物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」13−1. okujyou jum'v'oyage 質ーい
前回 GTJVー12
足音を消して、私は屋上への階段を登っていた。
この間の仕返しをするために、というのはおおげさだろうか。あの後、本当に大変だったんだから。怒りをぶつける、と言うより、いろいろ言ってやりたい。
鉄の階段をローファーの踵でカンカン鳴らしながら上り切る。さあどこだというまでもなく、主人公は屋上の真ん中にいた。
シキは座ったまま、一冊の本を読んでいる。
わたしの存在には気付いていない。足音消していたことは、無駄ではなかったみたいだ。いつもは大体こういう作戦は失敗するんだけど、珍しくうまくいくかもしれない。それじゃ、いきなり声をかけて驚かせてやろう。
後ろから、そーっと、一歩、一歩。
と、本がギリギリ傷付かないくらい早めに鞄にしまわれ、
くるっ、すたっ。それを追いかけるようにふわっと髪とかすかな香りが。
「ハローガール、なかなかいい動きだね」
正面に向き直る。こちらの行動が読まれていたかのような動き。練習していたわけ、じゃないはずだけど。
「また負けた」
ぼそっとつぶやいたのをシキは聞き逃さなかった。
「今ここにいるだけで一番。だから、勝っても負けてもいないよ。というかそれこそドーデモイイと思う」
なんだそれ。それは要領もセンスもいい人が言う言葉じゃないだろ。
「上から目線がうざ」
「うん。ご機嫌が、たてだ」
わたしの怒りにまったく触らない感じでシキがからっと答えてくる。落ち着けわたし、怒ったらシキのペースだ。
だから、思い出しながらひとつひとつをシキに静かに突きつける。
「このあいだ、なりゆきでつけられた、コンタクトのときは本当に困ったんだ。時間ないのに外し方わからないから、とりあえずメガネをかけて教室入ったら頭グラグラして外して目疲れたって思ってたら当てられて。普段ならわからない振りするのになんとなく答えたら、それが「超難問」の正解らしくて。先生は「よく勉強しましたね」と一言だけで流したけど。イレギュラーはあってはならないから」
気がつく人は気がつく変化。でも、そんなことすら自分が望んでいたわけじゃない。どうしてくれるの、なんてことを、ばーっと伝えた。
シキは話をただ聞いていた。なんで怒っているのにほほえんでるんだろう。そんなささいなことすら余裕に見えて気に食わないんだけど。
「うん。楽しいお話ありがとう」
「いやどこが楽しいの」
「ミノルにとって、心の響く出来事なんでしょう? それを私に伝えてくれたことがいいことだから」
ね? と言わんばかりの、ってそのままだけど。シキは至って穏やかな表情をしていた。まっすぐなのか、ゆがんでいるのか。
「みんながバカにしてくるのわかってるのに、勝手すぎる」
「ふむ」
他人事のようなリアクション。わざとだろ。
「なにその反応。困った、って言ってるのに軽くない?」
「ああごめんなさい」
唐突に謝ったその言葉も軽い。これじゃパルドンどころか、ワッツアップな感じだっての。
そのまま怒りに任せて何か言おうと思った時に、急に気づいた。
あれ、わたし今、なんだかただの嫌なやつになってない?
この間のことでシキに怒るわたし。正しいと思っている。
思ってるんだけど、ここまでのやりとりを改めてみると、なんかわたしが悪い感じがしてしまう。
そしてその理由は、怒りをぶつけているはずのシキが、全く効いてないからなんだと思う。やっぱり手強い。そんな手強いシキが、ふと思い出したように聞いてきたこと。
「ちょっと気になったことがあって。みんなって、誰と誰のこと?」
え。
声に出してないはずなのに表情が声になって出ていたんだと思う。
「だって誰かに嫌なこと言われたり、嫌な人に思われたらやだな、って思ったからミノルは傷ついたわけでしょ。誰のことなのかな、って気になったんだ」
反射的に言い返そうとしていた。
「誰って、そんなのわかるじゃん、誰って、だれって….」
言おうとしたけど、言葉がうまく出てこない。なんとなく学校の誰か、クラスの誰かなんだけど。こういう感じの時、急にやる気がなくなって、面倒くさくなってしまう。いやそれだと正確じゃないかも。多分面倒くさいフリ、をしているだけで、ただ答えられないだけなんだと思う。
「そんなことどうでもいいでしょ。もうわたしのことは、いいよ」
「良くないです。なんでも聞くって言ったので」
シキが珍しくほんの少しだけ、声を強めた。コーヒースプーン1杯分だけ、たしなめるというかすねる感じが加わったような。どんな味付けになっても美味しいんだから、正直うらやましいよ。だってわたしが言ったら面倒くさいやつって言われるもの。
いろいろなことを話すために。こう答えるのがいいのか。
「わかった。この話はここまで。なぜならわたしにとって、もっと聞きたいことや話したいことが出て来たから」
「それは本心?」
「うん」正面からシキの顔を見てみた。
至って真剣な顔をしながら思った。本当にきれいかわいいと思うんだよな、絶対知られたくないけど。
「はい、それじゃどこかの謎の誰かの話はよくわからないし大事じゃないしそもそもそんな人いないということで次!」
「いや適当すぎだろ!」
思わず声をあげたのに、シキの顔は穏やかな顔に戻っていて、どうしたの何も問題はないよ、って顔をしていた。
「大丈夫なんの問題もないよ、って思ってるんだけどわかった? 一応言葉でも伝えておくね」
いやいや。
どこまでお人好しなんだろう。ここでしか会ったことのないわたしのことを信用しても、シキのなにが変わるというのだろう。
「まだご機嫌ななめかー。ミノルの中の人もなかなか手強いね」
え、どういうこと?
「まあいいや、あらためて言っておくけど、どんなことが起こっても、私はミノルと居て、幸せだから」
え、どういうこと、が重なった。
「どういうことって、そのままだよ。誰かがミノルのことをどう言ったからって、今ここにいることは変わらないから。ミノルといるこの時間とこれからの時間がすごく大事だよ」
秋の涼しげな風がさあっと吹いて、思わず風向きと反対に向いた。
な、なんだよ。どうしたのさいきなり。
「ミノル、どうしたの?」
シキが顔をのぞきこんでこようとする。
「い、い」
もう90度回って顔をのぞかれないように
「え?」
シキもわたしの正面に行こうと90度回りこむ
「や、やめ、ちょっ」
わたしももう90度回る、もう90度
「どうしたの?」
シキが追いかけてくるっと90度、じゃなくて逆回り180度。
シキが正面にいて、ほほ笑んでいる。やられたよ。何も聞いてこない。静かに風が吹く。んだけれど耳の奥で中低音の音がしている、どっどっ、って。
数秒、待って見たけれど、シキはほほ笑んだだまま動かない。
「いや、何か言ってよ」
「え? だってまだミノルが話す番でしょ?」
あ。というかそんなこと気にしていたんだ。と、いうか
「わりとシキも話していた気もするんだけど」
「相手の話を引き出す言葉はセーフだから」
「適当だな!」思わず声が出た。もうなんかなんでもいいや。
あれ? わたし何に悩んで、何にムキになっていたんだっけ。忘れちゃった。
「もうなんだかいいや。聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「お待ちしておりました」
シキが、うやうやしいみたいな、なんだかよく分からないけど優雅そうなポーズで答えた。
やっと聞くことができる。
「あのさ、さっきわたしがくる前…」と話している直後、というか体感で同時にカバンから一冊の本を取り出す。
「たぶんこの本のことでしょう?」
「いや早すぎるだろ! ちょっとびっくりした」
思わず勝ち負けも忘れて声が出ていた。
「違ってたかな?」シキが聞きながらわたしの顔をのぞいてくる。
「……そうだけど」
シキはなにも言わずちょっとだけほほえんで、そのあとちょっと大げさに姿勢と声を正した。
この表現で伝わるかわからないけど。
「それでは、質問にお答えします。
これは、あるストーリーの作者が、えんえんと書いたメモをまとめた本。ちょっとしたお話だったり、詩だったり、作者が生きている世の中への願いだったり、不満だったり。なんかよくわからない話もあるし、なんかよく分からないけれどすごく印象に残る話もあるし」
「どっちにしろ分からないんだ」
「そうなの!」
思っていない感じでシキからリアクションが返ってきた。一歩前にシキがわたしのほうに寄ってきたから、ちょっとどきっとする。
「ここに書いていることの多くが、何が言いたいのかはよくわからないけれど、なんか記憶に残るんだよね。例えば童話みたいな話で、ダンスが得意なムカデがいる。くるっとターンしたり、100本の足でステップを踏んだり。見ている森の動物たちも大喝采。
だけど、ある日それを気に入らなかったカエルが手紙を出して、聞いたんだ。ダンスの足の順番とか、バランスの取り方とか、それぞれのタイミングだとか。
でも、ムカデは楽しいから踊るだけだったんだ」
シキが珍しく楽しそうに話をする。いや普段から朗らかな感じなんだけど、なんか少し熱をこめているような。
というか本を開いて見せるのはいいけど、寄ってこなくてもいいよ近いって。
「ムカデは好きだから、楽しいから踊っていただけ。だからどの足が先とか後とか順番とか、そんなことは考えてないから答えられない。カエルの手紙を読んでムカデは考える、何番目の足を出して、その次は何番目だっけ、55番目か12番目か23番目か、それとも19番目だっけ?」
シキが見つめてくる。というかクイズなのか。
「いやわたしがわかるわけないでしょ。というか物語の一部、なんだよね?」
「そうだよ。だけど物語の途中はわからない。なんか作者の人が講演した時の中でのお話みたいで、途中で話題が変わってる。だから物語の中身はわからない。でもなんだか心のすみっこに残って、離れていかないの」
わたしはふと考えた。ムカデは手紙を読み続けたら、きっとそのまま踊ることができなくなってしまうだろう。一緒に踊ったり、助けてくれそうな友達がいたりするかもわからない。そもそもそういう動物がいても、一緒にいてくれるとは限らない。
もつれる100本の足でとぼとぼと歩いて生きていくんだろう。別に虫は好きじゃないけれど、そういう時間を過ごさなければいけないのって….
(13 中編へ・・・)
「コンビニのコーヒー(short live)」
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I was climbing the stairs to the rooftop, my footsteps muffled.
Would it be an exaggeration to say that I was trying to get back at him for the other day? I had a really hard time after that. I wanted to say something rather than just vent my anger.
I climbed up the steel stairs, my loafer heels clacking as I went. Needless to say, the main character was in the middle of the rooftop.
Shiki is sitting there reading a book.
She didn't even know I was there. It seems that my efforts to muffle my footsteps were not in vain. Usually this kind of strategy usually fails, but unusually it might work. Then, let's surprise her by calling out to her out of the blue.
From behind, I gently took a step, step, step.
I'm not sure if it's a good idea to have a book in your bag, but I'm sure it's a good idea to have a book in your bag. I could feel her hair and a faint scent following it.
Hello girl, that's a pretty good move," she said, turning to face the front. It was as if she knew what I was going to do. It wasn't like I was practicing.
I lost again," she murmured in a whisper, which Shiki didn't miss.
I'm the best just for being here right now. So, I'm not winning or losing. It's not the kind of thing a person with good sense and know-how would say.
The most important thing to remember is that you are not the only one who can do this.
The most important thing to remember is that the best way to get the most out of your time is to be a good listener.
The most important thing to remember is that you can't just take a look at the website and expect to get a great deal of results. The actual "I'm not a fan of the way you look at me" attitude is a big part of the reason why I've been doing this for so long. The teacher simply said, "You've studied hard," and let it go. Because there shouldn't be any irregularities," she said. But even that wasn't what I wanted. I told her what was wrong with me, and she just said, "What are you doing?
Siki just listened to what was being said. Why is she smiling when she is angry? I don't like the way even such a small thing seems to be so generous.
I was so happy to hear that. Thank you for the fun story." "No, where's the fun in it?" "It must be a heartbreaking event for Minoru, isn't it? The fact that you told me that is a good thing," she said. I don't know why she's smiling when she's angry. The first thing to do is to make sure that you have a good idea of what you want to do. Is it straight or crooked?
I'm sure you know that everyone is going to make fun of you, but you are too selfish. The actuality is, it's not a good thing to be in a position to do.
What's with that reaction? I'm saying, "I'm in trouble." Isn't that a bit light?
I was so angry that I said something when I thought she was going to say something.
The most important thing to remember is that you can't just take a chance on a new product or service and expect to get it back.
I'm angry at Siki for what happened the other day. I know it's right.
I've been thinking about it, but looking back at our exchange so far, I feel like I'm in the wrong.
And I think the reason for that is that Siki, whom I am supposed to be lashing out at, isn't really doing anything at all. I'm still a tough girl. I was angry at Siki for what happened the other day, but then Siki asked me something that reminded me of something.
I'm just curious about something. By everyone, do you mean who and whom?"
Eh.
I think I was not supposed to say it out loud, but my expression was coming out in my voice.
The most important thing to remember is that you don't want someone to say something bad about you or think you're a jerk, and that's why Minoru was so hurt.
Who, you know how that is. Who, who, who ....?"
I tried to say it, but the words didn't come out right. It's somehow someone at school, someone in the class. When I feel like this, I suddenly feel unmotivated and troublesome. No, that might not be accurate. I think he's just pretending that it's too much trouble, and he just can't answer.
I tried to say something, but the words wouldn't come out right. I'm not going to ask you anything else. I said I'd ask anything," Siki said, her voice unusually just a little bit stronger. It's like a spoonful of coffee with a hint of nudging or sulking added. I'm honestly envious of you because no matter how it's seasoned, it's delicious.
I'm not good. I'm not sure if this is a good way to answer.
I get it. That's all for now. Because for me, there are things I want to ask and talk about more.
I looked at Shiki's face from the front.
I thought as I made a very serious face. I think you are really pretty and cute, though I don't want you to know that.
I'm not sure about the story of some mysterious someone, and it's not important, and there is no such person in the first place, next!
I'm not sure I'm the only one who's been there.
I'm thinking, "Don't worry, I don't have any problem with that. I'm going to tell her with a few words.
How good-natured could he be? I've only met him here before, so what would it change about Shiki if he trusted me?
I was surprised to see Shiki's face return to a calm expression, "Everything's fine.
What do you mean? The most important thing to remember is that the best way to get the most out of your money is to be honest with yourself.
The first thing to do is to get a good look at the newest version of the game. The most important thing is that you should be able to find the right one for your needs.
Minoru, what's wrong?"
The most important thing to remember is that you can't just take your eyes off of the road.
Siki turns around 90 degrees to get in front of me, "No, no, hey," I turn around another 90 degrees, another 90 degrees, "What's wrong?
Shiki chased after him, not 90 degrees, but 180 degrees in the opposite direction.
Siki is right in front of me, smiling. I was beaten. I don't hear anything. The wind blows quietly. But there's a low-mid tone in the back of my ear, a thud.
I waited and looked at him for a few seconds, but he just kept smiling and didn't move.
No, say something. I'm still waiting for Minoru's turn to speak.
I'm not sure what to think. I was wondering about that. I couldn't help but speak up. I don't care about anything anymore.
What is it? What was I worried about, what was I getting upset about? I forgot.
I don't care what it's about anymore. I want to ask you something, okay?
I've been waiting for you," Shiki answered in an elegant pose, as if she was trying to be gracious or something, but I don't know what.
Finally, I could ask.
I don't know what it is anymore," she said, "I don't remember.
It's probably about this book, isn't it?
No, it's too soon! I was a little surprised," she said, forgetting that he had won or lost.
Was I wrong?" I was so excited that I was surprised to see her.
Shiki smiled a little bit without saying anything, and then she corrected her posture and voice a little exaggeratedly.
I don't know if this expression conveys the message.
'Well, then, let me answer your question.
This is a book of notes written by the author of a story. Some were stories, some were poems, some were the author's wishes for the world in which she lived, and some were her dissatisfaction.
Siki's reaction came back to me in a way I had not expected. I'm a little startled because Siki came toward me a step before.
I'm not sure what the point of much of what she writes here is, but it's memorable in some way. For example, in a story like a fairy tale, there is a centipede that is a good dancer. They turned and stepped on a hundred feet. The animals in the forest who were watching us applauded.
But one day Frog didn't like it, so she wrote me a letter and asked me. Like the order of the dancing feet, or the balance, or the timing of each one.
But the centipede only danced because it was fun," Siki said, looking unusually happy. No, he's usually cheerful, but something about him seems to put a little bit of heat into it.
I mean, you can open the book and show it to them, but you don't have to come near them, they said, close.
Centipede likes to dance because it's fun. So I can't answer that question because I don't think about which foot goes first, or after, or in what order, or anything like that. Siki reads the frog's letter and thinks, "How many feet did the centipede put up, and what was the next one, the 55th, the 12th, the 23rd, or the 19th?"
Siki stares at me. Or is it a quiz?
No, I don't understand. I mean, it's part of the story, right?"
Yes," she says, "but I don't know in the middle of the story. But I don't understand the middle of the story. It seems to be a story that the author told at a lecture, and the topic changed in the middle of the story. I don't know what's in the story. But somehow it stays in the back of my mind and won't go away," I suddenly thought. If Centipede keeps reading the letter, he will probably not be able to dance as he is. I don't know if they dance together or if they have friends who might help them. Even if there is such an animal in the first place, it does not mean that it will stay with you.
I guess he will live his life with his 100 legs. I don't really like insects, but I don't see why I should have to spend time with them. ....
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(Writter:No.4 ヤヤツカ Photo:No.5 ハルナツ Auful translation:Deep L & No.0)