嘆きの巨人 Vladimir Horowitz in Japan (1983)
世界の音楽ファンを嘆きの底に叩き落し音楽史上最も悲しく耐え難い事件を引き起こした1983年の東京。
或る高名な批評家は、この夜のホロヴィッツを「ひび割れた骨董品」とシャラシャラとにやにや笑って言ってのけた。
違う、この人物は人間として大きなものが欠落している。たとえば、この男は葬儀に行って亡き人へ「あなたは死人です」と言うのだろうか。これで分かったことはこの男は普通の人が普通に持っている「人の痛み」への心がまるで無い。尋常ではない酷薄さだった。人のそれは何かあった時にこそ分るものだ。勿論職業人としての在り様は必要だ。が、それはあくまでも事件の本質を知る心があってこそである。情けない日本人。こいつは死者を最初に鞭打つのであった。