c-sportsの傾奇者(オリジナル小説)1話
どうもです。
凡ちゃんです。
昔書いていた小説
カクヨムに投稿する予定でしたが、
全話を書ききれなくて、まだ途中のものですが、
1話
永光高校の校舎裏。僕はある人物に手紙でここに呼び出された。他の生徒は部活動か帰宅中のため、校舎裏には人の気配は無い。
僕は放課後に用事があったため、手紙の主との要件を早く済ませたかった。
—すみません、お待たせして。
校舎裏の扉を開けて、ぴょこ、っと姿を現したのは、髪型がナチュラルセンターで身長は170cmぐらいのスリムな体型の男子生徒だった。
「ごめんなさい、待たせて」
「いえ、とんでもないです。それで何のようですか?」
「えっと…それは…その」
僕が尋ねると彼は視線を逸らし、顔全体を赤く染めて、口籠る。伝えたい要件は口にすることがそこまで恥ずかしい事なのだろうか。彼は何とか次の言葉を絞り出そうと、大きく息を吸い込む。そして「よし」と意気込み、顔を上げ、決意の言葉を口にした。
——あなたの好きです!付き合ってください。
「はい?」
突然の男子からの告白に思考が止まった。
「うおー!よぉーし、ありがとうございます!」
彼は、僕の反応を見て、ガッツポーズを決めて大喜びした。違う。今思わず口から零した《《はい》》は決して肯定の意味ではない。
「えっと、今の《《はい》》は了解の《《はい》》ではなくて、意味が理解できないってニューアンスの《《はい》》だけど?」
今起こってる事象は要するに、深山という男子が、男である僕に手紙で呼び出して、好きですと告白した。この状況を一部のBL展開大好きの写真部のメンバーが見たら、スマホ、もしくは高級な一眼レフカメラで即このシチュエーションを撮影して、お宝板の写真として、一部の腐女子グループメンバーの間で売買されるかもしれない。
「悪いんだけど、ごめんね。君の告白すごい気持ちがこもっていて、いいなって思ったよ。でも、君はもしかしたら勘違いをしてるだけかもしれないから、先に断っておくけど」
—僕、男だよ。
—え!?
思ったとおりの反応だった。その反応を見る限り、彼は僕のことを恐らく、いや間違いなく女子と勘違いしていた。だが無理もない。それは僕の見た目が女性的容姿だからだ。ゆえに中学時代、同じ同級生の男の子に何回か告白されたことがある。ちなみにその時、告白してきた男子の名前は、僕の黒歴史メモ帳に記されている。
「嘘ですよね。そんなに可愛いのに。いや、もしかしたら告白を断りづらいから、実は自分は男って嘘ついて、誤魔化してない?」
「そんなことしないよ。それは僕、顔も声も女の子似だから、誤解されるけど」
「念の為、確かめてもいいですか!?」
「え、どういう事?」
徐々に、彼の目つきと息づかいが激しくなる。
「いや確認の為だよ。身体触らせてください!」
「いやいやいや、冗談でしょ」
彼は口元をニヤけて、こちらに近づいてくる。
「お、お願いします。触らせて下さい!」
「よ、寄るな変態!」
突然ならぬ、彼の目つきの変わりように、僕の危険察知本能が反応し、彼の性癖があらぬ方向へ向かう前に、僕はその場から全力で立ち去った。
目つきがすごく怪しかった。あのままあそこにいたら、とても健全な高校生には見せられないNGシーンとして、永光高校新聞部の大記事の裏スクープに載せられていたかもしれない。入学早々こんなのは懲り懲りだ。
永光高校は写真部や新聞部など、運動の部活動だけでなく、文化系の部活動にも力を入れている。その理由としては、さまざまな分野で逸材となる人物を発掘するためだ。
告白の用事も済んだので、僕はそのままある部室へと向かう。
その部活はc-sports部だ。
c-sportsはカードゲームとスポーツの要素を取り入れたものとして、捉えるのが一番容易だろう。
本来なら、c-sports部は学校のパンフレット通りにちゃんと存在した。だが、その部室の入り口のドアの中央に張り紙があって、そこには<<メンバー不在により廃部>>と貼られていた。
「嘘でしょ…」
永光高校のパンフレットの写真には間違いなく、先輩(10人くらい)の姿が映っていたはず。なのに廃部。どういうことだ。何かしらの理由で全員退部したと考えるのが、不本意だが合理的解釈か。
…なんで、c-sports部だけ廃部なの!?
心の中で叫んでしまう。
部室のドアノブを捻るとドアが開いた。鍵は掛かっていなかったらしい。僕は恐る恐る、部室の中に入り、照明をつける。
「失礼します…」
中は思ったより整頓されていた。センターテーブルの上にプレイマットが2枚。パイプ椅子がそれぞれ机を挟んで、2つずつ。窓際のホワイトボードにはc-sportsの戦略が繊細に描かれている。ここに記されてる内容がどういった戦法のものかはよく分からないけど。そして、赤のマーカーで大きく、目指せ全国大会!と書かれている。つまり、活動自体はしっかり行われていたと見て取れる。
僕は部室を後にし、校舎を出た。
—2200年4月12日。
100年前に完全なる仮想現実を実現させた人類は、次に地球以外の惑星をコロニーとする惑星移住計画を立ち上げたが、人類が生きてく環境に適した惑星が見つからず、残念ながら失敗に終わった。だがその過程で宇宙の重力の力に反発する鉱石、反重力石が発見され、それと進化したIT技術の発展で空に浮かぶ都市、空中都市を築き上げることに成功する。そう、僕が今住んでる場所も空中都市のうちの一つである
空中都市は下界(日本列島)となる各県にそれぞれ1か2ヶ所くらい実在しており、それぞれの空中都市への移動は反重力石を組み込んだ鳩バスと呼ばれる空中移動バスに乗ることで可能だ。
帰りのバスは近場でも鳩バスだ。平成のバスは空中都市では使えないので、今でも地上を往復してる。僕たちの住む空中都市鳴海は中央に暁街と呼ばれる繁華街があり、北部に行くと僕らの通う永光高校がある。住宅街は暁街のそれぞれ東側と西側にある。
校舎を出て、南に道沿いに沿って進むとバス停が複数ある。僕の自宅は学校から西南にある。幾つかある鳩バスの中の3番の鳩バスに乗った。
鳩バスは都内を走る時も空中に浮いているので、事故がない限り、基本的に揺れることはない。今の化学ってほんとにすごいと思う。
永光高校に入学して1週間くらい経つが、悲しいことに友達はまだ1人もいない。僕の名前は早乙女千春。《《千春》》が男女両方の名で使われることがあることも深山が僕を女子と勘違いした理由の一つだろう。実は、女性的容姿は僕にとってはコンプレックスでもある。例えば、体育の授業の時に更衣室で着替えるとき、複数の男子から視線を浴びることが理由の一つだ。他にもトイレに入る時、極端に驚かれたりなど。本当に勘弁してほしい。
20分ぐらいして、バスを降りる。バスを降りたら、徒歩15分くらいで家に着く。
ここ辺りは住宅街となっており、中学時代は近所の同級生とよく家に集まり、僕の中学でも流行りであったc-sportsをいつも遊んでいた。
パソコンやスマホを使う時、人はそれ専用のアカウントを作る。アカウントは自分の名前や住所年齢などの個人情報を入力するもので、c-sportsの開発者はアカウント用のアイコンとなるキャラクター達を戦わせるゲームをc-sportsを仮想現実にも現実世界でも確立させた。
—ただいま。
家の扉を閉める。
母がリビングから玄関に姿を見せた。
「あら、千春お帰りなさい。今日はやけに遅かったわね。何かあった?」
「うん、c-sports部見に行ったんだけど、部活潰れててさ、これからどうしようかすごい悩んでる」
「そうなの?ならこの際、他の運動部にでも入ったらどう?そんなガリガリな身体だから、女の子と間違われるのよ」
「痛いところ突かないでよ」
夕飯を済ませて、そのままお風呂に入る。
いい心地だ。身体の芯から疲れが取れる。
正面のガラスに映る僕を見て、胸に手を当ててみる。
「《《これ》》が大きかったら、どう見ても正真正銘女の子だ」
しかも中性的な声だから、余計に。小さく呟いた声は幼い少女の声そのものに聞こえる。
風呂を出て、パジャマに着替え、そのまま自室に入る。学校の宿題を済ませるため、勉強机のウインドウを起動する。学校の机の勉強データを僕の勉強机のアカウントと連動させ、数学の欄を表示する。勉強机の液晶画面の[数I]をタップし、単項式と係数の範囲の問題を表示する。
a、b、c。数式に色々な記号が使われて、ややこしい。
いつか全部のアルファベットを公式で使う日がくるのかもしれない。嫌だな。
課題の公式をスタイラスペンで机の液晶画面に映るノートのページに入力する。
100年前のノートは紙媒体だったらしいが、2200年の今は教科書もノートも全てデジダルだ。
もう鉛筆とかシャープペンシルを使う人は下界(日本列島)にしかいない。下界と空中都市では化学の進化、技術の進歩具合が違うのだ。
「よし、終わった。ちょっと疲れたな」
今日の宿題は量は少なかったから、すぐに終える事ができた。
この時間帯にクラスのメンバーはVRグループのフリースペースと呼ばれる、仮想現実のサーバーで管理された、所謂チャット部屋で、夜に話していると聞いたことがある。友達がいない僕は当然グループに誘われていないので、チャット部屋に入ることはできない。そのため、眠りについた。