デジタル化ではなく、デジタル化を通じて様々な社会サービスが繋がることにより新しい価値を生まれることを目指そうとしている。


Industrie 4.0 が目指すものはサイバーフィジカルシステム(CPS)

 ここで、acatech が発表した構想のなかで、インダストリー4.0のアーキテクチャを「RAMI4.0(Reference Architecture Model Industrie4.0)」として著している(下図)。このRAMI4.0構造は3次元で各事業活動の関係性を整理しているが、すなわち、それぞれの軸はそれらの相互関係性において意味があることを示している。このRAMI4.0アーキテクチャ図を用いて、部分最適のデジタル化と全体最適のデジタル化を示してみよう。


RAMI4.0とデジタル化スコープの相互関係性(RAMI4.0に著者が追記)

 まず、短絡的で部分最適なデジタル化、つまり、現状、目の前に見えている狭い範囲のデジタル化スコープは関係①(白線)で表される。現場の装置レイヤーの直接的な関係をピックアップして、その処理データ同志を繋ぐ活動だ。ある仕様の個別設備とある仕様の個別設備が繋がって動作すればよいという実装で、目の前のムダ取りに興味がある日本の現場ではやってしまいがちになる。ここでの問題は、事業現場では多様な関係があるにもかかわらず、想定された対象間の関係にのみ特化してしまっているため、業務システム全体の大きな振る舞いに対して、対応できなくなるということだ。
 この問題を解決するためには、関係①(白線)の現場の装置レイヤで接続することでなく、顧客やサプライチェーンとの関係性であるビジネス・レイヤーの視点で見ていくことだ。ビジネスとビジネスを繋ぐことに新たな価値を見出そうとするならば、装置と装置の関係ではなく、企業と企業、組織と組織の関係(赤線)を革新することで新しい価値を見出すことに繋がる。
 このような取り組み姿勢は、オープン・イノベーションにおけるアブダクションの思考による新しい価値を見出すアプローチと一致している。つまり、オープン・イノベーションの実装はCPSのアーキテクチャのフレームワークで考えることで気づきを生み、新しい価値の実現に繋がる。

 前節の「DX化の壁」の問題提起に対応すると、CPSを構成するフレームワークでの全体最適の指針設計がブレークスルーのためのアプローチであると言える。IoTからのボトムアップの限界を突破するためには、「たこつぼ化」されがちな各組織の実活動における異種問題を、「セマンティックス・インターオペラビリティ―」により全体問題のレイヤーに昇華して接続することで全体最適に指針を得ることが有効だ。「セマンティックス」とは意味論であり、異なった「たこつぼ」の主張(意味)を同一レイヤー、共通のKPIで評価して制御するためのメソッドと考えていただいてよい。
 ここでのセマンティックス・インターオペラビリティにより、異種の活動を統合化して全体最適化することを起点に、どの様な部分最適を進めていくか、つまり、どの様なシステム実装が必要かを解き明かしていくことこそ、デジタル化の時代に生きる我々が注力すべきポイントだ。

CPSでのセマンティクス・インターオペラビリティによる全体最適


 ABC_Hubの活動は、オープンディスカッションから始まり、構想設計からシステム実装へ向けて、CPSのコンセプトの上で展開していく。今後の動きが楽しみだ。



本活動のレポートはこの note のページで継続的に発信していく予定ですので、ご意見やご提案等、以下のアドレスまでお声をお寄せいただければ嬉しく思います。
 
e-mail: info@greencps.com
 
一般社団法人グリーンCPS協議会 WEB: https://greencps.com/
東京都市大学 デザイン・データ科学部 大久保研究室
https://www.ke.tcu.ac.jp/labo/ims09/
 

■ 「オープンイノベーション on CPS part1」 
「オープンイノベーション on CPS part2」 (本稿)
■ 「オープンイノベーション on CPS part3」 
■ 「オープンイノベーション on CPS part4」 
■ 「オープンイノベーション on CPS part5」 


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