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Vtuberへの依存をやめられた話

 私はいわゆるイラスト描きで、家で仕事をする人間だ。
 最初はアーティストのPVを眺めたりラジオを仕事のお供にしていたのだけれど、ある日友人に勧められてVtuberを見始めた。その人は配信間隔さほど頻繁ではなく、追いやすく話もうまくなによりアバターが好みだったのでとにかく苦痛なことがなく楽しかった。少し口が悪いところも、なんだか共に仕事をがんばる戦友のように感じられた。テレワークが続き、似たような環境に置かれた仕事仲間の友人にも布教して、一緒に配信を楽しんだ。
 同じ事務所の他のVの配信をも楽しみ始めて、生活の大部分は外出できないこともあって、youtubeと共にあった。

 そんな幸せな生活が続いた頃、だんだん推しに変化が現れてきた。推しは決して歌がうまい方ではなかったけど、仲間と一緒にたまに歌動画をあげている人で、少しずつうまくなっていったのを楽しみにしていた。しかし、ある時からだんだんと事務所の方針なのか、アイドルみたいなことをやるようになってきてそれを「なんか違う」と思ってしまうようになってしまった。
そんなせいか推しを取り巻く環境も一気に殺伐とし、登録者数や同接ばかり取りざたされるようになり、同じ事務所のV同士で比較されるばかりになってしまった。推し自身にもいろいろなことが起こり、浮いたり沈んだりを我が事のように感じるようになってしまった。

そんなある日、推しの中の人に対してカップル疑惑が上がった。
私は推しのことは好きだけどガチ恋かと言われると首をかしげてしまう感じで、若いこともあり、正直なところ恋人がいるんだろうなと普通に思っていた。
 なのにも関わらず。その相手の事がイライラするようになってしまった。その相手のライバーの性格が、どうしても苦手だったのだ。相手はもともと推しのファンだったと本人が語っており、それとなく己の配信で推しの配信のパロディを何度もしたり、自分こそ推しに好かれて困っていると第三者に語ったり、なにかと匂わせたり、相手のリスナーも推しの話題をやたらと擦るようになっていた。そのライバーの配信は見なくなったものの、推しに関する情報を集めるコミュニティのそこかしこに、その相手との「お気持ちコメント」や「煽りコメント」が目につくようになり、何もしなくても相手の情報が筒抜けになるほどで、その仲がいいのか悪いのか中途半端な態度によるものなのか、うっすらと感じている苦手意識はどんどんと嫌悪感に変わり、しまいにはありえないほどイライラしてしまった。仕事も手につかなく、その相手の名前を見るだけでイライラしっぱなしになってしまった。このとき、正直自分がガチ恋にでもなってしまったのかと思っていた。

 そんな私に、推しの布教をした友人が私に仕事を振ってきてくれたので打ち合わせついでに推しのことを含めて軽く愚痴ると、彼女はこう言った。
「○○ちゃん。推しに依存してない?」
 友人は私にわりと急ぎの仕事を振ってくれたからか、かなり親身に相談に乗ってくれた。ブラウザから推しとその相手の名前が出ないようにしてくれ「とりあえず1月見ないようにしてごらん、そうすればだんだんどうでもよくなる」と言ってきた
 それでもどうしても気になってしまって筆が止まる私に友人は劇薬を渡してきた。
「○○には怒られると思って言わなかったけど。○○の推しにそっくりだと思っていた人がいる」
 そう言って、よりによって「ジェネリック推しの人」を勧めてきた。しかし、そのジェネリック推しの人がなぜかとてもよくきいた。
 正直、外見と雰囲気はすこし似ているけど中の人は全く似ていない。しかも、推しの人以上にサービス精神が強くかいがいしく、その人の得意とする分野が私の仕事と近しく尊敬する要素すらあったり、そして一番の差はリスナーをお姫様の如く扱う優しい人だった。あまりにも違うが、違いすぎてバカバカしくなってしまった。むしろ「違う」ってなんだろう、何をもって私は推しを推しと思ってたんだろう。そこまで行ってしまった。そしてそう思った瞬間、友人が私に言った言葉が頭に降り注いだ。
 「○○の推しはVファンなんだよね、こんなことを言うのもあれだけど、正直私は推しも根っこは多分○○の嫌いな、お気持ちする人(推しや相手のガチ恋)とVに対して考えてること大して変わんないし、もっと極端なこと言うと○○とすら同じようなこと考えるんじゃないかな。(好きなものの傾向からして)多分○○が思っているほど完璧で清廉な人じゃないと思うし、推しもそうとは思って欲しくないとは思ってるんじゃないかな。自分の身になって考えてごらん。○○、推しに夢を見過ぎてない?」
 そういえば、推しもVばかり見てないで他にも目を向けるべきだ、なんて言っていたな。もしかしたら推しというよりも推しが作り出すVというキャラのイメージが他者によって損なわれることに対してイライラしていたのかもしれない。相手のことは今も嫌いだけど。そう思うと、なんだか妙にスッキリし、あれほど難航していた仕事が無事仕上がった。

 そして一ヶ月たった今、結局推しの配信は普通に見ているのだけれど、前ほどの情熱というか執着は無くなった。配信も半分くらい見てない。むかし好きだったお笑いタレントの配信や、趣味への時間の割合がだいぶ増えた。きっと今ならカップル疑惑のあの人が出ても配信ごと穏やかにスルーできるんじゃないかなと思う。

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