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おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑨

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『宣言』

 
3人が持ち帰ったマテルの太陽ティダみず芭蕉ばしょうのお陰で、すっかり体調が回復したマレビトは、改めて礼を言いたいと3人を屋敷に招いた。

ガブは「礼なんか要らない!」と断ったが、おばぁさとされ嫌々重い腰を上げた。


屋敷には、村長むらおさとおばぁをはじめ、男衆(カシラ)と女衆(ウナリ)の他に、おもだった村人も集まっていた。

わっはこんな集まりは好かん!タケとヨシが行く!と言うから付いて来ただけだ。おばぁも行けと言うから・・・。」
ガブは部屋の隅っこで隠れるように座った。

「皆の衆、今夜はマレビト様の回復を祝う集まりじゃ。マレビト様がこの島に来られてひと月余り。ながの旅のお疲れが出て体調を崩されたが、見事に回復された。
じゃが、このことで3人の子供たちの頑張りが、大いにマレビト様を助けた。」
村長むらおさの挨拶で始まった。

「マテルの滝に行ったそうじゃ・・・。」

芭蕉ばしょうとマテルの太陽ティダみず・・・。」

「子供3人で・・・。」

「噂には聞いとったが・・・ヨシとタケとガブ・・・。嘘じゃろ・・・。」

「シィ・・・!」

村人の間では、いろんな意見が飛び交う。

「だから、わっはこんな集まりは嫌いなんだよ!」
ガブは今にも席を立とうとした。

その時、マレビトが口を開いた。

「皆の衆、私のために集まって頂き、またこの度の病では、ご心配とお世話をかけました。そして、ヨシ、タケ、ガブ、この3人の子供たちのお陰で、病を乗り切ることができました。
いのちを助けられたばかりか、生まれ変われと3人の子供たちに教えていただきました。ヨシ、タケ、ガブ、3人共ここへ来て下さい。」
マレビトにうながされ、ヨシとタケは恥ずかしそうにマレビトの横に並んだ。

「その2人が取りに行く!と言ったから。わっはいい!」
そう言って、ガブはみんなの前に立とうとはしなかった。

「もう一つ言いたいことがあります。」
マレビトが続けた。

「この島は、宝の島です。都の人々もうらやむような産物に恵まれ、また、それを活かす技を持った人がこの島には多くいます。
私のような余所者よそものを、こんなに手厚く持て成す村の「譲りごと」にも感銘を受けました。
流れ着いてから、その意味を私なりに考えました。
しかし、わからないまま病に倒れ、『早急に海へ流していただく事こそ、皆の衆のお心に報いるただ一つの道』と思っていたところ、3人の子供たちに助けられ、またも生きながらえました。そして、ご恩返しできるものとも出会うことができました。
ガブ、ふところの物を出して、皆の衆にも見せなさい。」

「これかぁ〜。」
ガブがてん蚕糸さんしの端切れと繭玉まゆだまをみんなに見せた。

初めて見るその端切れの素晴らしい光沢に、村人は驚きの声を上げた。

「これはてん蚕糸さんし繭玉まゆだま。ガブはこのてん蚕糸さんしに包まれて捨てられていたと聞きました。
そのガブが、山の中から繭玉まゆだまを見つけ、また島の反対側でてん蚕糸さんしを織る技を持つ山の民も見つけてくれました。
この村の、芭蕉ばしょうの技と藍染を活かして新しい織物ができれば、この島は永く守られるでしょう。」

マレビトはさらに、自らの一族はかつて絹織物で財と地位を築いたことを告げ、織物が果たす役割について村人に丁寧に説明した。
村人は真剣に聞き入った。

「ご説明は、よく分かりました。それで、どうすればよろしいのでしょうか。」
ハージンと呼ばれるカシラのその問いに答え、新しい織物についての具体的な進め方を話した。

「山の民と海の民と里の民、3つの民の力を合わせることが何より大事です。そのためには、私が正式にこの島の1人となり、自分の役割を果たす必要があります。名前もマレビトから、真人まひとに変えます!」と宣言した。

「先ほどマレビト様・・・いや真人まひとさんからそのことについてご相談を受け、驚いたが決意が固く、この島の一員として迎えることに同意した。」
村長むらおさの話に屋敷の村人たちは驚き、拍手と指笛が鳴り止まなかった。

「もうひとつ大事な話がある。真人まひとさんはガブを養子にしたいとも言われた。そして、ヨシとタケも、せめて父親が戻るまで養子にしたいとも考えておられる。」
と続けた。

「もう、マレビト様ではありません。真人まひととは、マテルの滝にあやかり、『真上からお日様をいただき、人として生きる。』という意味です。
今までは、我が身に起きることを運命とあきらめ、なげいてばかりでしたが、すべては自分。
身体が曲がれば影ができる。常に真上にお日様があると決め、皆の衆と生きて行きます!」
拍手が鳴り止まなかった。

  

 

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