もっとファンタジーを! 第十章「Oracle」
隣の世界、赤城。
隣の世界に行き、ウェンティに会った。
向こうはそこそこ驚いた様子だったが、笑顔で迎えてくれた。
「もう会えないかと思ってたのに、」
「いつでも来れるさ」
「うん。あんまり頻度が多いとあれだけど、嬉しいよ」
「なあ、やっぱり俺が移動することはまずいのか?」
「どうだろう…。あ、そうだ!アカギがこの前チキュウに戻ってからまた私も色々と調べたんだ。それで、気づいたことと見つけたものがあるの!」
そういうとウェンティは一つの本を取り出す。
少し大きめの本を開くとどうやらこれは絵本らしかった。
そこで俺は気づいた。
「これ、日本語じゃねえか…。」
「やっぱり読める…?」
「うん。俺たちが使ってる文字だよ。」
「ちょっと読んでみて」
そう言われて本を読む。
そこには、この世界の創世神話の様なものが書かれていた。この世界の創造主が生命を創ったきっかけのこと、元々は人々と平和に暮らしていたこと。いつからか人々はその創造主の元から去り、「信仰」だけが残ったこと。こんな感じのことが物語長で書かれている。
これ、黒鳥先生が言っていた「ソウ」って存在のことじゃないか!?
「これね、とっても昔の私たちの文明が出来る前の遺物らしいの。誰にも解読できなくて王室の図書館に保管されてたんだけど…」
「前の文明は明確に日本語を使っていたのか…?」
「ってことになりそう…。」
とすると本当に創造主が地球を参考に、日本を参考にこの星を作り上げた?
黒鳥先生が創造主に会っていたというのは紛れもない事実だったんだ。
「ウェンティ、俺からも聞いて欲しいことがある」
俺は黒鳥創という人物と、彼がやろうとしていること、そして彼が話していたことを全部話した。
「え、ちょっと待って…そっちの世界をここみたいに創り変える…?」
ウェンティが考え込んでいる。
「アカギ、マズいかもしれない。ついてきて!」
そう言うとウェンティが走り出す。
「どこへ行くのさ!」
「さっき見つけたものがあるって言ったしょ?そこに行くの!」
俺たちは街から離れたあの不気味な森に着く。
「入るわよ。」
「うん」
「この中は普段私たちが食べている生命がたくさんいるの。でも、どの生き物も強力だから普段は専門の狩人たちが来ているわ。私たちは最高の獲物よ。私が風の魔法を纏うからアカギは私の近くから離れないでね、」
「わかった。」
すると俺たちを中心に風が渦を巻く。
少し歩くとなにやら遺跡のようなものが出てきた。
「どうやら歓迎されているようね。」
「え?」
「本当なら、というか関係なかったらここにたどり着けないの。たどり着けそうでも、道に迷わせたりここを隠したりすることなんて簡単なはずなのよ。でも、今はすんなり来れた。」
「意図的にこの場所を隠すのか…誰が」
「今から私たちは神様に会うの」
「え、神ってさっきの本の?」
「そうよ。行くわよ」
そういうとウェンティは扉の前に行き、扉に触れる。
すると、触れた部分とその周り、そして、ウェンティのネックレスが光り輝く。
「王室賢者に継承されるこの首飾り、こういうことだったのね…。」
光が収まると重い音を立てて扉が開いた。
中は少し広めの一つの空間だけらしい。なんだこの部屋?二人で中に入り、少し部屋の中を見ていると、入って来た扉が閉まった。
「「あ!」」
二人して扉に駆け寄り、開けてみようとするものの、開かず。
「閉じ込められた!」「どうしよう!」なんてしていると。
「やあ」
突如後ろからヒトの声がする。さっきまで誰も居なかったはずだ。
振り返るとそこには俺たちよりも年齢の低そうな、小学校高学年くらいの男の子がいた。
「二人とも、待ってたよ」
「あなたが創造主様ですね、いつも私たちを見守ってくださり、ありがとうございます。」
ウェンティが正座になってそういう。なので、俺もなんとなく正座をする。
「いやいや、むしろ僕の方がみんなに感謝しているよ。アカギくんもね、楽しませてもらってるよ。」
突然名前を呼ばれ、驚いた。
「お、俺の名前を?」
「当然!君は凄いよ!今まで僕ですら見ることしかできなかったのに!君は二つの世界への干渉をただの素質でやってのけたんだから!」
「素質?俺の能力は前国王の魔力を継いだからじゃないのですか?」
「え?関係ないよ?きっかけはもちろん彼の死だけど、君は魔力を貰っただけで能力までは貰ってない。これは君の素質さ。」
「まさか…。」
「で、最近逆に僕が君を真似したことで僕も地球に直接干渉できるようになってきたんだ。」
「黒鳥先生を地球に送ってましたよね」
「そうそう!彼も面白い人だよね~」
「創造主様。ひとつ伺いたいことがあるのですが…。」
「ああ、わかってるよ。ちゃんと話すよ。」
そこからの話は衝撃的だった。
「確かに僕は今まさに黒鳥を半洗脳状態にしているよ。そして、彼が創り変えた地球を吸収しようとしているよ~」
話を聞き終えた俺たちは急いで王室に戻る。
このままではまずい。
ウェンティとウェンティの父である現王室賢者のところへ行く。
そして、先ほどソウから聞いた話をし、ウェンティが地球で黒鳥を俺と一緒に止めたいということを話す。
初めはダメだの一点張りだった。
しかし、ふと俺の方を見る。
そして俺の方に近づき、ネックレスに手をかける。
「アカギ君。これは…?」
「ウェンティからもらいました」
そういうとウェンティの父は少し考え、「わかった。」と言ってくれた。
「ありがとう!お父さん!」
そう言ってウェンティが父に抱き着く。そしてそのウェンティの頭を父が優しくなでる。
「お前の好きにしなさい。私はいつでも覚悟はできていたさ。」
ウェンティが自分の家に寄りたいというので二人で向かう。
時間的にも今地球に戻っても夜中だ。もう少しここで待って、午前中のタイミングで戻ることにした。ウェンティもその方が都合がいいらしく、なにか作業をしている後ろで再び本棚などを見させてもらっていた。
途中で貰ったネックレスを貸してほしいと言われて渡した。
少しして返されると、ウェンティが継承したというネックレスのように羽のついたデザインになって返された。中のステンドグラスの部分も周りの金色に合わせた色合いに変わっていた。
「かっこいい、ありがとう!」
「いえいえ、大切に持っててね!」
そんなこんなで準備が完了するころにはいい時間になっていた。
ウェンティは前みたいに魔力を液体状にしたものを小さな瓶に詰めたものをいくつか作っていた。
いろんな色に光り輝く小瓶。綺麗だ。
さあ、いざ地球へ。
地球に戻ると時刻は予定通りの午前十一時ごろ。ちょうどよかった。
てか、ちゃんと考えていなかったが、ウェンティは無事に地球に来ることが出来た。よかった。
ただ、地球の環境がどうウェンティに影響するのかわからないので、無理のないように、不調があったらすぐに戻ることにして俺たちは二人で梶白さん、白鷹さんそしてみんなと待ち合わせをした。
梶白さんと白鷹さんは二人とも東京なので、まずは俺と大輝、静心、入江が集合。
ウェンティがこの世界にいることに大輝と静心はめちゃくちゃ驚いており、入江とは初対面なのでウェンティが翻訳の魔法をかけてから軽く自己紹介をした。
「みんな、東京に行く。多分もう時間がない。」
「なにかわかったって言ってたし、ウェンティが居るってことはただ事じゃなさそうだよな…。」
「決戦…。」
「いよいよね。」
入江には付いてこないように言ったのだが、駄々をこねたので現場で一般人の避難誘導をしてもらうことにした。
詳しい話は梶白さんたちと合流してからにすることにしてひとまず東京へ。
移動中、終始ウェンティの眼が輝いていた。
「これが文明…!」「凄い!」「なにあの動いているの!」
とかとても賑やかで楽しかった。車や電車なんて初めは怪物か何かかと思って驚いていた。
そんなウェンティに地球のことをあれこれと話しながら急いで東京へ。
梶白さんたちとは都内の公園に集合した。
「赤城君!」
向こうが先に気付いてこちらへ来てくれる。今日は二人とも制服だ。
「その子は…?」
「あ、この人は、例の隣の世界の友人です。」
ウェンティが翻訳の魔法を二人にかける。
「ウェンティ・L・ディフェンディアです!あなたも国を守る人だと聞きました!よろしくです!」
そして、俺とウェンティは隣の世界の創造主「ソウ」の思惑を説明し始める。
まず、ソウは地球を吸収しようとしている。
元々そんなつもりはなかったが、俺が地球と隣の世界を繫げたことでソウもこちらに干渉できるようになった。そして、たまたま強力な能力を持った黒鳥創に目を付けて利用することに。俺も黒鳥創もたまたまいい感じの能力を持ったに過ぎないが、ソウはこれを上手い事利用することに。
まず、黒鳥創は能力を覚醒させれば本当に地球そのものを書き換えられる。
文字通り、黒鳥創が思い浮かんだままの世界に描き替えられるのだ。
ソウはこれを利用して地球を隣の世界と同じように魔力主体の星に変えるつもりだ。
そうすればソウは自分の力として地球を取り込める。
だが、まだ黒鳥にはそれほどの力はない。なので、徐々にレベルを上げて行って最終的に地球をすべて変えるつもりのようだ。
さらに、ソウから軽い洗脳を受けている黒鳥は冷静な判断が出来ずに自分の考えむき出しの状態。常にソウからの干渉も受けられるため、まず一般の警察なんかじゃ対処できないだろう。なにをしてくるかわからない。
ソウはいつもこちらを監視している。なので、こちらの動きもわかっているはずだ。
説明が終わった瞬間、タイミングを見計らったように梶白の無線が鳴る。
「マズいぞみんな。…警視庁がやられた。」
少し前、東京都千代田区警視庁本部前にて、黒鳥創、行動開始。
「ソウ。やるぞ。」
さあ、世界を変えるぞ。まずは俺を敵とみなしているここから!
俺は「神の右腕」と名付けたこの力を使用。
大きさもある程度自由に変えられるので、出せる最大サイズをぶつける。
この腕は物理干渉が出来ないので、一気に警視庁本部を神の右腕がすり抜ける。
次の瞬間、俺のイメージ通りに建物が描き変わる。
軽い光を放ち、警視庁本部だったものは黒基調の城に変わった。
中に居た人間は地下の牢獄に閉じ込めてある。
我ながらいい出来だ!想像通りだ!
ハハハハハハ!
思わず笑ってしまう。
周りにいた人たちが慌てて逃げだす。
そうだ、逃げろ!お前らに用はない!
俺は使わない神の左腕で空を飛びながら、神の右腕で建物や車、電車を書き換えていく。
いいぞ!
そのうち慣れれば生物の体も変えられるはず。この調子だ!
そのうち俺の下を警察車両が追いかけ始めた。
いいね!
一度下に降りて、警察の方々と対面する。
少し先で警察車両が止まり、ぞろぞろと人が下りてくる。
向けられるいくつもの銃口。
俺自身はただの人間の体なので、撃たれたら普通に致命的だ。だからこの神の腕で守らなければならない。
この状況、最高だ。ハイってやつだ!
なにやら説得してくるが、そもそも武器なんて持っていないし、誰にも危害は加えていない。…。監禁は行ってしまっているが、場所は変わってないからセーフ?
なにも動かないのもつまらないので、神の右腕を使用する。
目いっぱいの大きさで警官たちに向かって能力を使用。
警官たちをすり抜ける腕。
戻ってると、拳銃は花に、制服は隣の世界のような格好に、車両は馬車の乗り物部分に変わる。
驚く警官たちだが、なんて平和的なんだ!
そして、俺は再び移動する。
空から見下ろすと、次々に人々が逃げまどい、遠くの方には報道のヘリコプターも来ている。
少し移動して、品川駅東口の前のスペースに来る。
もうすでに一般人は逃げて誰も居なくなっている。
遠くから人影が四つこつらに向かって来ていたのでここで対面。
影が近づいてきてだんだん誰だかわかって来た。
「黒鳥先生!やめてくれ!」
「赤城くんか!」
楽しくなりそうだ!
少し前、赤城。
俺たちはすぐにやられたという警視庁に向かった。
すると、そこには「悪のお城」みたいな黒っぽい城が立っていた。
「これが・・・警視庁…?」
「恐ろしい能力だな…。私と白鷹くんは中を捜索、みんなが無事か確認する。」
「わかりました。」
「赤城君、黒鳥は任せても大丈夫かい?」
「ええ。止ますよ。なんとしても。」
そして、念のためとマスカレイド的なものをもらう。身バレ防止だろう。
一番テンション上がっていたのはウェンティだ。
そして俺たちは黒鳥を探し始めた。
入江は地上でSNSなどを使った情報捜査、俺と大輝は建物から建物へ移動しながら。静心とウェンティは飛びながら探した。お互いの情報はグループ通話でやり取りをした。
そして、入江からの情報で黒鳥の場所を特定した。
どうやらすでにSNS上はパニックに陥っていた。そのうちテレビカメラも来るはずだ。早く決着を付けなければ。
こうして俺たちは目撃情報を元に品川駅東口に向かい、逃げる人々に逆らいながら黒鳥先生のいるところに辿り着く。
俺たちが顔を隠しているので普通に能力を使っているが、逃げる人々は俺たちに気を取られることもなく逃げていく。何人かに目撃、撮影はされただろうが、今は構っていられない。
そして遠くで空に浮いてそこら辺の街灯を大理石の柱に変えている黒鳥先生を発見。
「黒鳥先生!やめてくれ!」
「赤城くん!来てくれたか!」
俺は空中に安定していれないので、地上に降りてからから叫ぶ。
「黒鳥先生!あなたが世界を創り変えても意味がないんです!」
「君なりの答えが出たかね!いいぞ少年!」
「ちがーう!地球は!ソウに!吸収される!」
黒鳥が下りてくる。
「なにを言っているんだね?そんなわけがないじゃないか!」
黒鳥がニヤッと不気味に笑う。
「だって……半分以上僕が操ってるんだもん!」
「っ…!!?」
ソウだ。
ソウが向こうから黒鳥を操っている。もうこんなに侵食されているのか。
これでは意味がない。どうしよう…。
と考えているすきに、俺の目の前に黒鳥の能力である半透明の腕が。
マズい!
と思った瞬間、俺は大輝に助けられた。
「あんまボケっとすんなよ」
「マズいぞ。今、黒鳥先生の意識の半分以上はソウに乗っ取られているみたいだ」
「じゃあ!目覚まさせてやらあ!」
戦いの始まりだ。
静心とウェンティもこちらに降りてきて四人VS黒鳥の構図が出来上がる。
「あいつが出す腕は二本。どちらに触れてもマズいから気を付けて」
多分だが右腕はまだ生物に干渉できないはずだ。左腕は能力を使われると一時的に行動できなくなる。こっちの方が今はヤバい。
「俺はとりあえず隙を狙ってぶん殴ってやる」
「じゃあ、僕は攻撃からみんなを守るよ。僕の分身は彼の腕に干渉できそうなんだ。だから盾になれる」
「私も離れたところから出来る限りのことをするわ」
「じゃあ、俺は適当にサポートするわ。メインの攻撃は大輝とウェンティに任せる」
作戦が決まった。というかこうするしかない。
「作戦は決まったかーい?」
「ああ。覚悟しな。ソウ。」
そして俺たちは各々戦闘態勢に入る。
俺はいつでも能力が使えるようにイメージ。すると体の周りに赤と水色のオーラが生じる。大輝は黄色い光の装甲を纏わせ、静心は青色の分身体を出現させる。
黒鳥先生を正気に戻す!
「じゃあこちらから行かせてもらうぞ!」
そういうと二つの腕が飛んでくる。
まずは全員でバラバラに。
左腕が俺の方に飛んでくるのをワープで避ける。
右腕はウェンティの方へ飛んで行っていた。
「ウェンティ!」
その右腕は静心の分身が守る。静心の体は今入江が遠くで見ている。つまり形状も自由に変化させられる状態だ。
「危なかったね、」
その分身がまさに盾となりウェンティを守った。
「ありがとう!」
魔力と魔力の衝突。
光の粉が散る。静心の水色の光と黒鳥の白い光の粒。
「ハハ!綺麗なもんだな!」
まさしくその光景は花火。
地球にはない輝きが衝突の度に散る。
そして、その隙に大輝が右足の装甲で強く地面を蹴り、一瞬にして黒鳥の懐に入る。
「おりゃあ!運動部の底力ア!」
右手の装甲を構え、殴ろうとした瞬間!
さっき俺がかわした左腕が大輝の死角から襲う!
「大輝!」
その瞬間に俺は大輝をその攻撃をかわすようにワープさせる。
「助かったぜ赤城!お前そんなことも出来たのか!」
「使ったことは無かったかもな!」
俺はこの瞬間に視界の物体をワープさせる力に目覚めた。
その後も攻撃を続けるが、直接打ち込むことが出来ない。防戦一方だ。
その時、ウェンティが例の魔法が入った小瓶を黒鳥に向かって投げる。
それを物質を書き換える右腕で防ぐ。瓶が砂になり、飛び散る。
防がれた!かと思ったが、中のピンク色に輝く魔力が飛び出し、その右腕にまとわりつく。
「HO*s~k&&□‼」
ウェンティがなにか呪文を唱えると、その右腕に付着した魔力が形状を変え、右腕とそこから伝って黒鳥の右半身を拘束する。
「クソッ!なんだこれ!」
ウェンティの拘束魔法か!
「大輝!いけ!」
瞬間、大輝が全強化のフードを発動させる。大輝の全身に装甲が出現。無敵モードだ。
そしてこれも瞬間、俺が大輝を黒鳥の背後にワープさせる。
「おらあ!」
大輝が強化された右腕で黒鳥を殴る。
一発入った!
大輝の強化状態は一発攻撃が入れば同じ場所に遠隔から攻撃が可能だ。これは大きい!
しかし、攻撃の瞬間、黒鳥の体を透過して左腕が現れ、大輝に触れた。
直後フリーズする大輝。それに向かって黒鳥の蹴りが入る。
黒鳥先生の作品が脳内に流れ込んだ大輝は無言で吹っ飛ばされる。
だが、黒鳥先生も右半身は拘束されているため、バランスを崩す。そのまま倒れる先生にウェンティが二つ目の瓶を投げつける。
蓋が半開きになっていたようで黒鳥の腹で小瓶の中の黄色く光る魔力が黒鳥を覆う。途端、痺れだす黒鳥。これは麻痺だろう。
ぐったりする黒鳥を見て、俺とウェンティ、静心も近づく。
「勝ったか…?」
「かも…?」
「役に立ててよかった…!」
バタッ
そういうとウェンティがその場に倒れ込んだ。
「ごめん…アカギ…やっぱり私ここの世界には長くいられないみたい…。」
「やっぱそうなったか…!すぐに向こうに連れて行く!」
地球という環境はやはりウェンティにとって毒だったようだ。
すぐに連れて行かないと!
しかし、俺が隣の世界へ移動しようとした瞬間、気絶していたかと思っていた黒鳥の左腕が襲ってきた!
俺とウェンティ、静心はみんな左腕からの攻撃を受けた。
直後、脳内に流れてくる黒鳥創の作品。情景やセリフまで鮮明に再生され、感情まで揺さぶられる。
だが、攻撃が弱かったのか視界は残っているし、少しなら思考ができる。
早く!早くウェンティを連れて行かないと…!
動け!動け!!!
そう念じても体は動かない。
視界の中で立ち上がる黒鳥。すると、一発ずつ俺たちを蹴っていく。
痛みも残っている。
「ハハハハハ!やっぱりこの戦いには意味がある!ありがとうなお前たち!これで能力も完成するだろう!」
ここで、先に能力を使われていた大輝が解放され、反撃を開始する。連撃の一発目を与えてそのまま蹴り上げ、視界から消えてしまった。
そして、静心もそれを追いかける。多分静心は分身なので、黒鳥の能力が効かないのだろう。
再び視界に戻ってくる。
激しい衝突。
黒鳥の腕と大輝の装甲、静心の分身がぶつかる度にさっきの静心のようなきれいな光の粒が散る。
「やっぱりきれいだなあ!最高の戦いだよ!」叫ぶ黒鳥。
「もっと!ファンタジーを!!!」
「俺が世界をファンタジーに創り変える!」
そして黒鳥と大輝がぶつかり合いながら品川駅の中に消えていった。
クソッ!
黒鳥もムカつくが、まずはウェンティだ!
動けよ!体ぁ!!!
すると、視界の中で固まるウェンティが彼女自身の魔力である緑色に光り始める。
まさか…!
ウェンティが消える…!
直後、俺の体が解放される。
「ウェンティ!」
すぐに駆け寄るが相当弱っている。
「ア、…アカギ…。もう、無理みたい…。」
ウェンティがそう言うと、
フワッ。
彼女は俺の腕の中で光となった。
まばゆく、温かい光が辺り一帯を照らす。
俺の手の中からウェンティが跡形もなく消え去った。
すると、辺りに散らばったウェンティの魔力が俺に向かって集まり出す。そして、俺のネックレスに吸収されていった。
「ウェンティ・・・?」
まさか、このネックレスはすべてを見越して…?
ネックレスに温かさを感じる。直感でわかる。ここにウェンティの魔力が詰まっている。
ウェンティは居なくなってしまったし、意識も感じ取れない。ただ、魔力がある。
ウェンティが残してくれたこのネックレス。
ありがとう。
涙を拭って立ち上がる。
「静心、二人を追いかけよう。」
「…うん。」