毎週ショートショートnote【きんもくせい盗賊団の池】
マサキが不意に聞いてきた。
「ユウジの初恋っていつだった? 相手は誰よ?」
二人は小学校以来の同級生だ。思春期も同級生だったから、初恋の相手も誰だかすぐわかるはず。しかし、ユウジはその先を答えてきた。
「相手? 保育園の時のみゆき先生かなぁ」
「泥ダンゴを作った汚い手で抱きついて行って、逃げられた先生か」
「そうそう。そんな話してたんだ。よく覚えてんなぁ」
「って違うだろ、初恋ってそんな感じじゃないだろ?」
「そういうお前は誰なんだよ」
「オレは中学の時のマリコかな」
ユウジは遠くを見る目でつぶやいた。
「マリコ・・」
「ほら、横浜から転校してきた子。夏休みにさ、朝、ランニングしてたらマリコがショートパンツで犬を散歩させてて、その姿にずきゅ~んときちゃってさ。笑えるよな。まさに思春期。一瞬で心を盗まれたな」
ユウジの鼻孔にキンモクセイの花の匂いがよみがえってきた。そうだった。マリコの姉にユウジは恋をした。見事にふられてしまい、つらくて悶々とした日々を過ごしたのだ。彼女の家の前を通るたびにキンモクセイの香りが心に刺さった。封印したはずの記憶が鮮やかによみがえる。
「ふたりとも、キンモクセイ盗賊団の池におぼれかけたってわけだ」
「え? どゆこと? なんのはなしですか、ユウジく~ん」
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