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もっとファンタジーを! 第十一章「No life No lives」

ウェンティが死んだ。
 だが、まだ戦いは終わっていない。
 なんなら黒鳥と戦う理由が増えた。
 大輝と黒鳥は一進一退の攻防を繰り広げながら駅構内へ入っていった。
 俺と静心もそれを追いかける。
 
 そして俺と静心が動き出すのと同時にパトカーが次々にやってきて警察が何人も降りてきた。
 「君たち!早くここから離れなさい!」
 と一人は言って来たが、他は完全に警戒態勢だ。
 なぜなら、覆面で謎のオーラを出している俺と、完全に光の塊でしかない静心しかいないのだから。
 どちらかと言えば黒鳥側と思われるだろう。
 まあ、彼らには構っていられないので静心と駅に向かって移動を始める。
 「え!!?」
 俺が瞬間移動したら警察官が驚いていた。
 多分、この後は彼らも俺たちを追って駅の中に入るだろう。
 だが今は黒鳥を止めることだけを考える。警察では無理だ。

 品川駅の入り口に立つと、普段ではあり得ないぐらい人が居ない。ちゃんとみんな逃げたようだ。
そこへ入江が静心の体を担いでやってくる。
 「大丈夫!?」
 「お、お前、タフだな。」
 「赤城、なにかあった…?」
 「ウェンティが死んだ。」
 「…‼」
 「行くよ。入江は梶白さんたちと連絡を取り合ってくれ。」
 「わ、わかった…。」
 「僕の体、もう少しよろしくね」
 そして、俺たちは駅構内に入る。
 テレビでしか見たことは無いめちゃくちゃ広い改札前、そこで二人は戦っていた。
 すでに建物の形状が何か所も変化しており、戦いの激しさを物語っていた。
 
 俺たちが二人を視界にとらえた時、大輝が追い詰められている光景が目に入った。
 壁にもたれかかる大輝。装甲は出ていない。
 クソ!
 ワープで一気に距離を詰める。
 黒鳥は大輝にとどめを決めようと大きく振りかぶっていた。
 「君はよく戦ったよ!ありがとう!」
 振り下ろされた瞬間!
 静心の分身が大気を拳から守り、背後に俺が現れ、黒鳥の後頭部に思い切り一撃を食らわせる。
 人を殴るのなんて初めてだ。

 直後に左腕が飛んでくるのでワープで回避。
 その間に静心が大輝を遠くに運ぶ。
 見事な連携だ。
 俺と黒鳥が向かい合う。
 「今のは結構喰らったなー!」
 「てめえのせいで。」
 「あ?」
 「テメエのせいでウェンティが死んだ!」
 「え、あの子死んじゃったの…?」
 「そうだよ。テメエの能力が無ければ救えた。」
 「でも、お互い様だよね。僕だってやられたくないもん。」
 「なぜ戦う!なぜ暴れる!」
 「こっちのセリフだ!なぜ戦う!」
 「お前を止めなくちゃだからだ。」
 「薄いなあ!前に言ったよな?自分の意見で、自分の信念で動けよ!」
 「まだよくわからねえ!お前の言っていることに共感は出来るが、全肯定でもないんだよ!」
 「じゃあなんだ!なにがお前を突き動かす!」
 「地球がなくなるのは絶対に違うと思う!」
 「うっすいなあ!」
 「ブルー・ノートがまだ続いてるんだよ!」
 もう俺も頭が回っていない。だが、やるしかない。
 黒鳥が向かってくる。
 黒鳥の能力の両腕は黒鳥本人よりも早い。だが、こっちは瞬間移動ができるのでかわすことは容易だ。
 だが、俺には攻撃の手がない!単純な殴る蹴るだけだ。
 なにか止める手段は!

 その時、ネックレスに何かを感じた。
 そうか、このウェンティの魔力は攻撃に使えるのか!
 直感だがそう確信できた。
 「なにニヤニヤしてんだ!」
 ウェンティからの最後のメッセージを受け取って自然と口角が上がってしまった。
 ウェンティの最後の魔法。
 両腕が飛んでくるのを上空へかわし、ネックレスを掴む。
 確かな魔力を感じ、放つ。
 すると、ウェンティの使っていた緑色の風魔法が放たれる!
 ドゴオオオオオ
 魔力を伴ったとてつもない暴風が黒鳥の方へ向かう。
 「ッ…!」
 黒鳥はそれを右腕で防ごうとする。
 しかし、風の魔法はやつの腕を貫通して本体に直撃した!
 そうか!風は物質ではないからあいつにはどうしようもない!
 「ぐはあっ」
 その暴風を喰らった黒鳥は確かにダメージを受けている。
 ネックレスにはまだ魔力が残っている!
 これで反撃できる。

 その後は攻撃をかわすのがやっとでなかなか隙を作れない。
 仕方がない…。
 前に考えていた一度なら使えそうな作戦を使う。
 まず俺は腕の攻撃を目いっぱい遠くまで逃げた。
 当然、黒鳥の能力はそれを追いかけてくる。
 「よし」
 引き延ばしたら俺はすぐに黒鳥の元へワープ!
 瞬時に黒鳥にしがみつき、そのまま右足を踏み込んだ!
 「なにを!!?」
 俺の右足が赤く、周りに水色のオーラが漂い、瞬間俺たちは隣の世界に移動する。
 「こっちで…」
 黒鳥がなにか言いかけたが、おかまいなしで再び地球に戻ってくる。
 一瞬のうちに二回の移動を行った。
 「こ、ちょっ…」またなにか言いかけているが
 「まだまだあ!!!」
 俺は再び右足を踏み込んで移動を行う。
 なれないうちの隣の世界への移動はなかなか負荷のはずだ。それを短時間で二回。
 それを何回も繰り返す。
 十回連続での移動を行った。正直俺自身もかなりクラクラしている。
 ということは黒鳥には相当な負荷だったはずだ。
 見てみると案の定黒鳥はぐったりとしている。
 大きな隙が生まれた!ここだ!
 「頼む!ウェンティ!」
 そう叫びながらネックレスを掴んで魔力を放出する。
 途端、黒鳥を薄緑色の竜巻が襲う。
 「ぐわああああああ!!!」
 黒鳥が魔力を伴った緑色に光る竜巻が取り囲み、四方八方から襲う。
 俺はその場に座り込んでそれを眺める。
俺も相当疲れた。もうこれ以上は動けそうにない…。
 どうかこれで決まってくれ…!
 そこへ静心が戻ってくる。
 「赤城、大輝は彼女に任せてきた。多分大丈夫。」
 「ありがとう。」
 「これは?」
 「ウェンティの最後の魔力。」
 もう黒鳥の声は聞こえてこない。
 流石にウェンティのこの魔法では死にはしないと思うが、相当なダメージは負ったはずだ。
 そして、竜巻が収まるとボロボロになった黒鳥が見えた。
服がたくさん切り刻まれたようになっていて、血も出ている。
 しかし、まだ立っていた。
 執念か、それともソウか。
 だが、俺ももう限界だ…。
 俺はその場に倒れ込んで、意識を失った。

 はあ、はあ…。
 最後のはなかなかにやられた。
 身体はボロボロだが、ソウが向こうから操っているのかなんとか動けるし、まだ能力も使えそうだ。
 とりあえず神の右手を使って倒れた赤城くんたちと俺の間に壁を作る。
 これでしばらくは時間稼ぎが出来そうだ。向こうもう反撃の手は残っていないだろう。
 品川駅の西側、商業施設のある所へ能力の腕に引きずられながら向かう。
 人は誰もいない。一般人は無事避難できたようで安心した。
 そろそろ能力が覚醒しねえかな、そんなことを思っていると、目の前に知っている男が現れた。
 「梶白…!」
 「黒鳥。もうかなりボロボロみたいだな。」
 くそ。捕まるわけにはいかない!
 俺は神の左腕に引きずられるように逃げる。
 「待ってくれ!」
 そういって追いかけてくる。
 君は悪くないのになぜ俺を追いかける…!
 俺は神の右腕でなんとか退路に障害物を作り、逃げ続ける。
 しかし、梶白はアスレチックのようになったその道を平然と追いかける。流石は警察官だ。
 俺の能力ももう限界だ。
意識が飛びそうだ。
 そして、精度の落ちた神の右腕で、不完全に作られた壁の一部が崩れ、その周りも崩壊して梶白の頭上に落ちてくる。
 「危ない…!」
 咄嗟に俺は神の右腕を伸ばす。
 お前は死ぬな!
 「なに!?」梶白は咄嗟の判断で頭頂部を腕で覆う。
 神の右腕は寸前で間に合わず、瓦礫は梶白に直撃した。
 「…!」
 急いでそちらに向かい、まずは梶白の上に乗っかる瓦礫の山を能力で小さいものや綿に変えていく。
 するとすぐに梶白の姿が見えた。
 「おい!しっかりしろ!」
 「黒鳥…」
 頭からかなり出血している。
 「お前を殺すつもりなんてなかった…。」
 「…。」
 腕は完全に折れているし、足も瓦礫に潰されている。
 「しっかりしろ!お前は正義だ!」
 「…黒鳥、世界を…」
 そう言って梶白は俺の手の中で息を引き取った。

 直後、目の前の角から白鷹が現れる。
 「はっ…えっ…」
 白鷹は座り込む俺を視認し、その目の前に倒れている梶白を見る。
 「いやあああ!」
瞬間のうちに拳銃を抜き、引き金を引いた。
 パァン!
 すべてがゆっくりと見える。
 瞬時、俺は物質を変換できる神の右腕で銃弾に触れる。
このまま何かに変えれば…。
俺は、助かるが…。

 そう思ったが、やめた。
 「っう…!」
 銃弾は俺の心臓を見事に打ち抜いた。
 
 走馬灯が流れる。
 白鷹、あの時俺を救ってくれてありがとう…。
 君がいたから俺は自分の信念を貫いて、小説家にもなれた。
 ありがとう。
 言葉になったかわからないが、口が動いた。
 「君のおかげで、世界は変わったよ。」
 作家黒鳥創、死亡。

 梶白先輩はとても頼りになる人だった。
 普段は少し、というかかなり抜けている人だが、仕事はきちんとするし、しっかりしている。しかし、態度的に抜けている方の意印象が強いからか、あまりいい評価は受けていないことはよく職場で耳にしていた。
 私ははじめ、そんな人が警察なんて…と思っていたが、梶白先輩に指導してもらった同僚からの話で印象はがらりと変わり、いつしか尊敬していた。

 そんな警察としての仕事をしていたある日、SNSで回って来た投稿で久しぶりに黒鳥くんの名前を見た。

 私は昔から喧嘩っ早く、正義感に溢れていた。小学生の時から警官に憧れていたぐらいだ。
 そんな私の前、中学の時にクラスでいじめが起きた。
 ターゲットは黒鳥くん。
 教室でいつもノートに漫画を描いていたのをクラスの男子から馬鹿にされて、ノートが捨てられたりしていた。
 私も漫画を描いていることは知っていた。だが、いじめには初め気づかなかった。
 そのいじめに気付いた時、私の体は勝手に動いていた。
 「やめなよ。」
 いじめっ子たちと黒鳥くんの間に割って入り、仲裁を試みた。
 「なんだよ、いい子ぶるなよ。」
 そう言って私も突き飛ばされた。
 だが、私は立ち上がって、また黒鳥くんの前に立つ。
 「こいつ、いつもキメエ漫画描いてんだよ、テメエも同じか?キメエのか?」
 そう言って来た。ムカついた。
 「ヒトの好きなこと馬鹿にすんな!黒鳥くんはお前らに無い才能があるんだよ!馬鹿にすんな!」
 その後は二人して軽く暴力を振るわれ、私はそれを担任に報告。
 沈静化に成功した。
 その後、私にもヘイトは向いたが、クラスの明るい層を取り込んでいる私へのいじめは一週間も持たなかった。
全てが終わったころ、黒鳥くんのほうから話しかけてきたのだ。
 「白鷹さん、本当にありがとう。本当に助かったよ」
 「いいのいいの!ムカついたし!」
 「凄いね、僕にはそんなことできないや」
 「でも私だって漫画描けないよ?黒鳥くん、是非漫画、描き続けてね!」
 純粋に自分に出来ないことが出来る人はすごいと思えた。
 だから、私にしかできないことをしようとしたまでだったのだ。

 その後は特に黒鳥くんと話すこともなく、遠くから見守っていた。
 高校はどちらも滑り止めの私立でたまたま同じ学校だったが、交流はなく卒業した。
 風の噂で小説家になったことは知っていて、勝手に嬉しくなっていた。
 もちろんいくつかの作品は読んだし、純粋にファンになっていた。
 だからこそ、今回の捜査に立候補した。
 

 梶白先輩、黒鳥くん死亡の少し前。

 梶白先輩、足速い!
 私たちは形状の変えられてしまった警視庁にて地下に閉じ込められていた仲間を救出。その場のことはその場にいる人たちに任せて黒鳥くんの居る所へ向かった。 
 場所は入江ちゃんが教えてくれた品川駅。
 私たちは駅までパトカーを飛ばし、適当な場所に止めて走った。
 多分西口の方だというので急いでやって来たのだが、完全に梶白先輩に置いていかれてしまった。
 「はあ、はあ…」
 梶白先輩の走っていった方向に向かい、角を曲がる。
 「はあ、はあ…はっ」私はそこで息をのんだ。
 視界に飛び込んできたのは座り込む黒鳥くんと…横たわる梶白先輩…!
 「えっ…」
 目に入る血だまり。
 本能かなにか、ほぼ無意識的に拳銃を抜き、引き金を引いていた。
 パァン!
 黒鳥くんの能力の右腕が飛んでくる。
 やられる!と思ったが、その手は私の目の前に来ると速度を落とし、私の頬を優しくなでた。
 「…世界は変わったよ…。」
 そう微かに聞こえ、黒鳥くんは倒れた。
 
 私はその後、検査入院を経て裁判が行われた。
 黒鳥くんを撃ったのだ。
 しかし、正当防衛が認められ、特に何もなかった。
 実際、現場に到着していた警官全員に発砲許可が下りており、なんならもっと上の兵器の使用も検討されていたようだ。
 後で知るが、アメリカや中国もこの黒鳥の速報を受けて動こうとしてたらしい。
 あの瞬間は色々な意味でやばかったのだ。
 
 そして、その後は特例で私は賞状を受け取り昇格。梶白先輩は二階級特進した。
 だけど、私は警官はやめた。もしかしたらそのまま残っていても変に能力者関係でこき使われて責任を擦り付けられるだけっだ可能性も高いが、その前に自分で決めることが出来て良かった。
 梶白先輩の葬儀も執り行われた。何も考えられなかったが、涙は溢れてきた。
 しばらくは何もする気にならない。
 私は退職金を元に一人暮らしの部屋で寝て起きての繰り返し。
 ふと黒鳥くんの書いた小説を読み、また泣いた。
 数週間がしたころ、なにかが自分を奮い立たせた。
 このままでは誰に対しても申し訳ない。
 ちゃんと生きていかないといけない。

 数年後。
 本当に世界は変わった。
 あれ以降、世界中で能力を持った子供がたまに生まれることがあり、やはり能力者についての議論が巻き起こった。
 世間からの能力者への風当たりは強いどころではない。
 地球人はまだ超常を受け入れられない。
 能力者への不当な逮捕はされることは無かったが、能力者たちはひっそりと暮らすようになった。
 能力者だとわかれば迫害される世の中になり、生まれてすぐに能力者だとわかると子を捨てる親も続出した。
 そして、能力者へのいじめ事件も絶えない。それに伴う被害も。
 だが、能力で誰かに危害を加えればそれこそ社会では生きていけなくなってしまう。
 小難しい世の中になってしまったが、共通の敵を持てた人間、平凡な人は良いヘイト先を手に入れたわけだ。
 少なくとも私を含めた一般人は小さいあれこれで無駄な議論を交わすことは減った。減ってしまった。
 あーあ。
 私は結局あれ以来、フリーターとして色々している。
 そして、空いている時間で執筆も始めた。
 ここから変わる世界もあるから。

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逆倉青海
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!