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【ネタバレあり】『生殖記』~どんな人間も共同体からは逃げられない~(※1ゲイ個体の感想)


 今までいろんなインフルエンサーや著名人から、現代を生きるためのノウハウを受け取ってきた。仕事で成果を上げるため、人間関係で潰れないため、できるだけ楽しく生きられるようになるため、いろんな情報をインプットして一時期的なモチベーションアップ材料にしていた。例えば某メン●リスト、マ●なり社長、オ●ラジ中田、キ●コン西野、フェ●ミ研究所、最近でいえば八●仁平の自己理解チャンネルとかも。そこらへんの意識高い情報にはひと通り触れ、自分のドーパミン分泌に大変貢献してくれた。かなり助けられたし彼らのおかげ今の僕があることも理解しているが、いっぽうで彼らの発する情報に”しっくりこない”自分も確かにいた。

 その理由がこの小説で余すことなく暴かれてしまった気がする。自分という人間が、この社会から見た時にいかに冷徹で理解されにくい存在かということ。そして僕自身も、心の底からそんな社会に貢献したいと思っていなかったこと。というかもうすぐ30年になるこの人間社会に、やっぱり馴染めていなかった事実。結局先述の優秀人間たちはこの社会に繋がりを幼い頃から無意識レベルで感じていて、自分の根っこを抑圧せずに生きられる特権を得ている人たちだ(Da●goみたいに虐められていた過去はあるけど)。だから大人になって社会貢献するべき、拡大発展成長のために生産性がどうのこうのと思えるわけだ。でも自分は違った。心の底では無自覚に自分の存在を遠ざけていた社会を嫌いだと思っているし、そんな社会に対して自ら関りに行くのを面倒くさがっている。本当なら別世界の住人として、これ以上傷つかずに仲間内だけで生きていたい。

 だけどそれはできないことも、本作は伝えている。なぜならどんな人間も、ヒトが作り上げた共同体から何かしら享受しているからだ。作中の尚成だって体組成形を一緒に買ってくれた大輔がピンポンしてくれたおかげでトイレから立ち上がることができ運動とお菓子作りのマッチポンプを見出したわけだし、反対に尚成が大輔と樹の媒介役として彼らの悩みを聞いたおかげで(本人はスルーしてたけど、2人はそう思っていない)、自分たちのこれからの関係を見直せたわけだ。もっと視野を広げれば、お菓子を生産する人、原料を調達する人、ジムやプール施設を建築・運営してるのだって比率的にはどうしても異性愛個体の人間が多いはず。

 もちろん尚成の幼少期のクラスメイトや作中の樹が、尚成から生きるエネルギーを奪ったのも事実。

 結局、自分から奪ってくのも与えてくれるのも99パーセント外部からなのだ。この地球にヒトとして生まれた以上、共同体から完全に離れて生きることなどできっこない。

 だけども本書の最後は、尚成が多くの異性愛個体とは異なる共同体との関わり方を見出し、幸福を実感するところで幕を閉じる。極力関わらないスタンスを取ることも、また一つの関わり方だ。ここに僕自身、そして現代を生きる一人ひとりの生き方のヒントが隠れていると思う。

 先述したが、僕も尚成と同じくこの社会の共同体に対して心の底から貢献したいという気持ちを抱けずにいる。AIの進歩とか、環境問題とか、今この業界が伸びているとか、マジでどうでもいい。そう思うのは僕もゲイであるためかもしれないし、それ以前から対人不安が強くて本当の自分を出し受け入れられた経験が少なかったせいかもしれない。
 過去に大学を中退して2年近く引きこもっていたが、その時ほど社会や人間が怖くて憎くて関わりたくないと思い、生きることに絶望していた時期はない。

 それでも社会復帰を果たして、いちから電話応対から仕事内容を覚え、晴れてバイトから正社員に登用できたのは、僕が周りからいろんなものを享受してきたからだし、僕も地味だけど決して意味がないわけではない仕事を通して、遠くにいる誰かに与え続けてきたおかげともいえる。他の惑星ともいえる場所で金銭を調達して、そのお金で美味しいものを食べたり旅行したり本書のような素晴らしい本を買えたりもできている。

 もちろんそう思えるのは、本書の颯のように恵まれてきた部分もあるからだろう。

 これ以上傷つかないように外の世界に触れる度に脳内トリミングしてサバイブしてきた尚成と、将来社会に恨みを持たないために社会の拡大成長発展のレールを突き進む颯。後半の対比シーンは本作の見せ場でありどんでん返しにあたる部分だが、どちらも自分のためにやっている、という点では共通している。

 僕も世のため人のためと奮い立たせてきたものを一度捨てて、『自分のために』を主軸にいろいろやってみようと思った。

 おそらく多くの個体にとっては「考えさせられる」「自分の考えがいかに浅かったか」「衝撃を受けた」「考えたこともなかった」程度にしか思えないんだろう。僕のような人間にとっては『嫌われる勇気』なんかよりもよっぽど共同体との関係性について解像度高く学べ、"しっくり"きすぎた作品でした。それにしても小説を読んでて付箋を貼りまくったのは初めてだわ~!バイブル!(←僕のち●こ

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