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運命の恋も争いも、美しき「死」の支配下に(宝塚星組『ロミオとジュリエット(B日程)』)
運命の恋も家柄同士の争いも、盲目的な行動が生み出す悲劇は最後に「死」が美味しくいただいちゃうよ。ものすごかったです。星組『ロミオとジュリエット』初見の感想文です。偏ってると思います。
これを書いてる私ですが、宝塚ファンになって今年で7年目。2015年6月から2016年11月にかけて、星組を追いかけていました。『ロミオとジュリエット』は今の贔屓が過去にマーキューシオ役で出演されていたこともあり、名曲ばかりのナンバーも知ってるし、物語もなんとなく分かってたつもりだったけど…全然分かってなかったんだな…と、今回劇場で初めて観劇して痛感した。(5年前にスカステで明日海りおさんがロミオを演じたバージョンを見たことは覚えてるんだけど、録画を消してしまったようです。惜しいことをした。ヅカファンに成り立ての頃、物の価値が分かってなくてやらかしたあるあるです。笑)結末は知ってたけど、あんなに“死”に支配される世界だったとは知らなかった。
適材適所の星組さん
若いパワーが炸裂する星組さん、ヴェローナで野放しにしてて大丈夫?ってくらい、一触即発のヒリヒリ感が最高。星組さんを追いかけてた時代があるので、あの頃新公学年だった皆さんが役替りに入ってるなんて!という感慨深さもあり、色々な思いがこみ上げながらの観劇でした。ヴェローナ大公役が遥斗勇帆さんだったのも本当に胸熱。スカピンの新公でショーヴラン役を掴んだほどの存在感と歌唱力を遺憾無く発揮されていて…。
若いパワーだけじゃない。天寿光希さんを始めとする上級生陣が、ヴェローナの若者達の親として存在感を放ちながら舞台を引き締めてらっしゃった。今日観たヴェローナ、今の星組さんの持ち味をそのまま反映させたような舞台で適材適所だなぁと、メインキャラクターが登場して声を発して、その姿をオペラで確認する度に震えた。全員ぴったり。
「モンタギュー(男)」「キャピュレット(女)」という配役が多く、特に娘役は役が異様に少ない寂しさはあるけれど、互いの家を激しく憎しみ合う娘役さん達のかっこよさに痺れました。 スカピンぶりの、小桜ほのかちゃんのエトワールも嬉しい!
運命の恋人
ヴェローナの人々、色んなベクトルでそれぞれ狂気じみた魅力があって好きです。そんな濃いキャラクターで埋め尽くされるヴェローナの中で、運命の恋に堕ちるロミオとジュリエット。仮面舞踏会後、ジュリエットの部屋のバルコニーでのシーン、興奮で盲目な恋がどんどん加速していくのに共感してしまい、ここで涙せざるをえず… 礼真琴さんは無敵のヒーローもきっと似合うだろうけど、死に怯える儚げな主役がなんて似合うのだろう。どんなに床に蹲ってもブレない歌声、『僕は怖い』がしばらく頭から離れない。死に怯える純粋無垢な姿を見てたから、ジュリエットの死の知らせを受けて毒薬を買いに走る狂気への変貌が恐ろしかった。恋は人を狂わせる。
舞空瞳ちゃんの真っ直ぐなジュリエットも素敵だった。何でも乳母にやってもらうお嬢様だけど、恋や結婚については両親の言いなりにはなりたくない。いや、悪いことは言わないからパリス伯爵にしとけって…って誰でも思うような状況でも、どうにかしてロミオと一緒になれる方法を探すんだもん。乳母との会話で「夫が」と執拗に「夫」呼びするのもいじらしくて切なかった。(極美慎さん、あの華やかさとキラキラ衣装と胡散臭さが最高に良い…極美さんも役替りに入るなんてすごい…と、月日の流れをまた実感してしまった。私がその組を追いかけられてなくたって、生徒さんはいつの間にかスターの階段を上り続けてるんだよ!)(当たり前)
こんなピュアな2人が、まさかラストに競技ダンスのようなデュエダンを披露してくれるとは思いませんでした。高速?倍速??目が追いつかない、。宝塚は5組あるからこそ、色んなトップコンビが見れて楽しいです。
ヴェローナの若者達
良い子ばかりじゃん…ヴェローナの若者達は結局みんなピュア。
ニコニコ動画の特番で美弥さんが言っていた、いつキレるか分からない「尖ったナイフ」のようなマーキューシオ。2幕の「ヴェローナ市街」争いのシーンでスイッチが入り、陽気なキャラクターから変貌する瞬間をどうしても見逃したくなくて、オペラで追いかけた天華えまさん。刈り上げた髪も眉も、ヘアスタイル凝ってくれてありがとう…最強のマーキューシオでした。絶命の間際の「ジュリエットを愛しぬけ、全身全霊で」。この優しさが彼の本当の姿なんだなぁと思うと、たまらなく愛おしいです。
ベンヴォーリオのこともよく知らなかったんだけど、めっちゃくちゃ良い子。良い子だから、ジュリエットの死(仮死状態)も真っ先にロミオに伝えにいっちゃうし…「どうやって伝えよう」じゃないよ、伝えなくて良いんだよ!(笑)綺城ひか理さん、高音がきれいに上がるところが見事!聞き惚れてしまった。ロミオもマーキューシオもいない現世だけど、絶対に幸せになってほしい。
ティボルトも一見1番ワルそうなのにジュリエットのことを一途に思ってて超絶ピュア…瀬央ゆりあさんが2番手格の役をされてることがもう胸熱で仕方なかったんだけど、なんなんですあの色気は…褐色気味のドーランが最高にセクシーでした。
ティボルトとマーキューシオが命を落とす「ヴェローナ市街」、目が足りなくないですか?普通に無理。「どうやって観劇しよう」状態。ティボルトもマーキューシオも死も見たいんですけどもうどうしたら良い??(??)というか階段上の死さんやばくないですか???(後述します)
キャピュレット家
キャピュレット家の男性陣セクシーすぎてびびったんですけど!前述した瀬央さんといい、ジュリエットの父:キャピュレット卿の天寿光希さんよ!1幕冒頭「ヴェローナの広場」、下手側の階段上で彼女の姿を見つけた瞬間から鳥肌立った。アイメイクどうなってるん…?目が合うと石にされそうな魔力すら感じる…めちゃくちゃ引き込まれる…スチールも控えめに言って芸術。
ここはヴェローナ。キャピュレット卿をはじめ、モンタギューもキャピュレットも、ここに集う人々の目を見るだけでぞくそくした。狂気じみてることが分かる目。
有沙瞳ちゃん、物語のヒロインから年齢を重ねた女性まで、与えられる役の幅広さがすごいし、それを素晴らしく体現出来ちゃうのもすごい。ヴェローナの若者達との楽しい『綺麗は汚い』から乳母のソロの『あの子はあなたを愛している』への振り幅よ。涙を誘う歌声。母性の塊でした。
この2人…近々『ドクトル・ジバゴ』と『龍の宮物語』を絶対に見返すと決めたぞ!新しい舞台を観るたびに、振り返りたくなる作品があることは幸せなことだ。劇場に行けなかった作品も放送してくれるスカステってまじですごいのね。何度でも恩恵を実感する。
愛と死
対になる概念として「生と死」じゃなくて「愛と死」なの、痺れるくらい好きです。ロミオとジュリエット、2人にとって、お互いがいない世界は生きてたって仕方がない。天国で再会できるなら、死ぬことくらいどうってことない。『グランドホテル』で「怖いのは死ぬ事じゃない、“死”ですよ」というセリフがあるけど、盲目モードにアクセル全開になったロミオとジュリエットにとって、怖いのは「死」じゃなくて、「“愛”を失うこと」。盲目的な“恋”もいつの間にか“愛”になっていたんだと思うとたまらない。これが宝塚。ありがとうシェイクスピア。
宝塚の作品でも、『エリザベート』でシシィの死をもって彼女の愛を求めるトート、「怖がらないで、死は救いなの」というセリフが印象的な『fff』の謎の女、主役のすぐ横で虎視眈々と彼の死を狙うかのような存在を沢山見てきたけれど、今回はその「死」、そのもの。
最初にせり上がる希沙薫さんの「愛」、その後すぐ登場する愛月ひかるさんの「死」。この2人を見てたら、舞台に立って表現することって無限の可能性を孕んでるんだなぁと感慨深かった。セリフが無いからこそ、一挙一動、表情や目線の動きまで見逃せない。(だからこそ目が離せなかった…もうまとめて後述する…)希沙薫さんの可愛らしさ、柔らかさ。彼女が思い描く「愛」がよく伝わってくるような… ラストシーンも、天国で結ばれるロミオとジュリエットの後ろで、愛と死が結びつく姿、美そのものでした。絵画のよう。
死(まだ書くの?)(愛月ひかるさんについて)
いやほんともう…ものすごかったとしか言いようがないというか…スターアングルください…!「死」が舞台にいるシーン、最初から最後までずっと追っていたい。最後の霊廟なんて、舞台の真ん中も見たいし、上手花道付近の壁に寄りかかる死も見逃したくないし、「どうやって観劇しよう」状態そのもの。人間の視野は狭いし目は2つしかないんですけど…?
心惹かれるタカラジェンヌは沢山いるけれど、中でも指先や目線の動きひとつで空気をふわっと変えちゃうような、そんなオーラを持つタカラジェンヌが大好きなんですけども、この役を通して見事にそれを実現されてて、超絶刺さる。ぐさぐさに刺さる。93期の彼女に「死」を配役してくれたこと、こんな誰も抗えないような最高の「死」を演じてくれたこと、有り難さしかない…狂わされたさがすごい。人生めちゃくちゃにされても本望。
今の星組さんにも愛月さんにもそんなに詳しくなくて、配役発表の時、結構シャッフルするんだなぁと素人ながらに思ってた。ロミジュリにもそんなに明るくないから、「愛」も「死」も新公学年の生徒さんが演じられることが多いのかな?くらいの知識、贅沢な配役なんだな〜!くらいに思っていたことがもう恥ずかしくなるくらい。愛月さんの指先一つで世界が歪む。人の感情も変わる。命だって操れる。ヴェローナの人々の隣にはいつも「死」が存在する。手招きして待っている。本当恐ろしい。
『憎しみ』で初めに歌い出すキャピュレット夫人とティボルトをオペラで追ってたら、後ろの暗がりからスっと人影が見えて、その時点でもうあっという間に引き込まれて!これがあのトレンド入りした「#愛ちゃんの死」!歌詞の「蛇のように」のあたりでぐにゃって艶かしい動きをされるのももう何…?好きしかない。佇まいはトートのようでもあるけれど(色んな事情は一旦置いておくとして、めちゃくちゃ見たいですねトート…!)、もっと生々しくて、その生々しさがすごく良い。死の化身とかじゃなく、死そのもの。死に至った人間の魂だけじゃなく、死に至るまでの過程… ヴェローナで言えば人の憎悪など負の感情も全て飲み込んで体現してるような存在。
特筆すべきは、やっぱりあの2幕「ヴェローナ市街」の争いのシーン。下手階段上で、指先を動かしながら争いを操ってるかのようだし、なかなか決着がつかないと退屈そうにして。そんな中でもマーキューシオとティボルトが命を落とす度に、魂を飲み込むような仕草。指の動きがすごく綺麗だし、なんなのあの恍惚的な表情…(ここ舞台写真絶対欲しいな… とか考えてた… ほんとオタクホイホイじゃない…?愛月ひかるさんの「死」!)
そしてラストの霊廟!ロミオとジュリエットの魂をそれぞれ飲み込んで、2人の死を悲しむモンタギューとキャピュレット両家の嘆きを聞いた瞬間まるでフフっと噴き出すような嘲笑い、めちゃくちゃ良いじゃん… ロミジュリに「死」の配役があるの最高だし、それを愛月さんが演じられてるのがありがたすぎる。観られて良かった。ほんと好きです。
フィナーレの男役群舞についてもまだ書いていいですか?本編であんなに心惹かれたらフィナーレも姿探すじゃないですか。男役さん沢山出てきたのに愛月さんいないじゃないですか。そしたらしばらくしたら大階段に腰掛けて登場、なんと娘役さん達に囲まれてるじゃないですか。もう沸くしかない…
小池先生作品あるあるの、群舞後半に2番手さんセンターになるパート。これだけ夢中になってたら当然オペラで追うじゃないですか。「死」のメイクのままじゃないですか。唇白いじゃないですか。最高に良いじゃないですか。ショーの男役感が良い意味で薄いというか、あくまでも「死」の要素をかなり残したまま群舞されてるじゃないてすか。もう控えめに言って最高なわけです。あの冷たい視線を惜しみなく客席に飛ばして。フィナーレだからって熱くなくたっていい、真っ赤なリップじゃなくたっていい。「死」の引力そのままに、客席を本気であちらの世界に誘いに来てる。いやほんと無理では?好きにならざるを得ない。
パレードも、やっと歌った!やっと笑った、みたいな「やっと」が絶え間なく溢れてくるくるんだけど、歌いながら階段降りてもスキップしながら銀橋まで来ても、「死」のスタンスを崩さないのがまじで良い。なのに!あの『世界の王』の琴ちゃんソロ→琴ちゃんひっとん愛月さんのパート!さっきまでと笑い方違うじゃん!えくぼめっちゃ可愛いじゃん!はにかみ笑顔最高か…?脳内で好き好き危険信号が点滅したところで幕。お手振りも「死」です。微かな微笑みが最高。その徹底ぶりが素敵でした。
おわりに
以上、考察とかは無いし、「まじで良い」「ほんと好き」のオンパレード、語彙力低めの感想でした。140字に収まるわけがないなぁと思い、Twitterの延長の気持ちで残したけれど、ここまでに読んでくださる方がいらっしゃったら、ありがとうございました。
待ち受けるのが死だとしても、盲目って最高。あんな美しい「死」ならば尚更。また好きなタカラジェンヌが増えてしまった。後先考えず互いを愛したロミオとジュリエットのように、私も盲目的に宝塚歌劇を追いかけたい!(笑)ひとまず、HDDに録画されてるロミジュリ関連番組(ナウオンやタカニュなどなど)を少しずつ見ていくのが楽しみ。はぁ〜こんなこともあろうかと(?)録画してた過去の私ありがとう!ちょっくら溺れてきます!