毎週ショートショートnote【壁を愛すスリ】

　江戸川乱歩の「怪人二十面相」が大好き。読書週間が始まって、図書室で何か面白い本はないかとたまたま手に取って読み始めたら、もう夢中になった。全集で20冊は並んでいるから全部読んで、感想文を書いて提出するよ。

　「毎回、本を開くたびにドキワクの連続でした。怪人がいろんな仮面をかぶって登場して、小林少年と対決するのが面白かったです。怪人二十面相はかっこいいです。そして、壁使いの達人です。どんな壁にもあっという間に隠れてしまいます。どうしてあんなに上手に壁と一体になれるのか、僕は不思議でなりません。僕も盗み食いをしてカーテンに隠れますが、足が出ているのですぐに見つかってしまって、頭をこつんと叩かれます。ある時、怪人二十面相のような壁を愛するスリになりたいと言ったら、お母さんにまた頭をこづかれました。スリはいけないことなんだと学びました」
　壁を愛することだけが残った僕は今、ロッククライミングに夢中です。

　やがて、その世界で小兵な彼は「岩壁を愛するリス」と呼ばれた。