c-sportsの傾奇者2話(オリジナル小説)
どうも凡ちゃんです。
今回は2話となります。
凡人小説です。
部屋に鳴り響くスマホのアラーム音で目が覚める。
うーん、と体を伸ばし、カーテンを開ける。
今日もいい天気だ。
下の階に降り、朝食を済ませる。
「行ってきます」
家を出てバス停で待つ間、2週間後の中間試験に備えて、タブレットをカバンから取り出し、暗記科目で得点稼ぎ出来そうな箇所にチェックを入れる。英単語とかは特に得点源に繋がりやすい。
空中都市の鳴海には塾や予備校は一切なく、代わりにオンライン講座はある。一回の講座は大体1時間30分。料金も破格だ。ただでさえ、ネットの回線料金は下界と比べて高いのに、それに加えて、オンライン講座まで受けるのは、よほど資金に余裕がある家柄の人でないと厳しいだろう。
鳩バスが到着し、最後部座席に座る。
スマホの電源を入れ、永光高校のウェブサイトから、受信メール一覧を開く。永光高校の試験範囲などの重要事項はメールで届くので、毎日メールをチェックしないと痛い目を見る。
20分くらいして、バス停に着いた。バスから降りて、学校に向かう。
校門では生徒会役員選挙の立候補者達が爽快感ある挨拶をしている。名前は分からないけど。5月の選挙に向けて彼等は必死だ。
校舎に入り、僕のクラスの1-2に向かう。
時間は8時15分。
始業式からたった2週間でクラスの人間関係の構図みたいなものが出来上がっているため、はみ出し者の僕は他の男子に声をかけにくい。初日から積極的に声を掛けるべきだったと少し後悔してる。元から人と話すのは得意でないが。
朝礼開始まで、誰にも声を掛けず、席に座り、頬杖をついて、窓の外を見詰めていた。
チャイムが鳴り、担任教師の大門がクラスへと入り、皆会話をやめて、各々の席に座る。
「お前ら、席に座れ」
静まり返った空気の中、教室のドアがガラリと開き、あくびをした髪がボサボサの異端児がクラスに入ってきた。
「うぃす、おっはようございまーす。あれ、もう朝礼っすか。早いっすね」
「おい織田、遅刻のわりにその態度はなんだ。いいから座れ」
「へーい」
この気が抜けた男子の名前は織田雷音。身長は175cm前後で派手なイエローのショートスパイクの髪型。彼とは中学の時も同じクラスで、直接会話を交わしたことはないが、彼のことを端的に述べるなら、容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰、永光高校受験の成績も1位で新入生挨拶をやっていた。ただ普段がいつもやる気が無さげな態度で、授業中、平気で居眠りをするから、学校での内申点は低い。
授業が終わり、放課後となる。
廃部前のc-sports部の顧問はうちのクラスの担任でもある大門だ。それでc-sports部の存続の為の話をする為、大門のところに向かった。
「あの、大門先生。今お時間よろしいですか?」
「なんだ早乙女、先生に何か話か?」
「はい、c-sports部についてです。どうしてc-sports部は廃部になったのですか?僕、c-sports部に入りたかったのに」
「ああ、その話か…。理由は部長の子が部活を辞めて、別のサークルで新しくチームを結成したんだ。そしたら、他の部員もそのグループに入り、今の部活を辞めた。要するに自立したのさ」
「つまり、部員の人たちは全員外部のサークルで活動してるんですか?」
「その通りだ。だから、今は部員0人だ。先生は顧問の仕事が無くなって、寂しい気持ちはあるが」
「そうですか…」
はぁ、と溜息をつく。
部員がいなければ部活はできない。
「失礼します」と言って、落胆のまま職員室を立ち去ろうとした時、大門が「ちょっと待て」と告げて大門のところに来るよう促す。
「もしもだが、どうしてもここでc-sports部をやりたければ、一応方法があるぞ。それは部員をお前合わせて5人集めることだ。次の大会までは部室を自由に拠点として使っていいからな」
「本当ですか!?ありがとうございます」
僕は大門に一礼して職員室を出る。
あと4人。部活をするのに必要な人数だ。そのメンバーを集める為の方法を考えるが、古典的な方法なら、朝校門でチラシ配りをする。他の手段としては、永光高校のウェブサイトの掲示板にc-sports部員募集中と掲載してもらうことだ。
試しに担当の先生のところへ足を運んで、交渉はしてみたが、無駄足だった。廃部した部活のメンバーを集めるなら、個人で動いてほしいとのことだ。
午後の陽光が黄色を帯びている。仕方なく、次の日にチラシ配りをする決意をして、校舎に出た時。誰かしらの気配を感じ、デジャブな光景を視認した。校門の前に男女が2人。1人は織田雷音。そして、もう一人は同じクラスの氷川という女子生徒だ。見た感じ、氷川の方が、織田に告白する展開だと垣間見える。織田の方は耳をほじり、興味なさそうに話を聞いてるようにも思える。失礼な奴だ。
うっかり顔を出してムードを壊すのも悪いので、咄嗟に石像の陰に隠れて、その場をやり過ごす。告白される側は相手に強い関心がない場合でも、断るのは罪悪感あるし、言葉選びには慎重になるものだと思っていたが、織田くんのあからさま無関心な態度に、氷川は涙目になっている。
氷川さんがあまりにも気の毒だと感じ、僕は不本意ながら、織田に声をかけてしまった。
「織田くん。氷川さん真面目な話しているから、ちゃんと聞いてあげようよ」
これ以上見ていられなくて、思わず出しゃばってしまった。
「お、千春ちゃんじゃん。どったの。もしかして盗み聞きしてたー?まじウケる」
「千春ちゃん…」
彼にちゃん付けされると、全身に悪寒がする。
「早乙女さんですよね。あの、私は、その…」
「まあ、千春ちゃん。言いたいことは多々あると思うけど、今は彼女の話を聞いてあげようよ」
「う、うん」
僕は頷くと氷川さんが顔を上げ、織田の方に顔を向ける。
第三者の立場で見てるこちらも自然と胸が高鳴り、唾を飲む。
氷川さんは目を見開き、思いっきり叫んだ。
「私、織田くんのこと、、、ぶん殴ってもいいですか!」
・・・「「え?」」
想定外の告白に、僕と織田は同時に愕然とする。今、ぶん殴るって言ったよね?
「織田くん言ってくれましたよね。生徒会役員選挙の票、応援してるから、私に投票するって。でも、他の人に話を聞いたら、他の子にも全員同じこと言ってたって。許せなかったですよ。優等生の織田くんが私だけを選んでくれたことが嬉しかったのにその気持ちを裏切られた事が」
「ねえ、織田くん。灼熱の熱意が篭った告白だけど、どうするの?」
僕は苦笑して織田に尋ねた。愛の告白ではなく、憎悪の告白だった。なんと恐ろしい。
「落ち着けって。それより、帰宅部の千春ちゃんがこんな遅くまで、学校で何してたの?」
唐突な話題逸らし!?
「えっと、それは大門先生に用があって…」
「ああ、c-sports部のことね」
———っ!?
氷川さんに睨まれながら、まるで彼女は眼中にないような態度のまま、織田は話を続ける。
「廃部したc-sports部を立ち上げる為にメンバー集めか。それで明日からチラシでも配ってメンバー集めするつもりか」
「あー、よくご存知で…」
「面白そうじゃん。じゃあ、俺もメンバーに入れてくれよ」
予想外の言葉に僕だけでなく、氷川さえも度肝を抜かれる。場違いと悟ったのであろう氷川さんは「失礼しました」と言い去った。最後まで氷川さんが気の毒だった。
「織田くん、もしかしてc-sports経験者なの?」
「さあな、だがお前の10倍は強いぞ」
織田は得意げに言い放つ。
「じゃあ、織田くんもメンバー集め手伝ってくれるんだね?」
「いや、俺は基本的にメンバー集めはしない。やるのは千春ちゃんだよ」
「その千春ちゃんって呼び方こそばゆいから別の呼び名にして」
「なら千春ね」
どちらにせよ、下の名前で呼ぶのね。
「どうしてメンバー集めは協力してくれないの?」
「それは簡単だ。退屈だから」
なんて、自分勝手な!と言いたいところだが、部活を立ち上げるのは僕だ。彼を頼りにするのも良くない。とにかくあとは3人だ。
「千春は未来が見えたことはあるか?」
「未来、なんの話?もしかして哲学的な意味かな?」
——いや、相手のカードを見た瞬間分かるんだよ。そいつの未来が。c-sportsの神をいずれお前にも見せてやるよ。
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