二見くんの日々 16 12月の桜
僕のスマホのGoogleマップは時々変になる。
現在地や進行方向が狂ってしまうのだ。
特に東京駅周辺はこの事象が起こりやすい。
方向音痴なことを自負しているけど、
さすがに何度か来ている場所だから
「あれ?」と首をかしげる。
でも、まあいいか。
一応目的地はあるけど、辿り着けなくても、
今日はとりあえず17時ぐらいまで
この辺りにいられれば。
そういう気分でスーツケースをゴロゴロしながらふわふわ歩く。
わかんないけどこっちかな、
今まで来たことのあるところの境界を更新して、
さらに進む。
高架下に差しかかったところで、
50代ぐらいの男の人がスマホのレンズを頭上に掲げていた。
なんだろうと思って見ると、そこには桜が咲いていた。
春みたいに木全体にじゃなくて、枝にぽつぽつ花を開かせていた。
狂い咲き、だろうか。
狂い咲きの桜は、こんな風に少しだけ花を咲かせると聞いたことがある。
勝手に満開だと思ってピクニックの準備をして出かけたらちょっとしか花がなくてがっかりしたって。
それともこの季節に花を咲かせる品種なのかな。
どちらかわからないけど、狂い咲きだったらいいな。
つるべ落としの空はだいぶ水色が薄くなって、
高架の街灯が光を放っている。
狂い咲きを見に行った2人は、がっかりしたあと面白くなって笑いあって、桜の木の下でサンドイッチを食べたんだっけ。
うっすらそんなことを考えながら、
僕もおじさんと一緒に桜にスマホを向ける。
柔らかい空と花の色を見上げると、
そぞろ歩きの心がちょっとふわっと
持ち上げられて、
そろそろ家に帰ろうと思えた。
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