見出し画像

Overseas Korean (1) 戦闘→武装解除

Cocktail People : 人はみな、いろんなもので出来ている。
何かのベースにいろんな味がまざってシェイクシェイクしたカクテルのようだと思っています。

『Overseas Korean 10』では
Koreaベースだけれど、わけあって韓国以外の国で育ち
ある時期、韓国ソウルに集まった
Overseas Korean たちの話を綴っていきたいと思う。
==========

H (アメリカ)

教育院の授業は週5日、午前8時50分のホームルームから始まり、午後2時50分まで。全寮制。食事は朝昼晩と、寄宿舎内の食堂で取る。

毎日3度も食堂で顔を会わせているいるうちに、私はある視線に気づいた。他人の行動や視線を観察している眼だ。彼は周囲を注意深く観察している。そうしながら自分と他人との距離を見極めようとしているようだった。誰が信用できるのか、いや、誰も信用できないのか、そんな戦闘態勢の兵士のように隙のない態度だった。

それは、アメリカに養子に出されたロバートだった。

ーカバにそっくりやー 

以来、私は勝手にH (Hippopotamus: 英語でカバ)と呼ぶことにした。

Hの視線は、パリに住んでいる時の自分(パリ居住歴14年)の視線だと思った。
脇を締めて、誰からも足を救われないように、よそ者だからと騙されないように、アジア人だからとバカにされないように。
けれど、さみしいさみしいと訴えている眼。
自分の良き理解者となってくれる人を探し求めている眼。

好奇心から、私はHに擦り寄り会話のタマを投げてみた。
私:「アメリカ、どないだ?窮屈なヨーロッパや日本と違って人種に関係なく自由に生きられるってイメージあるけどホンマのところどうなん?」
H : 「・・・・・」 
Hの顔は歪んでいた。

Hは多重人格者のように、ある日は明るく、翌日は暗い。
スーパーハイな時ですら、アメリカの話になると口をつぐんだ。

ーなぜじゃ、H?ー

武装解除 

寡黙に周囲を観察していたのは H だけではなかった。

ーアメリカ、ヨーロッパから来た子等はよそよそしいなあ。表面的に仲ようやってるだけやん。社交辞令って顔に書いたあるみたいやわー

しかし、徐々に徐々に、参加者の間にある種の連帯感が生じ始めてきた。

自分が自分でいられる
自然に振るまえる
胸につかえていた自分のことや韓国に対する疑問や感情を素直に口にできる

そう確信したのか
みな、一斉に心の武装解除をし始めた。

それからの各人の変貌はすさまじかった。

特に顕著だったのは、ガードが堅かったアメリカ、ヨーロッパ組。養子養女の割合が高いグループだ。彼らは西洋文化で育ち、韓国文化になじみが薄いパターンが多かった。

チュホン(アメリカ)

チュホンのバイオリン英才教育のため、3才の時にアメリカに移民。アメリカ在住歴15年、当時18才のチュホンの第一印象は、
ーなんや、神経質そうな兄ちゃんやな。めちゃ真面目そう。話しづらいやっちゃー

しかし、ある時期以来、ふっと気がつくといつも私の隣にいた。パーテイになるとピッタリひっつき虫状態でベタベタしてくる。
パーテイのドサクサに紛れているつもりだろうが私はしっかりチェック。

ーベタベタするな、チュホン!ー

ピーター(デンマーク)

ピーターは北欧の雰囲気たっぷり、ある種の冷淡さを感じさせる存在だった。そのクールさも、ひそかに気に入っていたのだが、彼の武装解除後の変貌ぶりにものけぞった。

余談。フランスでは右頬、左頰を合わせてチュッチュッと音をさせて挨拶する。フランスからの参加者、フェリックス(養子)と私がこのチュッチュッ挨拶をしているとなぜかいつもピーターが近くにいて、ピクンと反応してじーっと見てくる。

ピーターの武装みけんのシワが取れた頃だ。なんと、前からフェリックスとピーターが連れ添って歩いてきた。ピーターにスイッチを入れるべく、特大のチュッチュッ挨拶をおみまい。

固まり、立ちつくし、眉間に深い深いシワを入れながらも目は見開いていた。

その日を境に、ピーターも完全に弾けてしまった。

韓国アジュマに負けるとも劣らぬスキンシップ攻撃が始まった。北欧のクールさなぞ微塵も残さず、ベタベタと、なれなれしく。

ボリス (ロシア)

もとボクシングの選手で、小柄ながら筋肉質。蒸し暑い時でもいつも長袖長ズボン。いつもサラリーマン風通勤カバンのようなものを持っていた。

無口ボリス。
誰にも、絶対話しかけてこなかった。

彼の韓国語も英語もロシア語なまりがスゴすぎて、話しかけられても困っただろうけれど。いつも眉間にシワを寄せ、笑ったところを見たことがなかった。

ーおお、これがロシア人気質というものかー
と、勝手に解釈していた。

それが、だ。
ある日、ボリスが笑っている。
声を立てずに、笑っている。

ー?ー

ピーターに『ベタベタ』している。
話す言葉はなまりのため、相変わらず意味不明だったが。

ある社会学者によると、心地よいと感じる人と人との距離は文化によって違うらしい。一般的に、欧米社会で適切な距離はアジア社会での距離より離れているという。

韓国人は友人間だと女性同士のみならず男性同士でも手をつないで街を闊歩する。それを見て変だと言って止まなかった参加者がたくさんいた。はじめは体に触られることに抵抗を抱いていたのに、いつの間にか自分から手を伸ばすようになっていた。

プログラムがスタートしてから、1ヶ月も立たないうちに世界中から集まったコリアンベースのCocktail People : Overseas Korean たちは武装解除した。

さびしかった心
ひとりぼっちだった心
かたくなだった心
つっぱっていた心
こんがらがっていた心

いいなと思ったら応援しよう!