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【後編】物語を、超えていけ。NOW DRAMATiC単独公演「Dramaticが止まらない」感想
僕らが信じた明日を諦めないで
夢破れるにはまだ早いんだ
何度でも生まれ変わろう
さあ 走れ 走れ
※こちらは前編からの続き記事です。
絶対的なエース、キング・ユリアの移籍。
当然ながら、その影響が最も表れるのは、活動を継続するチームの5人です。
パフォーマンスだけでなくメンタル面でも、今後へのプレッシャーも含めて、メンバーたちの感じるところは相当に大きかったでしょう。
そんな中、6人体制の終わりからわずか3日後に、単独公演(OAあり)が開催されました。
スケジュールに穴を開けないのはインディーズアイドルの常道とはいえ、新体制のお披露目までの猶予期間がここまで短いのは、あまりにも厳しいように思えます。
彼女たちの実力を疑う気は微塵もありませんが、せめてもう少し準備をさせた方がいいのではないか……そんな思いを消せないまま、7/2の新体制初LIVEを迎えました。
OAでスパレプが温めた会場に、アルバムで何度となく聴いたSEが流れますが、それすらも緊張感を持って聴こえます。
一人ずつ並び立ったメンバーは、従来のビジュアルから一転、漆黒のフォーマルな衣装をまとっていました。
新衣装お披露目は告知こそされていましたが、ドレススタイルとは全くの予想外!
ストリート系の不良から、まるで映画の中のマフィアのような装いです。格が上がった、というのを分かりやすく示しているようにも見えました。
しかし、そんな衣装も全く浮いていません。
むしろ、以前からのランクアップがあらかじめ決められていたかのように、とても自然な装いです。
もともと中性的な魅力を持つタッキーに加えて、舞台でコートを着こなしていたキャプテンやカラードレスが似合っていたなーたんも、スタイリッシュさとガーリーさの絶妙な調和で決めてくれました。
一方、ナウドラの中では王道アイドル寄りだったリンリンとカポネは、「ガール」から「レディ」へと脱皮を果たしたかのようです。
新衣装に身を包んだ5人の堂々たる佇まいを見ただけで、今日起こるのが只事ではないことが理解できました。
ここからはもう、怒涛のフルコースです。
全曲語りはワンマンで既にやりましたので、今回は特に印象的だったパートにだけフォーカスすることとします。
一曲目、SEの直後に披露されたのはやはり「現在 過去 未来」。
アルバムと同じ流れでのイントロに、身体も無条件に動いてしまいます。
最初にユリアの担当していた落ちサビを担ったのは、やはりこの人。
我らがキャプテン・ミサトでした。
代表曲のうちでも最も印象に残る落ちサビ、いわばナウドラを象徴するパート。
ライブ後の特典会で聞いた話では、この部分の歌唱にものすごく緊張していたとのことでしたが、歌声からそんな固さは感じられませんでした。
その代わりに全編を通して強烈に印象づけられたのは、ステージからでも伝わってくるキャップの人間的な芯の強さです。
もとより彼女は熱さだけでなく、聡明さと思慮深さを持ち合わせたリーダーです。
しかし、この日のパフォーマンスは、それだけでは説明がつかないほどに凄まじい気迫を溢れさせていました。
心の核そのものを歌声にする、キャップの姿。
それを支えていたのはやはり、月並みな言い方ですが「責任感」だったのでしょう。
キャプテン・ミサトの歌声それ自体が、自分こそがナウドラの頭であると、何があってもナウドラというグループを背負っていくのだと、雄弁に語っていました。
すっかり定番になった「純正マーヴェリック」を二曲目に持ってきつつ、三曲目の「シンデレラストーリー」を経て、四曲目には「大逆転」が入ります。
この日、衣装の次に驚かされたのは、ユリアが一手に担っていたフロア煽りをなんと全員が担当していたことです。
特に印象的だったのは、その声質を存分に活かすタッキー、それに新衣装がサディスティックさを引き立てるなーたんですが、一方で従来からあった各楽曲のイントロでのセリフ残っています。
この日に最もそれが効果的に働いたのは、大逆転でのカポネでした。
「いくよー!『大逆転』」!
その声から感情の濁りや戸惑い、緊張は一切感じられませんでした。
あれほどキュートなテンションで会場丸ごとスイッチを切り替えられるメンバーは、彼女をおいて他にはいません。
プロのアイドル……というのは変な言い回しですが、やはり彼女の存在感はグループに不可欠だと強く感じました。
シンデレラストーリーから大逆転の盛り上がりによって会場に漂っていた緊張感も解け、メンバーにも笑顔が戻ったところで、初めてMCが入ります。
感傷に浸る時間はあえて作らず、簡素な挨拶にとどめたキャップは、そのまま新衣装と同じく予告されていた新曲の振りへ。
「みんなと一緒にあたたかい気持ちになれる曲になっています。聞いてください」
「人間失格」
???????????????
なんて?????
聞き間違いを疑いました。
フロアからもたまらず戸惑いの笑いが漏れていたのも、今思えばいい演出だったかもしれません。
既存楽曲と比べても全く遜色のない、キャッチーなイントロ。
ダンサブルなサウンドに、「失格」のバツ印をはじめ、振りコピしやすいムーブがたびたび現れます。
それに慣れたかと思えば、お次はグループ初の本格的なラップパート!こちらも練習量が伺える見事な仕上がりです。
そして満を持してのサビは、邦ロックバンドを思わせるようなクセになる旋律。
童謡を思わせる「カラスが泣いたらさっさと帰りましょう」という締めは、たとえばRhythmic Toy Worldの「いろはにほへと」「とおりゃんせ」などにも似た、日本語ならではの郷愁をトリッキーに活かしたリリックです。
とにかく遊びどころ、伸びしろばかりの一曲。これをこのタイミングで出してきたことには、地力の強さに裏打ちされた自信を感じます。
さらに続いては、サプライズで披露された「純白」。私は存じませんが、過去のグループの曲だったようです。「未来は君の手の中」というフレーズだけで、彼女たちがこの曲を今日選んだ理由が理解できました。
さて、ここからはラストスパート。
満を持して既存楽曲から選ばれたのは、「Re:birth」でした。
楽曲名が意味するのは、「再生」。
これだけでもう、今日のLIVEに何より相応しいチョイスだということが理解できます。
加えて、なーたんを中心にメンバーも拳を振り上げては煽りまくり、武器であるスタミナをこれでもかと発揮します。
もはや、5人でのステージに不安など微塵も残っていませんでした。
そして、早くもラストの曲に。
ここまでの盛り上がりから続くエンディングはやはり、あれしかありません。
「NOW」。
単独ライブも、アルバムも、ワンマンも、トリはこの曲が飾ってきました。
NOWは、グループのターニングポイントの一つ一つで、激変していく「今」を自分たちと観客の双方に刻んできたとも言えます。
「物語は続く」。
「ありがとう」。
LIVEにおけるNOWは壮大なフィナーレでありながら、高らかな「To be continued」宣言でもあります。
どんな感動の幕引きのあとも、決して歩みを止めない。
けれど、ここにある最高の「今」も、それを共に作り上げてくれたことへの感謝も、絶対に忘れない。
ナウドラのスタンスの全てが、この一曲には詰まっています。
今回の記事では、各曲の歌詞のメッセージ性についてはそこまで触れてきませんでした。
リリックの多くが、必然的にユリアの移籍と体制変更を想起させてしまうからです。
アイドルに限らず、アーティストや演者の具体的な過去を過度に文脈として作品と紐づけることが、私はあまり好きではありません。
特に、それが別離や喪失に関する場合は尚更。
過去の出来事とそれに付随する感情は、すべて生身の人間のものであって、それを「エモい」の一言で第三者が切り売りしては消費することには、未だにどうしても受け入れがたさを感じてしまうのです。
しかし、ナウドラは楽曲の特性ゆえに、そうした文脈づけ……言うなれば「過去の物語化」を、どうしても避けがたいグループでもあります。
それがハッキリと分かる代表的な歌詞を、少し抜粋してみましょう。
もう一度やり直せたら
僕らはひとつになれたかな?
今更だけどもう少し
優しくなれたらよかったんだね
感情に任せてぶつかり合っても
苦しくって 苦しくって
もうこんな思いをしたくないんだったら
忘れないから 青春の日々
隣にいつも君がいたこと
笑って泣いて傷ついて
夢見て強くなった
物語は続く
ありがとう
他にも、挙げていけばキリがありません。
傷跡を背負い、別れを乗り越えて、それでも前に進んでいく。
やはり、そうした楽曲群で「物語」を描いていくのが、これからのナウドラには相応しいのでしょう。
そう思っていました。
「めちゃくちゃ悔しい。ナウドラ終わったみたいな感じなのが、マジでムカつく」
あの日、花束を抱えたユリアの真横で、ひとり悔しさを隠さなかったなーたん。
「みんなが楽しめる場所も
歌も想いも繋いでいきたい」
どこまでもリーダーらしく、その覚悟をツイートで示したキャップ。
2人の言葉が、頭の中に響きます。
決して器用なグループではありません。
代わりに、ときに暑苦しさを感じるほどの、熱い魂を持った面々です。
そんな彼女たちのこれからは、果たして「メンバーの離脱を乗り越え、涙を拭いて再スタート」というありがちなレールに乗せられるものなのでしょうか。
決して、それだけではないはずです。
「覚醒」としか表しようがないほど、わずか3日でとてつもない進化を遂げ、スーパーボーカリストの仲間入りを果たしたなーたん。
ユリアから引き継いだNOWのラスト、持ち味の感情表現を極め、ナウドラのLIVEのエンディングを完璧なものにしたタッキー。
そして、重圧も責任も期待も覚悟も何もかもを背負ってセンターに立ち、それでも笑顔を見せてくれたキャップ。
もちろんリンリンとカポネも含め、新たにスタートを切った5人のパフォーマンスは、予定調和など許さないパワーに満ちていました。
もう、言うまでもありませんね。
ナウドラは、それらしく整えられた「物語」になんて、収まる器ではないのです。
イバラの道なら、焼き払う。
高い壁なら、ぶっ壊す。
そんな規格外のイメージが、このグループには何よりも似合います。
たった一回のLIVEで、ハマってからたった5ヶ月しか経っていない人間がここまで熱くなるのは、異常なことでしょうか。
それも当然です。
ナウドラ自体が、これっぽっちも普通ではないのですから。
そんなことに改めて気づかされるとともに、未来への期待に胸を膨らませずにはいられない、最高の新生LIVEでした。
大逆転だ大逆転 いつか最高峰 上り詰める
最後には大逆転 そう決めた
桁外れの熱を全力で解放し、感傷も苦悩も外野の声も全てを飲み込んで、さらに激しく燃え上がる炎。
新生NOW DRAMATiCが切り拓く道は、物語を超えて、さらに先へと続いていきます。
ストーリーよりも、ノスタルジーよりも、ドラマティックな「今」。
これからもナウドラの「今」に立ち会える幸せを噛みしめて、本稿を締めくくりたいと思います。
前後編にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました!!