Focal ALPHA EVO 80導入
20数年ぶりにモニタースピーカーを替えたので、これまで使っていたモデルとの比較などをレポートします。
いままで使っていたのはGENELEC 1031Aというモデル。90年代後半のレコーディングスタジオでYAMAHA NS-10Mに代わる新定番的(?)に普及したスピーカーです。2000年ごろに受けたリミックス案件の制作中にレコード会社のディレクターが貸してくれたのが気に入ってその仕事のギャラで中古を購入しました。私ごときでもそのくらいもらえたいい時代だったなぁ!
この距離に設置するには大きすぎない!?という意見はごもっとも。買ったときにはもっと広くて大きな音を出せる環境があったのですが紆余曲折を経てこの部屋に落ち着いて早10数年。しばらく前にGENELECの当時の現行ミドルクラスのモデルを借りて試したことがあるのですが「近い距離で聴くには確かにバランスが良いけど低音が物足りない!」という結論でこの1031Aを使い続けてきました。
1031Aの購入当時の印象は(NS-10MとかTANNOY Rokitとかに比べて)とにかくドンシャリで明るい音!ウチに来た友人のミュージシャンから「音が良すぎる」なんて言われたこともあります。ミックスに使うと何でもカッコよく聴こえてしまって逆に良くないという意見もありましたが、制作中に自分が盛り上がる方が大事だったので選択に迷いはありませんでした。
ところが最近、L側の高音が突然聴こえなくなる事態が発生。調べてみるとどうやらツイーターから音が出ていない。GENELEC JAPANに修理について問い合わせたところ「製造が終了したモデルなので欠品になった部品があり、ツイーターなら交換部品があるけどアンプがダメなら多分直せない」との回答。旧いモデルだしそりゃそうだ。電源を入れ直したときにツイーターが復活する場面があったのでツイーターそのものは大丈夫でアンプが壊れている可能性が高いと判断、重いスピーカーを代理店に送って修理不能で送り返されるのも面倒だし何より元を取りすぎるぐらい使ったからもう寿命という結論で買い替えを決めました。
長い前振りになりましたが、久しぶりのスピーカー購入。買い替えのモデルを選ぶにあたり重視したのは上に書いた通りクラブミュージックを作るのに適した低音です。サブウーファーを設置する場所はないのでスピーカー単体で充分な低音が得られ、かつモニターとしてバランスを崩さない範囲で派手で盛り上がるキャラクターのモデルを探しました。
Focal ALPHA EVOシリーズは昨年発売されて廉価ながら良いスピーカーという評判。さらに後発で出たEVO 80はTwitterで相互フォローになっているトラックメイカーさんが高く評価する投稿をされていたので注目していたところ、ちょうどセールで安くなっていた(かつ見つけた時がセール最終日)ので勢いでポチりました!スピーカーなので本当はお店で試聴して選ぶべきところですが値段に負けました笑。
注文の翌日に届いたALPHA EVO 80を1031Aと置き換えて早速試聴です。
視聴に使った音源は以下の通り。
Ritchie Hawtin / Time Warps
Cinthie / Music For Discotheques
Chick Corea / Akoustic Band
Charli XCX / CRASH
Sting / MY SONGS
YOASOBI / アイドル
MAISONdes / アイウエ
最初にRitchie Hawtinを再生して出た感想が「低音すげぇ」。音量控えめでも1031Aとはレベルの違う迫力です。それもそのはず、ARC3で計測した結果、低音の特性が全然違いました。
計測時期に2年近い開きがありますが、オーディオインターフェースなどの条件は同じです。1031Aの低音が50Hzを境にロールオフしているのに対し、EVO 80は全く減衰していません。どちらも50Hz付近に盛り上がりがあるのはおそらく部屋の特性でしょう。Cinthieの裏打ちハイハットが歪みなのない良い音で聴こえるのは20KHz付近でも減衰しない高域の特性が効いていると感じます。
テクノ/ハウス系の後はChick Coreaを聴いてみます。こちらはピアノの美味しいところが少し引っ込んで聴こえて物足りません。Stingのボーカルでも同じ印象です。1031A以上にドンシャリで中域が引っ込んでいるのかと思いましたが、上の測定結果を見る限りEVO 80の方が特性的にはずっとフラット。低域・高域が伸びている分だけ相対的に中域が凹んでいる様に感じるのかもしれません。1031Aは3kHz付近から上が持ち上がっているためかボーカルやギターなどの持つ”色気”みたいなものが強調されるので、歌物やオーセンティックなJAZZを”楽しむ”という面ではGENELECに分があると感じました。
しかしながらEVO 80の中域がダメかというと全然そんなことはなく、解像度の高さは使い古した1031Aよりハッキリ優れています。YOASOBI / アイドルの歌詞は今まで全く頭に入ってこなかったのですが、このスピーカーで聴くとすんなり入ってきます。歌詞がわからないのは歳のせいだと思ってましたが違ってよかった笑。各楽器の定位感も1031A以上に明瞭でミックスがやりやすそうだと感じます。あとやはり低音!下の方まできちんと録音されている音源ならかなり低いところにあるベースの音程を聞き分けることができ、逆にローカットされているミックスの場合はそのことを明確に判別できます。MAISONdes / アイウエはベースを聴きとれない部分があってミックスかマスタリングで切ってるのかな?と思っていましたがこのスピーカーで聴いて改めてそうだと確信できました。最近の洋楽POPは低音の処理が大事と言われて久しいですが、Charli XCXでも非常に低い位置にあるシンセベースの基音がクリアに聞き取れるようなアレンジ・ミックスがなされていることを把握できました。
こんな感じで使い始めて1週間経ちましたが今回のモニタースピーカーの買い替えは満足のいく結果となりました。最初少し物足りなさを感じた中域にもだいぶ慣れてきました。ペアで15万円しないパワードモニターがここまでのクオリティとは20年分の進化を実感しますね。長い間ありがとうGENELEC!ジャンク品としてヤフオクに出した旧愛機は片方故障していることを明記しているのに予想外の高値で落札され、買い替え費用の大半を回収できました。名機のネームバリューのなせる技でしょうか。びっくりです。