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毎週ショートショートnote【釜揚げ師走】
老齢化が進んだこの国では、釜揚げうどん店の売り上げが落ちている。
「それはそうじゃろ。ワシも行かなくなった。あのうどんのコシ、入れ歯じゃ食べにくいからのぉ」
老人の話を受け止めた大手チェーンが導入したのがAIシステムを搭載した釜揚げ機だ。うどんを好みの柔らかさに設定できる。
「どれどれ。え~と、画面をのぞいてにっこり笑うのか?」
あごの筋力と歯の状態から噛む力を瞬時に判断したAI機が、老人の好みのうどんに茹で揚げ、提供した。
「これこれ! 唇でも食べられるこの柔らかさ。これが好きなんじゃ」
一度来店した客の顔は忘れないAI。来店したらすぐ茹で始め、待たせることがない。100億人まで記憶可能だという。
困ったのは釜揚げ師たちだ。職人技は無用の長物となり、店を飛び出し泣きながら走った。
「俺たちはどこへ行けばいいんだ」
全国で走って、年末になっても走っている。走る人がいなくなった新年
には、チェーン店全店でAI機導入が完了した。
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