![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170694210/rectangle_large_type_2_16018324d2cb21da2f843dd9add38b1d.jpg?width=1200)
シバの女王ベルキス/レスピーギ
オーケストラの世界では無名なのに吹奏楽コンクールの世界ではお馴染みのベルキスについて書きます。
(イタリア語読みだとサバ)
【ベルキスの演奏史】
バレエとしても上演されず、組曲としても全く知られず、ベルキスは長い眠りについていました。
カラヤン/ベルリンフィル等、昭和の一流指揮者や一流オケの演奏が一切残されていないのはそのためです。曲の存在すら知られていなかったのです。
【出土と発掘】
そんなベルキスですが、1985年頃、指揮者ジェフリー・サイモンによって見出されます。
ジェフリー・サイモン指揮フィルハーモニア管弦楽団によるバレエ組曲版のオーケストラCDがChandosレーベルから発売されたのです。
Chandosというレーベルは、マイナーな作品を積極的に録音し発売するという立ち位置でした。
【眠りから覚める】
かたや吹奏楽の分野においては、マイナーなオケ曲を吹奏楽の標準編成に編曲して全日本吹奏楽コンクールで演奏する、という潮流がありました。
吹奏楽コンクールの規定時間は課題曲→曲間含む→自由曲で合計12分です。12分を1秒でも超えるとタイムオーバー失格になりますから、自由曲では曲のカットが行われます。
その年の課題曲の長さによっても自由曲の持ち時間は変動しますが、7〜8分程度のことが多いです。
インターネットの存在しない時代、吹奏楽部の先生や編曲家の方々はアンテナをあちこちに張り巡らせて知られざる原石(曲)探しに苦労したはずです。
そんな中でベルキスは長い長い眠りから覚め、吹奏楽コンクールの分野において大躍進してゆくのです。
【吹奏楽コンクールで人気爆発】
1988年 東北代表 東北学院大学(編曲:淀彰)
Ⅰ ソロモンの夢(の前半)
Ⅳ 狂宴の踊り(頭から。Tpソロあるが短縮)
*全国大会銀賞
全日本吹奏楽コンクール初演されました。
(抜粋ですが、日本初演の可能性もあるそうです)
1989年 九州代表 福岡工業大学附属高等学校
(編曲:小長谷宗一)
Ⅱ 戦いの踊り
Ⅲ 暁の踊り(の前半)
Ⅳ 狂宴の踊り(の後半)
*全国大会金賞
翌年福工大附属が東北学院大とはまた違ったアレンジ、カットで全国大会に進みます。指揮の鈴木孝佳先生最後の年です。
戦いの踊りで始まるインパクトはとにかく強烈で、この楽章は前年の東北学院大も演奏していない箇所でしたので、その衝撃はさぞ凄かっただろうと思われます。
今から35年前、当時の普門館の熱狂を伝える貴重な動画はこちら。凄まじいブラボーと割れるような拍手です。(前半は課題曲で、自由曲のベルキスは5分すぎから)
その後、この福工大附属カットのベルキスはまたたく間に一世を風靡し、吹奏楽コンクールで聴かない年はないほど数多く演奏されるようになったのは周知の通りです。
福工大附属のインパクトの陰に隠れてしまっていますが、初演は1年前の東北学院大ですからね、お間違えのないように。福工大附属は小長谷アレンジ版の初演、Ⅱ 戦いの踊り、Ⅲ 暁の踊りの初演ということになると思います。
【フィギュアスケート界に進出】
2006年の世界選手権でアメリカのキミー・マイズナー選手がなんとベルキスでフリーの演技をし、チャンピオンを獲得。その演技は全世界に放映されました。
(ものすごいツギハギカットなのはご愛嬌)
【バレエ全曲版】
バレエ全曲版というものもDVD化されているようです。Youtubeに抜粋がありますが、奥に合唱団もいて、原曲のバレエ全曲版がいかに桁外れのスケールだったかが分かります。
この8分ほどの抜粋は終幕でしょうか。戦いの踊りっぽい音楽から始まりますが、聴き慣れた組曲版の戦いの踊りとはちょっと、いやだいぶ違います。新鮮な発見がありますね。そして狂宴の踊りで終わっています。
中間部のソロはトランペットではなくテノール独唱です。(組曲版スコアにはどっちでも良いと記載)
このテノールさん、組曲版でミのところをドで歌ってますが、バレエ全曲版は音が違うのでしょうか?
あと、トランペットさんが大事なHi-Dをミスっています…
【楽章の入れ替えについて】
さて、話を組曲版に戻します。
この4曲のレスピーギオリジナル曲順は次の通りです。
1 ソロモンの夢
2 暁の踊り
3 戦いの踊り
4 狂宴の踊り
ですが世界初録音であるサイモン盤は楽章を入れ替えて演奏していました。
サイモン盤
1 ソロモンの夢
2 戦いの踊り
3 暁の踊り
4 狂宴の踊り
どういう経緯でサイモンが楽章を入れ替えたのかは私には知る由もありませんが、この入れ替えはある意味天才的発明だったのだと思います。
この楽章入れ替え発想に基づく演奏効果は絶大で、ソロモンの夢が静かに終わったところに強烈な戦いの踊りが始まり、次にまた静かで妖艶な暁の踊りが来て最後に狂宴の踊りで幕を閉じるという非常にメリハリの効いた組曲になりました。
かたやレスピーギのオリジナル曲順はメリハリに欠けます。ソロモンの夢が静かに終わり、また静かな暁の踊りが始まるのです。ここで私はちょっと退屈に感じてしまうのです。
吹奏楽コンクールのプログラムでは
Ⅱ 戦いの踊り
Ⅲ 暁の踊り
となっていることがほとんどだと思います。
【気になる箇所】
サイモン盤に譜面と違う箇所があります。「暁の踊り」11小節目フルートソロ6番目の音符、スコア、パート譜ともにソの♭の箇所をソのナチュラルで吹いています。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/163400223/picture_pc_e7357040f03408b253f1092e0cd8d895.png?width=1200)
吹奏楽コンクールでもみんなソのナチュラルで吹いてますね。
ここはレスピーギの手書き譜ではどうなっているのか気になります。
【オーケストラCDについて】
前述のサイモン/フィルハーモニア管のオーケストラCDをはじめ、少ないながらもいくつかCDは発売されています。
【おすすめ盤】
私の個人的おすすめ盤のご紹介です。
アレッサンドロ・クルデーレ指揮
ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161404136/picture_pc_48c46f3c529e73a1fa04d2381ade57b6.png)
私はCDを購入しましたが、ナクソスミュージックライブラリー(有料)にもあります。
ナクソス会員の方はそちらから聴くことができますし、私の住んでいる自治体では公立図書館の電子書籍のカテゴリから入って聴くこともできますので(無料)、興味のある方はいろいろ検索してみてはいかがでしょうか。
さてこの演奏、楽章順はレスピーギのスコア通りで
1 ソロモンの夢
2 暁の踊り
3 戦いの踊り
4 狂宴の踊り
となっています。前述のフルートの箇所は楽譜通り♭で吹いています。
【CDの感想】
長らく一般的だったサイモン盤がヴァイオリンの高音がキンキンしてうるさく耳障りなのに対して、こちらクルデーレ盤は高音がしっとり美しくて耳に心地良いです。
そして金管楽器は割と抑え目なので、一見、表面的な派手さは足りないように思われますが、これは「とにかく派手に盛り上がる曲」という従来のベルキスのイメージを塗り替えるような気がします。
シンフォニックで上品な
「新解釈のベルキス」だと私は思いました。
【クルデーレ盤の楽章を入れ替えてみた】
このクルデーレ盤、Youtubeのクルデーレ公式にもあります。
2と3を入れ替えてプレイリストにしてみましたので、もし興味があればお聴き下さい。
🎵プレイリスト曲順🎵
1 ソロモンの夢
2 戦いの踊り
3 暁の踊り
4 狂宴の踊り
以上になります。
最後までお読み下さってありがとうございました。