5ヶ月ぶりに劇場へ(「SHOW-ISMS Ver.DRAMATICA/ROMANTICA」)
演出の小林香さんが仰っていた「劇場は夢の箱」、まさにその通りでした。「SHOW-ISMS」、観せて、魅せていただきました。興奮冷めやらず、感想はTwitterの140字には到底収まらず(笑)、溢れんばかりの思いはこちらに残したいと思います。
コロナ禍で訪れたどの場所よりも、感染予防対策が徹底されていた劇場内。素晴らしかったです。チケットもぎりは自分、ロビーにはいくつものアルコールスプレーが配置され、密にならないよう色々な配慮がされた空間、このような状況下でも「ごゆっくりお楽しみくださいませ」と声をかけてくださる劇場スタッフさんには頭が下がる思いです。終演後の退場も列ごと。これほどまでに対策してくださることに、心から安心しました。
今回の「SHOW-ISMS」は、公演再開のお知らせとともに東宝から発表された作品の1つ。本当ならばこの期間に上演されるはずだったシリーズ9作品目「マトリョーシカ」に、歴代のSHOW-ismシリーズのキャストが集結し、形を変えて戻ってくるなんて…本当に驚きました。一度中止になった作品の再開、本来の形ではない上演、動揺と期待、再開の喜び、変わり続ける社会情勢への不安、色々な気持ちで観劇日を迎えました。
公演期間の前半・後半で、メインとなる作品が変わる形式となり、Ver.マトリョーシカは、後半日程。今回観劇したものは、Ver.DRAMATICA/ROMANTICA。SHOW-ismシリーズの第1作目の「DRAMATICA/ROMANTICA」(ドラロマ)がメインで上演され、8作品目の「ユイット」、そして今回の「マトリョーシカ」のコーナーも合わせて3作品での構成。
ゲネプロ記事へのリンク先を貼らせていただきます。
とにかくパフォーマンスに圧倒されっぱなしのドラロマ。井上芳雄さん、新妻聖子さんを始めとした、メディアでいつも拝見しているミュージカルスターの皆様がお送りする、映画やミュージカル音楽のコンサート。劇場の天井を突き抜けそうな歌声、自分の体内で音が共鳴する感じ、無条件に溢れてくる涙、これぞ劇場で舞台を観劇する醍醐味だな…と、5ヶ月前までの「当たり前」が懐かしくなり、その「当たり前」がもう「当たり前」ではないことを実感してしまって切なくなったり。気心しれた仲良し同士の皆様の、再集結までの時を感じさせないMC。突然のハプニングで、メドレー終わりに隣のシャンテからお昼の匂いが漂った瞬間の会場の和んだ雰囲気。換気を徹底してくださっている証拠ですね…(笑)皆がマスクをしていてもその柔らかい雰囲気に一体感を感じて、すごく嬉しくなりました。初演からのファンの方々にとっては、たまらない時間だったのだろうな、と思います。畳み掛けるような名曲の数々、歌の力に奮い立たせていただきました。
また、シリーズ8作品目の「ユイット」。不老不死の者が集まるホテル、夜公演は20時開演、キャストの方々が客席に降りてワインをサーブしてくださり… 公演解説を聞けば聞くほど、劇場で観てみたかった…!と思わせられる作品。デュエットで披露された「マンボイタリアーノ」、彩吹真央さんの最後のロングトーンがもう圧巻で…大好きです。
そしてその余韻を打ち破るように始まる「マトリョーシカ」のコーナー…お洒落な雰囲気の「ドラロマ」「ユイット」とは雰囲気が正反対の、夜間学校のお話ということで、そのお役の私服、作業着姿、どうしたの、皆何があったんですか…?と突っ込みたくなるような出で立ちでご登場。ミュージカルとして全編上演されるのは来週までのお預けですが、それに先立ち、4曲だけ披露してくださる、という怒涛の展開。み、美弥るりかさんが先生役…?もうこの時点で意外すぎて…!全く予想していませんでした。小林さん曰く、「逆」のイメージを当て書きにしてみた、とのこと。演出家さんってすごいですよね… ファンや世間のイメージとはかけ離れた魅力を見出して、そこに着目するなんて。個人的に、昨年9月の上演発表から、何よりもずっと楽しみにしていたので… 美弥さんを始めとする皆さんがクリエの舞台に立つ姿を見られただけで、もう感無量でした。
最後は、夜間学校設定のマトリョーシカチームに、ドレスアップしたドラロマチームが合流し、一見何の一貫性も無いめちゃくちゃシュールな光景の中(笑)、「漕げよマイケル」を歌われるのですが、この歌詞が… 劇場再開を祝うオリジナルの歌詞、やはり一言一言が胸にくるわけです。こちらこそ、「逢えて嬉しい、hallelujah!」です。この場面、センターカメラに向かってキャストの皆様がものすごくアピールをされているのですが、今回の観劇で一番感動したのはこの光景でした、と言っても過言では無いほど。配信で観劇した時以上に、キャストの皆様は、画面越しの客席を意識されていて。この作品は劇場から発信されてはいますが、劇場の中では完結できるものではないのだと、改めて感じました。舞台に立つべき方々が在るべき場所にいる姿、何物にも変えられない光景でした。
ドラロマチームのMCの中で印象に残っているのが、「(コロナがなくて)本当だったら…」というお話。その日は7月24日、本当だったら東京オリンピックの開会式。本当だったらマトリョーシカが本来の形でお披露目された。本当だったら「SHOW-ism」の歴代メンバーがこの時期にシアタークリエに集うことはなかった。本当だったら他の舞台だって中止になるなんて有り得なかった。本当だったら… でも、今となっては、コロナ禍の「今」が本当なんですよね。コロナがなかったらドラロマメンバーが集合することもなかった。こうして素敵な舞台を観劇することもできなかった。誰も予想していなかった展開に着地しつつも、この現状を肯定して、こうして幸せを届けてくださることこそ、夢を売る皆様の為せる技です。ミュージカル界の至宝と呼ばれる方々ばかりの錚々たるキャストの中で、たとえ初共演だとしても、互いに敬い合っているような和やかなカンパニーの雰囲気。この日は、井上さんの合図で美弥バンビ先生が突然指揮を始め…マトリョーシカチームの樋口麻美さんのサプライズバースデーをお祝いできました。こういった遊び心も本当に素晴らしくて。こんなに素晴らしいメンバーによって、エンターテイメントが今目の前で再開し始めたんだ、その感動を噛み締めて劇場を後にしました。
劇場の中は安全でも、家から劇場までの移動はそうとは言い切れない。都心まで移動することに胸を張れるのか?新宿のクラスターの件もあり、大好きな舞台が感染リスクと天秤にかけられてしまう事が本当に辛いです。このコロナ禍、やりきれないことや悔しいことも沢山ありますが、楽しめるチャンスが巡ってきた時には、心を開放して素直に大好きな世界観に浸りたいな。ドラロマのモットーでもある「みんなでハッピーになろう!」、そんな空間に混ぜていただいた、幸せな2時間でした。
2020.7.24
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※追記
7月25日、Ver.ドラロマの千秋楽の中止が発表され、7月26日、明後日からの公演再開、Ver.マトリョーシカの初日を迎えられることが発表されました。昨日のことは、あまりの衝撃でもう何も手が付かない状態でしたが、会場入りされていたキャストの方々、スタッフの方々のお気持ちを思うと言葉になりません。芳雄さんがこの公演のMCで毎回のように仰っていた「今日も無事に幕が上がりましたね」という言葉の重みを感じる日となりました。7月25日の公演自体はもう二度と戻ってこない。それでもこの状況下では、紛れもなく英断でした。体調不良を言い出せるカンパニーの雰囲気、そして社会に公表できる運営側、どちらにも絶大な信頼を寄せています。
公演の続行は、エンタメ界の希望でもあると同時に、何があっても受け入れられるような覚悟も必要。その事実を身を以て感じました。劇場でも配信でも、前日までどれだけ万事繰り合わせていても、もはや当日まで何が起こるか本当に分からない。チャンスがあるなら今、掴みにいく。今、観られるならば、観られる時に観るしかない。
ひとまず、体調を崩された方を含め皆様が大事に至らなかったこと、そしてVer.マトリョーシカの幕が上がること、本当に嬉しく思います。一度は全公演中止が決まったマトリョーシカ、今度こそどうか千秋楽まで駆け抜けられますように。
2020.7.26