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#002-05 これが福祉界のアベンジャーズ

今思えば、退院した2021年12月から2022年6月までは、つかの間の幸せな時間だった。

困難なことは多くあった。

良性腫瘍が悪性化し、いわゆる癌になった。が転移していないのかという不安。           
そしてこれから始まる下半身不随との付き合い。
ボク達もシンもまだ覚悟がない。

それにシンが生まれてからズッと心配が続き、
常日頃から心穏やかで無かったであろう長男のトモがついにバテてしまったのだ。
シンの退院が決まった数日後、仕事に出られなくなった。
人と会えなくなったのだ。

今思えば、シンが帰ってくることで、ほっとしたのだろう。生まれてから不安の連続だった。しかし今度はひとときも側から離れるのが怖くなった。仕事に出ている間に何かあったらどうしよう。
ズッと側にいるわけではないのに、自分の部屋にこもりながらじっと気配を感じているようだ。子どもの頃からベタベタとくっつくわけではない兄弟だった。
しかし、常にシンを静かに気づかないように見守っていた。
口の悪いシンも兄の言葉には従った。
ブツブツ言いながらも兄にあとをついて回った。

昔、大きなレジャープールに連れて行ったときのことだ。

二人で遊んでいるとシンが大事にしていた水鉄砲がプールの中に消えた。

しばらく探すと少し離れた場所で小さな子どもが水鉄砲を手にしていた。
トモはなかなかその子に言い出せない。何だか心がザワザワするのだ。シンは返してほしいけれども、トモの様子を見て深く諦めた。

どんだけ気の小さいことだろうと思う。
でもそれは、返してと言われた小さな子どもが泣いてしまうかもしれないというトモ特有の心配によるザワザワ感。それを中心に物事を考える。不思議だがそういうことなのだ。

そして親の元に返ってきて、シンは先程の状況を訴える。いかに大事な物をトモは見放したのかを。
トモは横をプイっと向き、かき氷を食べながらシラ~っとしている。

シンはそのことに根を持ち毎年夏になるとこのことを話題にするのだった。

今では我が家の夏の風物詩となっている。


ところで退院後のシンの生活だ。

シンが一日の予定を把握できるように壁に大きなホワイトボードを貼った。
その日の予定が分からないと昔から不安になる。
1週間の予定を書き終えると、スケジュールでいっぱいだ。


延べ人数約20名。
アベンジャーズを頂点とする頼もしいメンバー達だ。

まずは福祉用品の事業所代表
引っ越しに当たって、まずは絶対欠かせないのが介護ベットだった。
現在、大阪に在庫がないことを知るとすぐに全国の事業所に連絡。
なんと退院前日に納品というスピード感。そしてその後も、車椅子や
外出用のスロープなどの手配をチャキチャキとこなした。
フットワークが軽く、常に明るくボクたち家族に接していただいた。

ケアサービスの事業所代表とスタッフの方々
若いスタッフが多く、シンがしばらくすると心を開き、仮面ライダーや戦隊ヒーローの話で盛り上がり、自宅に飾っているレゴの完成品を自慢したり。
またクリスマスイブには、サプライズで代表がサンタ衣装で突然家に乱入し、プレゼントまで持ってきていただいた。シンも照れながらも記念写真を撮っていたなぁ。ホントに愛を感じる代表だった。

サンタさん来訪に退院したてのシンも穏やかな顔に

2つめのケアサービスの方々
シンの将来を見据え、車椅子の移乗などの練習を根気よく付き合っていただいた。シンの機嫌が悪いときが多く
「今日は絶対乗らへん。」
から始まりスタッフの方の説得にしぶしぶ
「あと30分は乗らへん。1時半に乗るから。」
と、ほぼ毎日この会話になるので、スタッフも少し楽しんでくれていたように思う。

訪問看護ステーションの代表とスタッフの方々
毎日必ず2回。バイタルチェックと褥瘡の処置を中心に来ていただいた。
代表の厳しさの中にある優しさにボクらは助けられた。シンも敬意を持って接しており、代表の言うことは必ず守っていた。シンが旅立った後にうちへ来て泣きながらこんな話をしてくれた。
「シン君は、なぜか担当する普通の患者さんと違うんです。息子に近い感情で。こんな気持ちになるのはこの仕事をしていて始めてなんです。この1年の危機を毎回乗り越えているシン君を見ていると、スタッフとも奇跡を起こす子やなぁって。私達が絶対褥瘡を治そうねって話していました。」

このほかにも、マッサージをしてくれる整体師さん、歯磨きの指導をしてくれた歯科医さんなど多くのサポートメンバーがシンを生かしてくれました。

数々の入院時にも
いつも「シンくん!」と声掛けしてくれた大学病院の看護師さん達、特に救急で担ぎ込まれた大学病院のICUの医師や看護師さん。ICUにも拘わらず、個室とはいえ、シンの好きなポスターやボクが描いたA2サイズに拡大した手紙やハロウィンの飾り付けを貼らしていただけた。

そのほか多数の方に力になっていただいた。
これは全てシンが繋いだ人々だ。奇跡のサポートメンバーがシンの元に集まった。それほど強力なメンバーだった。プロフェッショナルというだけではなく、愛情の深い人たちだった。

一生忘れることはない。



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