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YouTubeの脱ポピュリズムは可能なのか?

 YouTubeでニュース動画を見てしまった暁には、おすすめ欄が大変なことになる。
 Voiceloidで読み上げられるゴシップ、ネトウヨ系YouTuber、スカッとジャパン系5chまとめ――。
 時事系YouTuberの中では「新しい教科書をつくる会」的YouTuberでもマシな方で、一番穏健な立場を取っているものでも「ベーシックインカムちゃんねる」など、極めてポピュリズム的な動画が受け入れられやすい環境にある。
 『報道1930』『TBSラジオ』など質のいい対談動画もあるにはあるが、おすすめ欄はポピュリスティックな関連動画動画で埋め尽くされるのだから焼け石に水だろう。アテンションエコノミーの尖兵と目されているYouTubeだが、適正化の道筋はあるだろうか。

イギリスの新聞業界から見えてくるもの

 結論から言えば無理だと思う。それはイギリスのタブロイド新聞業界からわかる。

 まず、イギリスは顕著な階級社会であり、社会生活を営むうちに、自然と自分が労働者階級なのか有閑階級なのかを自覚するようになる。そして階級によって読まれる新聞が分かれてくる。例えば上流階級は『The Times』『Daily Telegraph』などの高級紙を、労働者階級は『Daily Mirror』『Sun』『Daily Express』などのタブロイド紙を読む。
 タブロイド紙は労働者階級なのだから、社会保障を擁護し、労働者寄りの経済政策を支持するかと思いきや、実はほとんどが右翼的な論調なのだ。Sunは保守党支持のタブロイド紙で、Daily Expressは反EUの極右的傾向がある。Daily Mirrorは例外的に労働党寄りであるが、親会社の方針で調査報道が縮小された。かつてはマードックのニューズコーポレーションに買収された直後のSunも労働党寄りだった。しかし雇用と社会秩序が安定し、サッチャーなどの新自由主義が台頭すると、勝ち馬に乗るように転向していったのである。
 同書では、高級紙含む新聞社間の熾烈な読者の奪い合いがセンセーショナルな報道姿勢に結実し、結果的に世論をEU離脱へと傾けたことが指摘されている。
 イギリスはEU離脱により世界経済とともに衰退すると事前に分析されていたが結果は分析通りだった。また、「EUに送っている金を社会保障に回そう」と主張していたナイジェル=ファラージは、離脱後翌日に社会保障費の増額は叶わないとBBCに語ることになった。期待されていた難民の流入の抑止であるが、EU離脱と同時に「ヨーロッパに入る難民は最初に入国したヨーロッパの国に留める」とするダブリン協定を離脱。かえって難民の抑止に失敗する結果となった。
 結局イギリスがEU離脱(Brexit)で得た成果は、栄光ある孤立に終始している。少なくともいえることは、これによって労働者階級の生活が上向いたかどうかは著しく疑わしいということだ。Brexitを後押しした主犯に、タブロイド紙のセンセーショナリズムがあったのである。

翻ってYouTubeでは

 イギリスのジャーナリズムですら適正化が難しいのだから、アテンションによって稼ぐYouTubeのビジネスモデルでは適正化はさらに難しいだろう。
 それに加え、YouTubeにはおすすめ欄からの流入がある。一度ゴシップ動画を見てしまえば、似たようなデカデカとした文字のサムネイルに吸い込まれていってしまうのである。
 YouTubeは学びのためではなく娯楽のために使う人がほとんどだ。したがって、「日本の帝国主義時代の負の遺産は未だにアジアに残っている」というようなことよりも「日本はアジアに文明を教えたのだから感謝されて当然」といったポピュリズムのほうが聞き心地もいいし、楽しいのである。
 ゴシップを楽しめる人は陰謀論を楽しめるし、陰謀論を楽しめる人はアンチフェミニズムだって楽しめるのだ。
 したがって、のりこえねっとや日テレニュースのような、ストレートにゴシップを批判したり、まっとうなニュースソースを共有する試みはYouTubeで成功しないだろう。まっとうなジャーナリズムや批評動画であっても、関連動画はスカッとジャパンなのだから。

YouTubeを適正化するには

 しかし、逆にYouTube視聴者のアテンションにフリーライドし、おすすめ欄を逆ハックする道筋はある。
 最近、『The Onion』というメディアがYouTubeへの投稿を再開した。例えばこんな動画が上がっている。

 動画では、「移民たちは暖かいスープとハグで歓迎されるべきであって、ぎこちない会話術や創作評論の論争で迎えられるべきではない」と答える進歩派が登場(意訳)するなど、陰キャと国境警備を風刺する内容になっている。
 このようなニュースを模した風刺番組を「ニュースコメディ」という。YouTubeで英語のアメリカ大統領選関係の動画や解説を見ていると、同じテンションでニュースコメディもおすすめされてくるのだ。

 なんでもかんでもおすすめされてくるYouTubeの仕様を逆手にとって、愛国YouTuberを好む層に、彼らのコミュニティを模倣するニュースコメディは作れるのではないか。
 彼らを外部からストレートに批判するのではなく、内部でオモロさに昇華していく。
 愛国YouTuberは話すだけだし、The Onionも数人でニュースコメディの動画を作っている。コンテンツの制作は容易なはずだ。
 ただ一つ問題は、それを作る同好の士がいないことだ。
 だれか僕と一緒にやろうや


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