もっとファンタジーを! 第四章「Aberration」
気が付くと俺は俺が魔法に打たれた場所に立っていた。
時間も思った通りのあの茜空。
成功だ。
しかし、ふと周りを見ると何人かの学生やサラリーマンが俺を凝視してドン引きしている。色々見られた。
マズいと思って夕日をバックにダッシュで家に帰った。
家に帰ると当然のことながら親と姉弟に大心配された。
みんな目を赤くはらしていたのでかなり泣いていたらしい。俺はここで早く帰らなかったことを後悔した。
みんな泣いて俺を抱きしめた。本当に申し訳ない。
そして落ち着いてから事情を聞かれた。
時の流れは俺の予想通りで半日違いのようであった。
だが、そのことも含めて飛び交う質問には用意していた「記憶がない」の一点張りをした。流石にこの魔法のことを言っても理解されるわけがない。
捜索願いも出されていたらしく、親が警察に連絡する。
「記憶がない」という点で明日警察に事情を聞かれ、病院にも行くことになった。
しまったと思ったもののこれは仕方ない。
こっちの世界に戻って来て復活したスマホには大輝や静心、入江からも不在着信やメッセージが届いていた。
一通りの謝罪と無事の連絡を済ませる。
あいつらにもかなり申し訳ない。
夜になっても眠れず、散歩に行こうと思い立った。どうせ明日は学校にも行けない。なら別に寝不足でも多少問題ないだろう。
とりあえず外に出たかったというのもある。理由は明快で、地球でも俺の魔法がつかえるのかどうかを試したかったのだ。
全身に流れる直感では行けると思っているのだが、試してみないとわからない。
なので、実行することに。
とりあえず一旦部屋の中で試すことに。
今いるベッドで上半身を起こす。そして、部屋の入口を見て、そこにワープするイメージ。
いけっ!
と心の中で叫んだ次の瞬間、俺の体周辺が少し水色に光り、気づけば俺はドアの前で上半身を起こした状態でいた。
成功だ‼
俺は地球でもこの力を使えるようだ。
少しうれしくなって窓を開け、家の前の道路に行くイメージで魔法を使う。
すると、ちゃんと移動できた‼
最高の気分だ。
まるで物語の世界に飛び込んだような気分。
その後も何回か視界に写る景色から景色へ移動をした。
さっきまでベッドの上でネガティブになっていたが、誰にも知られない時間に誰も信じない力で爽快な「散歩」をするのは実に楽しかった。
この感じなら再びウェンティのいる世界へ行くことも出来るだろう。
そういえばあの世界のことはなんて呼ぼうか?名前が無いと言っていたから困ったものだが…。
まあ、一先ず俺のこの力は一種類しかないので「能力」ということに。そして、あの異世界は…「隣の世界」とでも呼ぼう。
とはいえ俺のここでの生活は何一つ変わらない。この能力があると言っても見せびらかすと間違いなく面倒くさい。ただでさえ明日は警察と病院に行くのだ。このような能力者の存在は世間でどう扱われるか分かったものではない。
かなりの緊急事態と人目のないところ以外では使わないようにと心に決めた。
と、誰の家かわからない他人の家の屋根の上で考える。
部屋に戻って少し寝て朝を迎える。今日は大忙しだ。
と言っても基本的には質問にはすべて「覚えていない」と応えていれば済むだろう。
と言っていたことは予想通りで、警察もお手上げと言った感じだった。誘拐された証拠もなければ外傷もない。俺が消える瞬間を見ていたみんなの証言は突拍子もないのだ。その上病院での検査でも健康そのものであった俺なので、きっとすぐに警察の捜査も打ち切られ、俺は普通の生活を送れることだろう。
そして、今日はこれらのことで学校を休んでいたので、あいつらからの心配の声はたくさん届いた。検査結果のこととかを言うと大げさに喜んでくれた。
明日は学校へ行く。何を言われるのだろうか、一発ぐらい殴られることを想像し、それを楽しみにした。
次の日、俺は遅くまで起きていたせいか珍しく寝坊した。とはいっても別に遅刻するレベルではない。いつもはみんなと色々話したりするために早めに行っており、それより遅いというだけだ。
登校中もなんだかいつもと違う感じがした。
秋の香りが強い。そして、今日は限りない秋晴れで空が天色だ。
気分よく登校し教室へ行くと、視界に入り、耳に届いたのは驚きと嬉しさの感情。
「あー‼やっときやがった‼」と叫ぶ大輝。
「お、」といつもは感情の読めない目を開く静心。
「あ!」と感情豊かな入江。
ちゃんと返信したはずだが、同じ内容を現実で聞かれる。でも、答えは同じだ。
もしかしたら俺のこの能力についてもみんななら驚きつつも理解してくれるかもしれないがまだその時じゃない気がする。
なんなら俺が能力で隣の世界への行き来に慣れたらあいつらも連れて行こうか?
俺の噂は少しばかり流れたようで教室に入った時は視線を感じたが、それも数日のうちに無くなるだろう。俺はまた普通で退屈な生活をこのまま送るだろう。
その日の放課後。
今日も大輝の部活を静心と待って三人で帰った。入江は今日も塾らしい。
「そういや俺が居なくなったときどんな感じだったん?」
「お前、なんでそんな平気なんだよ、マジでビビったぞあれ」
「雷に打たれて消えた。」
「なるほどねえ…」
「お前、本当はなんがあったか覚えてるな?」
「なんか隠してる」
「うーん、まあいずれ!」
一日考えていたが、今はこいつらに俺の能力や隣の世界の話をするのが楽しみになっている。自慢したい‼という感じだ。
だが、やはり打ち明けるのは隣の世界に安定的に行けるようになってから。そうでないとただの妄想で終わってしまう。テレポートの方を見せてもいいのだが、せっかくならとびっきりのやつでお披露目したいという心だ。楽しみ。
週末になり、俺は再び隣の世界へ行ってみることに。
正直、この挑戦はかなり賭けだ。
まだこの能力は不確定なことが多い。それも調べなければならない。
前回の移動では入り口と出口の場所を同じにしたので、座標に対応しているのか入った場所から出てくるのかが不明だ。なので、今日は家の玄関先から行ってみることに。数時間から半日のアリバイが必要なので図書館で調べものがあると言って外に出て、そこで能力を使う。
右足に集中する。
来た‼と思い目を開けると俺の右足が赤っぽい光を放ち、なにやら周りに水色のオーラが出ている。
そういえば誰かに見られたらマズいなと気づき、次からは自分の部屋から行こうと決めた。
そして、俺は右足を少し上げ、踏み込む。
するとまた地面が回転する感覚があり、グワンとする。
どうかまた隣の世界へ行けてますように!
気が付くと俺は草原に立っていた。
多分成功?だ。
辺りは暗く俺の仮説通り半日差という説が濃厚に。だとすれば時刻は大体九時といったところか。
少し先に街と城が見える。多分あの世界に来れたのだろう。だがまだ不安はぬぐえない。別の世界に来た可能性もある。
俺は移動してきたこの地点に目印をつけるべく少し穴を掘り、周辺の草を抜いて小さなサークルを作っておいた。
そして、俺はワープしながら城へ向かう。
この移動で改めてわかったが、俺のこのワープは視界に写る範囲と言いつつせいぜい20メートルほどの移動が限界のようだ。
だんだんと近づくと城や街の大きさがわかる。規模感は関東圏の県庁所在地ぐらいといったところだろうか?端が見えないほど広かった。
しばらくワープを繰り返し、街へ入った。
前に来た時は国王の葬儀のこともあって悲しみに溢れていたが、今は活気に満ちている。見れば各々が魔法を駆使して様々な商売をしている。食料や料理関係が多そうだ。民家の形態は素材こそ不明だが白基調の壁が多く、屋根はほとんどの家が平らだ。降水量が少ないのだろうか?でも食材を扱う店では魚の様な生物も並んでいるので水辺は近いのだろう。
街中では魔法が横行しているものの、恰好で俺は目立つため結構見られた。でも、国民性あってか特に何もトラブルはなく城へ着くことが出来た。
城門には見張りなどはおらず、普通にみんな行き来している。俺もその波に乗って中へ入る。城内の広場やこの前葬儀が行われた場所へは誰でも入れるらしい。でも、俺の用はその奥だ。見張り兵、とまではいかないが扉の前に居る人に話しかける。
「あの、ウェンティ・L・ディフェンディアに用があるんですけど…」
「ん?もうウェンティ様に会える時間ではないが、急用か?」
この前ウェンティがかけてくれた魔法はまだ効いているようで俺の話は通じたし、向こうの言葉も理解できた。
「ええと、”アカギ”って人が来たって言っていただけるとわかるかと…。」
「アカギ、だな?少しそこで待ってろ。」
そういうと目の前の男は魔法を使った。左手が黄色っぽく光り、それを口元に持っていく。そして、「ウェンティ様、アカギという人が来ています。」と言った。すると、その光った手から「あ、え、はーい‼」と聞こえてきた。間違いなくウェンティの声だ。こういう魔法もあるのか。
俺が感心した様子で見ていると、向こうが聞いてきた。
「お前、もしかしてこの前別世界からやって来たっていうやつか…?」
「あ、はい。たぶんそうだと思います。」
「あ、やっぱ?なるほどな…。今の、見たことないか?」
「はい、面白いですね!」
「なんでも見せるぞ~!あと俺にも色々聞かせてくれ!」
俺の話は当然ながら広まっているようだ。
門番みたいな人とあれこれ話しているとウェンティがやって来た。上から。
「おまたせー!」
そう言いながらヒラヒラと降りてきた。風の魔法に長けているからこその登場と言ったところだろうか?
「アカギ!会いたかったよ!」
「俺もだよ、色々迷惑かけたね」
「ん?…まあとりあえずまずは無事でよかったよ!ちゃんと家には帰れたの?」
「うん、帰って怒られちゃったよ、」そう笑って返すと
「え?なんで怒られたの?」と言われた。やはり文化の違いを感じる。
それより今日は聞きたいことが色々あった。
というかその前に
「時間大丈夫?」
「うん、時間は大丈夫?だけど?」
「でもさっき会える時間ではないって言われたしそれに…」
「ああ、私みんなの相談所みたいなことやってるの!王室賢者の第一歩というか?みんなの魔法とか魔力のことからもっと些細なことまでね」
「そういうことか、ちょっと場所変えない?」
「うん、いいよ」
こうして俺たちは街の真ん中にある広場、そのベンチに座った。
この世界には木製?の机とベンチは地球と同じようにあるらしい。似ている部分も多いな。
「それで、アカギ、話って?」
「ああ、まあ本当に色々あるんだけど、まず、俺は他の魔法を使えるようになると思う?直感では無理な気がするんだけど」
「うーん、アカギは元々魔力を持ってないし、体の構成に魔力も使われてないからなー。確かに気になるかも。」
「そう、俺は元々魔力を持っていなくて、初めは国王から、そしてウェンティからもらった魔力でこの力が使えている。でも、元の世界で何も考えずに魔法を使っても全然いくらでも使えたの、なんでかな?」
「うーん、ひとつ考えられるのは、アカギの体が国王の魔力と私の魔力で少し、というかかなりこっちの体に変えられたってのはあるかも?」
「体が変わった?」
「うん。この前のサーチとかアカギからの話とか、今の感じからなんとなく考えたんだけど、私たちの魔力とアカギのなにが似ているかって思ったら、多分、そっちの世界で言う”健康”?とか”生命力”になるのかも?」
「なるほど。でも健康って言う考えはここにもないの?」
「似ているものはあるけど本質的には違うかも?ここの人たちは最悪魔力が残っていれば存在を保てるのよ。」
「そうなると似ているかも?」
「で、そのうえで他の魔法が使えるか、なんだけど、正直なにもわからないからやってみるしかない?と思うの。どう?」
「もちろんやるさ!カッコいいもん!」
そしてその後はこの国の人がみんな初めに教わるというレベルの基礎魔法「フロート」の練習をした。この魔法はお分かりかと思うが、簡単なものを浮かせる魔法だ。
しかし、いくらやっても出来る気配がしなかった。
「おっかしいな、魔力量は十分すぎるほどなんだけどなあ…。」
ウェンティも頭を抱えている。
と言っているうちに時刻は深夜0時を回ったようだ。満月が真上に来ている。
ん?満月?月?なのかあれは?
「ウェンティ、今俺たちの真上で光ってるあれ、なに?」
俺は月と思われるものを指さしながら言う。
「ああ、あれは○□=~$よ。」
ああ、ここにきて聞き取れないやーつ。
とりあえずお礼を言って城まで戻り、解散となった。
ウェンティとはまた再開することを誓った。
ちなみに城まではウェンティの魔法では一発で飛んで来れた。流石次期王室賢者。
その後の俺は一度目印を付けておいたこの世界にやって来た地点に戻り、場所を確認してから周辺を散策した。
街のある方向とは反対側には森みたいなのがあるので薄暗いが行ってみることに。
そもそもの話だが、今俺が歩いている草原。そこに生えている草は地球と変わらない。試しに少しちぎって観察してみると平行脈もあり、匂いも草だ。ただ一つ違う点があるとすればちぎって数分後には枯れてしまうというところだ。前に聞いた魔力が還元されるというやつだろうか?
森に一歩踏み入れるとそこは幻想的な世界だった。
魔力が溢れているのか様々な色のオーラで満たされている。そして、それを食べるかのような生物、そしてそれを捕食する植物。などなど一目で探求心がくすぐられた。
しかし、一歩目から足が動かない。なぜか体が「帰れ」と言っている。ここに入ったら多分出て来れない。そんな気がするのだ。明確な森の意思を感じる。
ここはまた今度来よう。そう思い俺は再び街の方へ。
みんな寝静まってやることもないので街の様子、外観だけ見ておく。まあまあ広いので良い時間つぶしにはなるだろう。
その後は特に成果もなく地球に帰還することに。
俺は目印を付けた場所に行き、再び能力を使う。
今日のこのことでわかった。これは魔法によって生まれた俺の能力だ。
右足が光り、地面が回転する感じ。
一瞬にして俺は家の玄関の前に居る。
スマホを確認すると午後4時。ちょうどいい時間だ。
「ただいまー」
俺はそう言って家に入った。
それからも俺は何回か隣の世界へ行った。
夜中に行くことで向こうでは午前中の時間帯にウェンティや王室の人たちと会うことが出来た。
その代わりと言ってはあれだが、夜寝る時間が短くなったからか授業中に寝ることが増えた。大輝や静心、そして担任にも心配されたので隣の世界への移動は控えようと思う。
だが当然この何回かの旅行で収穫もあった。
まず、俺は安定して隣の世界へ行くことができることがわかった。もはやこれは証明されたと言ってもいいだろう。
そして、何回かの検証で、移動と帰還の時の法則は、「入る地点と出る地点は座標的に対応しているが、戻るときは入った場所から出てくる」といった感じのようだ。なので、俺が隣の世界に行く際に入り口にマークがされているような感じだ。
そして、ウェンティの話も含めてわかったことだが、まずあの俺が行くのを躊躇った森は隣の世界の人でも限られた人しか踏み入れない場所らしい。「生命に溢れている=魔力量が強い」ということで人間でも太刀打ちできない生物が居るとも言われている。なので、踏み入る際は魔力を熟知している魔導士と戦闘向きの狩人などと行く必要があるようだ。
こうしてある程度この能力と隣の世界に関して理解が深まったところで俺はあいつらを隣の世界に招待することにした。
数日後の土曜日の夕方、俺は大輝と静心を俺の家に泊まりに来るという話で呼び出した。
まずは俺の部屋で少しいつものように話す。
そして、俺は「重大発表。」と流行りの感じで言う。
「お、なんだなんだ?」
「この前のテストの結果?」
そんなことをいう二人に「ここでは言えないんだなー」といって外へ。
さらに、あの俺が消えた河川敷まで行く。ここまで来る途中では「早く言えよー」「どこだよー」とか言っていたが、河川敷が近づくとなんとなく察しがついたようだ。
「まさか、あの日のやつか?」
「赤城が消えた日の?」
「確かになんか隠している感じだったけど?」
「真相を話すの?」
など言っているが何も答えずに微笑みで返す。
そして着いたのは俺が消えた場所。
「よくぞここまでたどり着いた!」
「お前が連れてきたんだろ」
「同文。」
「重大はっぴょぉぉぉう‼」
「いや、それ結果発表のやつ」
「(激しめの頷き)」
「今日は、俺が消えた真相を君たちに話す。」
「おう。」
「うん。」
「普通の人間は信じらんないことだけど、きっとお前らならわかってくれると思って話すし、連れて行く。覚悟は良いか?」
「ん?連れて行く?覚悟?」
「多分大丈夫。」
「よし。今から二人の常識と世界をぶち壊すぜ!」
そう言うと俺は二人の肩を掴んだ。俺の能力は俺が触れている対象も連れて行けるようなので、これで移動する。
そして、この場所を選んだ理由だが、もちろんあの日の真相を話すこともあるが、ウェンティにも事情を話しているので、直接王室に行くというわけだ。
そして俺は能力を発動する。
俺の右足が赤く光、水色のオーラが飛び交う。
「おいおいおいおい、なんだこれ」
「なんか綺麗だね」
「行くぞ‼」
そう言うと俺は右足を踏み込む。
地面が回転する感覚。俺は慣れたが二人はどうだろうか。
グワン。
気が付けば王室に居た。
俺は目の前で呆然とする二人に宣言する。
「ようこそ‼隣の世界へ‼」
「…はい?」
「…??」
「今、グワンてしなかった?」
「したした。気持ち悪い。」
「うん、吐きそう。」
「君たちは今異世界に来ています。」
「は?」
「え?」
「まあまあ、そうなるよね、ゲストも呼んでるから待ってて!」
そして俺はそこら辺に居た人にウェンティの所在を聞く。俺は何回もここへ来るうちに大分認知も広がって顔パスのような状態にいなっていた。
そこら辺にいた警備?の人が言うにはウェンティはまだ街中へ出かけてから帰っていないという。
このままでは通訳の魔法も二人にかけられないので街中へ行くことに。
二人に「ちょっと出かけよう!」と言って城外へ。
まだ困惑している二人にあれこれ説明する。
俺が能力を手に入れた理由、使える力、ここの世界ではみんな魔法が使えること、飯は美味いことなどなど。
そんなこんなで渋々とついてくる二人と街へ行ってウェンティを探す。
初めは二人も困惑一色だったが、街中で普通に使われている魔法を見るうちに「本当に異世界に来たんだ!」と理解したようで、ウェンティを見つけた時には興奮気味になっていた。
「ウェンティ‼」
「あ、アカギ!その人たちが前に行ってた二人ね!」
「そうそう!二人にも俺と同じように翻訳の魔法をかけて欲しいんだ」
「わかった、ちょっと待ってね、」
そういうとウェンティは手に持っていた食材の入った入れ物をを地面に置いた。
「二人とも、今からこの人に翻訳の魔法をかけてもらう、そしたら話してることわかると思うよ。」
すると、静心が。
「ちょっと待って、ここの言語、なんとなく法則がわかりそうかも。」
「はい?マジで?」
「うん。多分だけど、日本語のシーザー暗号的な感じだと思う。それプラス訛りというか…。」
「ガチか。ちょっと試してみるか。」
なにやら面白いことになりそうなのでウェンティにも協力してもらう。
「ウェンティ、ちょっと予定変更していい?」
「うん、大丈夫だけど?」
「試しに”フロート”を使ってみて欲しいんだけど」
「わかったわ。…フロート!」
そういうと地面に置かれた入れ物が浮く。
「どうだ、静心」
「日本語に直すなら”ヘワーナ”って感じに聞こえたけど」
「今のはものを浮かせる魔法でフロートってやつなんだ」
「ほら、やっぱりシーザー暗号だ」
「静心、お前エグイな!」大輝もこれには大興奮だ。
「マジかこれ。」
これは驚いた。発音に癖はあるものの、どうやら日本語とほとんど同じみたいである。
「ウェンティ、すげえぞ!」
「なにかわかった?」
「うん!俺たちの言語が実はめちゃくちゃ似てるみたいなんだ!」
「本当に!?もっと詳しく調べてみたいね!」
「うん、じっくりと検証したいな。音象徴とかどうなってるんだろう…。」
そんなことを考えてると、後ろから大輝のか細い声で「赤城…」と聞こえた。
そして、俺が振り返るのとほぼ同時に、周りにいた人間の悲鳴も聞こえる。
振り返ると二人が倒れていた。
急いで駆け寄る。しかし、もう二人とも意識がない。
俺とウェンティは急いで城内の救護室的なところへ二人を運ぶ。
後から名前を聞いたが、アクアラング・K・メディクスという王室専属の医者が俺たちを出迎えたかと思うと速攻で異常に気付き、分析を始めた。
そこにウェンティも参加し、二人で分析する。そして、二人が話し合った結果、結論が出てすぐに処置が行われた。
処置と言っても二人が“ギフト”で倒れている二人に魔力を分けただけだが。
どういうことかと言うと、どうやら魔力を持たない地球人がいきなり魔力に溢れるこの地に来たことで「魔力に当てられた」ような状態になっていたという。
体の強い大輝は軽症だが、静心は状態が悪いらしい。
俺のせいだ。
俺は部屋を飛び出してバルコニーのようなところに出る。そこで膝をつき、泣いた。
俺がこんなところに連れて来なければ、こんなことにはならなかった。
その後悔だけが溢れる。
少し後にウェンティが俺のところまで来た。そして背中をさすりながらやさしい言葉をかけてくれる。
少し落ち着いて二人が寝る部屋に戻る。
すると。
「お、赤城‼」「赤城、ごめんね、心配させて」
と声が聞こえた。
しかし、目の前には二人の姿とは到底わからない光の塊があった。
「見ろよこれ!」と大輝の声がする方はなにやら水色のオーラに黄色い光の装甲?みたいなものを纏った人が。
「凄くない?」といつもよりテンション高めの静心の声がする方にはもはや光だけが人の形を保って浮いている。中心の方は青く、周りは水色の人の形をした何か。
よく見るとその後ろには静心が倒れている。
「静心!」と言って俺がその体に駆け寄ると、青色の光の塊が「ああ、僕は幽体離脱みたいな状態なんだ」と言う。
どうやら二人も能力を手に入れたようだ。