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オープン・イノベーション on CPS Part 3

第2回ミーティング/知の探索・創造活動の意義と進め方



1.発想のポイント

発想力、思考力から知の探索・創造活動を進める

 2024年5月25日、前回に引き続き東京都市⼤学の渋⾕サテライトクラスで「アカデミック=ビジネス・コラボレーションHUB(ABC-Hub)」の第2回ミーティングが開かれた。
 ミーティングではまず、グリーンCPS協議会の中村昌弘理事長が前回のワークショップを踏まえ、発想のポイントを以下のように整理した。

・自由に発言する。
・アイデアを批判しない、判断や決断もしない。
・質より量を重視する。
・アイデアを組み合わせる。

 中村理事長は「どんどんアイデアを出せば出すほど、それに伴って質も良くなります。前回、自由に意見を出し合ったブレインストーミングをもとに、さらに議論を深めていきましょう」と参加者に呼びかけた。
今回のレポートでは、この日の活動を紹介するとともに、ABC-Hub全体の進め方の考え方としての「知の探索・創造」活動の意義を説明する。

どんどんアイデアを出せば出すほど、それに伴って質も良くなります。

2.思考のフレームワーク

 前回のワークショップを踏まえて今回は「二次元化思考のフレームワーク」に取り組むことになった。前回、グループで出した様々なアイデアをそのまま使って、今回は縦軸と横軸の2つの軸からなるマトリクスで分類するのである。ここで中村理事長がポイントにあげたのが、どのような軸を採るかだ。

思考のフレームワーク

 はじめての体験となる学生にもわかりやすいよう、いくつか例が紹介された。

・「店舗の立地条件」をテーマに、「雰囲気」の軸は「落ち着いた」と「賑やか」、「価格」の軸は「低価格」と「高価格」
・「新聞やテレビ、SNSなどメディア」の場合、「信憑性」の軸は「高い」か「低い」か、「速報性」の軸は「速い」か、「遅い」か。
・「ヒーローもののキャラクター」の場合、敵か味方か、強いか弱いか。

 ひとつの事柄を、ふたつの切り口で見るのだが、同じテーマであっても、人やグループがどこに注目し、何に関心を寄せるかによって軸の取り方は異なってくる。今回は学生3グループ、社会人1グループの計4グループに分かれて最初のワークショップに取り組んだ。

3.ワークショップ1

 今回の活動では、まず、約40分間の討論を踏まえ、グループごとに発表が行われた。

グループ毎の発表

 最初の学生グループは前回、1枚につきひとつのアイデアを書き込んだたくさんの付箋を「デザイン・AI」や「利便性・あったらいいもの」「問題点・課題」などに分類していた。それを今回は、「現実」と「理想」を結ぶ縦軸、「特定のニーズ」と「ニーズが広い」を結ぶ横軸という2軸で、4つのセグメントに分類した。なぜ、その軸にしたのかについて、発表者は「たくさんのアイデアがあったので、制限時間内でキレイに分類しようという思いで軸を選びました」と述べた。その結果として、「理想」と「特定のニーズ」で分類されたセグメントの付箋が比較的、少数となった。その理由について発表者は「どちらかというと私たちは、広いニーズがある現実の社会で暮らしているので、そこはちょっと見えづらいというのがありました」と述べた。

 2番目の学生グループは前回、アイデアを「環境」や「素材・技術」「管理」などに分類していた。今回は「B2C」と「B2B」、つまり個人向けかビジネス向けかを結ぶ軸を縦軸とし、「現実」と「理想」を結ぶ軸を横軸として分類した。その際のポイントとして、「社会が変わること、新技術で課題を解決できることに私たちは注目しました」と説明した。
 中村理事長は、「理想」と「個人向け」で囲まれたセグメントが比較的薄くなっていることを踏まえ、「こっちのほうを深堀りしたら、面白くなる可能性があります」と指摘した。

 3番目の学生グループは前回、「願望」や「新技術」をメインの分類としていた。今回は「プライベート(趣味)」と「仕事・社会」を結ぶ縦軸、「既存・変化」と「新規開拓」を結ぶ横軸の2軸を設けた。発表者は「改めて付箋に書かれたアイデアを見て、私たちが求めているものって、誰に対してなのか、どこで使うものなのか、どのようにして使うのかという話になりました」と討論の経緯を説明した。その上で「分類する前は、プライベートのほうが多いと思っていましたが、分けてみたら以外に、仕事とか社会に求めるものが多いということがわかりました」と報告した。

 これらの報告を踏まえて中村理事長は、「『ぼくたちの思考は、ここが薄いんじゃないのか』ということに、自分で気が付いたことに意味があります。自分たちの思考を客観的に広い目で見ることができたということです」と、指摘した。

思考の広がり、偏りが見えてくる

 その上で「そこにこそ、ぼくたちが気付いていない宝物が、ひょっとしたらあるかもしれない。素晴らしいヒントが隠されているかもしれない」と強調した。

 最後は社会人グループである。前回はアイデアを「コンテンツ」、「紙以外」、「場所を問わない」「サステナブル」などに分類した。今回は「リアル」と「バーチャル」を結ぶ縦軸、「過去」と「未来」を結ぶ横軸の2軸を使って分類した。その上で報告者は、媒体メディアは視覚に訴える紙だけでなく、味覚だったり触覚だったり、様々あるとし、このように「手段は違っても、情報を伝えるという共通点を再確認しました」と話した。

 ワークショップ1の締めくくりとして中村理事長は、「みなさんの思考の、隠された課題が見えてきたように思います」「偏るということは、思考のヌケがあるかもしれないということ」とコメントした上で、次の段階として「書いていないところ、ヌケているところを、追いかけてみましょう」と求めた。

4.ワークショップ2

今回を含め、これまでの2回は学生グループと社会人グループに分かれて、ディスカッションを行った。次回の開催からは産学混成チームとし、「印刷」をキーワードとした新しいビジネスモデルの設計がテーマとなる。
 そこで今後の活動に各自の考えを発信していくために、これまでの思考訓練を踏まえて各人がそれぞれ、自分の考えたテーマを検討し、とりまとめて最後に全体発表を行った。

次のステップへむけた個人のアイデアの整理


企業人の人たちも個々のアイデアをまとめる

 以下に箇条書きで紹介する。

 まずは学生から。
・コンビニの印刷と証明写真の値段を安くしてほしい。
・たまったレシートの使い道。印字されたレシートの再利用。
・家以外の場での印刷料を少しでも安くしたい。
・人の思いや考えを「念写」。
・プリンターでインクを回収し分類して再利用。
・人工臓器。
・コンクリートに色付けする。
・感情を形で表す。
・本の読み取りをきれいにできるようにする。
・(人手不足を背景に)印刷したら人型ロボットが生まれる。
・業務マニュアルの即時表示。
・座席デザインを容易に変更。

 次に社会人。
・経歴と好きなものの写真、ストーリーの結びで、自分史に近いパーソナル小説を作る。
・コンテンツのアウトプット・インプットの多様化、パーソナライズ。
・会議、話、音声、表情、空気を読み、記録・要約する。
・メッセージに込められた感情がわかるようにする。
・難しい本の内容を、数枚の絵に要約する。


個々のアイデアの発表

 今回の提案をたたき台にしながら次回以降、イノベーションを目指した具体的なビジネスプランの検討に入ることになる。

5.「知の探索・創造へ向けた」のための思考モデル

 ここまでご報告させていただいたように、学生、企業人が参加したワークショップ活動は順調に滑り出した。それぞれの「個」を確認し、自らの思考力を高めることからコラボレーションを進めることが重要であるため、これまでは学生グループ、または個人ベースでの思考ワークショップを進めてきた。このような前準備がなければ、オープンイノベーションそのものが効果を発揮しないため、思考訓練をおこなってきたわけだ。

 ここで、この活動の意義と位置づけをまとめておくとすると、SECIモデルで説明するとわかりやすいかもしれない。SECIモデルとは、一橋大学の野中郁次郎名誉教授が示された、価値創造へむけたヒトの思考モデルであり、ひとつの秀逸な思考モデルである。

SECIモデル(野中郁次郎名誉教授のSECIモデルに筆者が追記

個人が持つ知識や経験を組織全体で管理・共有し、新たな知識を生み出すサイクルである「SECIモデル」。ナレッジマネジメントの基礎理論とされ、知識創造のための継続的なプロセスモデル。
・共同化(Socialization)
・表出化(Externalization)
・連結化(Combination)
・内面化(Internalization)
これらの頭文字をとってSECI(セキ)モデルと名付けられました。この4つのプロセスを何度も繰り返すことで、組織内で知識が普及し、創造され、実践につながる、という考え方です。
野中氏が1995年刊行の『知識創造企業』でSECIモデルを提唱した後、SECIモデルと文献は世界各国で注目され、ナレッジマネジメント分野で最も引用される文献となりました。

 これまでの活動は、SECIモデルで言う「表出化(Externalization)」を行う活動にあたると考えてよい。各個人の暗黙知(今回は潜在アイデア)を形式知化することを目的としており、各個人が潜在的に持っているアイデアや思考を顕在化させることを行ってきた。
 各個人の考えを、潜在レベルから何回かのワークショップを通じて「提案したいテーマ」として表出化できたわけだ。SECIモデルで言うと、第1象限の右上へ向かう活動で(上図を参照)、これがあることによって、連結化(Combination)としての学生、社会人を交えた議論が成り立つ。ぼやっとしたアイデアを持ち寄って、さも、やった感だけのワークショップでは意味がない、乏しい成果しか現出しないことは、強く意識する必要がある。

 翻って今、なされている多くのオープン・イノベーション活動はどうなのだろうか。「イベントとしての盛り上がり」自体が目的、成果になっているように見える活動が多く見えてしまうのは、筆者だけではないだろう。

6.今後の展開、サンドボックス活動の開始

 このような前準備をしっかりと行ったうえで、いよいよ、連結化(Combination)の段階へと進んでいく。SECIモデルで言う、第1象限から第2象限へ展開していく形式化へ向けた活動である。
 個々の発想から出発し、学生と社会人という異なった立場から生まれた形式知同志をぶつけ合う。そのぶつかり合いからアブダクション(Open Innovation on CPS1を参照)を惹起して意味のある発想をさらに生み出し、組織として実行可能な形式化を進める。サンドボックス活動の本番に向けて展開していく。

サンドボックスでのオープン・イノベーション活動




 本活動のレポートは引き続き、この note のページで継続的に発信していく予定ですので、ご意見やご提案等、以下のアドレスまでお声をお寄せいただければ嬉しく思います。
 
e-mail: info@greencps.com
 
一般社団法人グリーンCPS協議会 WEB: https://greencps.com/
東京都市大学 デザイン・データ科学部 大久保研究室
https://www.ke.tcu.ac.jp/labo/ims09/
 

■ 「オープンイノベーション on CPS part1」 
「オープンイノベーション on CPS part2」 
■ 「オープンイノベーション on CPS part3」 (本稿)
■ 「オープンイノベーション on CPS part4」 
■ 「オープンイノベーション on CPS part5」 





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