百万石メモリーズ 第六景「利常の小松城址と浮宮天満宮・大聖寺の金龍山実性院」
百万石メモリーズについて
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様「珠姫(主人公:たまひめちゃん)」が前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現代の加賀百万石を訪れる。 加賀百万石の各地にあるパワースポットや歴史的な場所を巡る物語。
この物語は、第一景から第十二景まであります。今回の話は第六景となります。
「百万石メモリーズ」全12章
■第一景 珠姫のお寺天徳院・白蛇龍神の金澤神社
■第二景 珠姫が通った子宝観音院・金沢城鬼門封じの五本松宝泉寺
■第三景 殿様の眼病治した香林坊地蔵尊・縁切りと縁結び貴船明神
■第四景 百万石まつりの尾山神社・十二支巡り願掛け香林寺
■第五景 希望が見える富樫城址・三天狗が守る前田家の裏鬼門
■第六景 利常の小松城址と浮宮天満宮・大聖寺の金龍山実性院
■第七景 奇岩胎内めぐり那谷寺・女人救済の遊郭串茶屋
■第八景 白山信仰の白山比咩神社・金運の金劔宮
■第九景 入らずの森気多大社・隠し砦の妙成寺五重塔
■第十景 海流が交わる聖域珠洲岬・日本海を守る須須神社
■第十一景 化け鼠と戦った猫墓法船寺・夢枕に立った白蛇養智院
■第十二景 船出の大野湊神社・浄化の霊山医王山寺
第一景は無料でご覧いただけます。
第二景から第十二景までは、各話後半部分が有料(1話100円)になっております。
今後グランゼーラ公式noteでは、毎月1日と15日に順次配信してまいります。
一挙に最終の第十二景までご覧いただきたい方は、下記の電子書籍ストアにて販売中です。
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百万石メモリーズ公式サイトはこちら→https://www.granzella.co.jp/contents/book/
登場人物紹介
・珠姫(たまひめちゃん)
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様で、この物語の主人公。
前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現在の加賀百万石の様々な場所を巡る。
・タケチョ
徳川家康公の前世の記憶を半分抱え、輪廻転生した。
孫である珠姫が心配で、豆狸の姿に変身して旅に同行している。
著者:麻井 紅仁子
編集・イラスト:ほんだしょうこ
第六景
利常の小松城址と浮宮天満宮~大聖寺の金龍山実性院
「ねぇリョウスケ、ここが義経と弁慶で有名な安宅の関なの?」
「はい。兄頼朝に追われた義経が、富樫の厳しい尋問にあい、やむなく弁慶が白紙の巻物をひろげて偽の『勧進帳 ※1』を即興で読み上げたり主君である義経を打ち据えるという、あの歌舞伎の見せ場ですね」
「だからここに義経と弁慶と富樫の像が。でもこの小松が歌舞伎の町といわれるのは何故?」
「この安宅の関と『曳山子供歌舞伎』があるからでしょう」
「子供歌舞伎ってなあに?」
「二百五十年ほど前の小松は絹織物で栄え裕福な商人たちが多く、京や長浜の曳山祭りに憧れたのでしょうね。町衆がその財力にものを言わせて曳山を作り、子どもたちに歌舞伎を上演させて奉納したことが発端らしいですが…でも、そのすべてのもとは利常様です」
「どうして?利常様とは時代が異なるのでは?」
「姫様、今から行く小松は、利常様が隠居されていたお城跡ですよ」
「ええ、でもそれとどう関係あるの?」
「隠居城建設のために、利常様がお連れになった多くの名工が小松に移り住み子孫が繁栄した。だからこそ、絢爛豪華な曳山を造れたということです」
「なるほどねぇ~」
「年に一度の『お旅祭り』は全国でも珍しい女の子だけの子供歌舞伎です。毎年、当番町の二つの曳山の上で歌舞伎が上演されます。大勢の人が集まるから大変な賑わいだよなぁ。ケイスケ」
「はい兄さん。それは見事な曳山と大人顔負けの子供歌舞伎です。利常様は城だけでなく、多くの寺社造営にも力を入れましたから伝統工芸の技術も盛んになりました」
「近代では建設機械ではトップクラスの大企業コマツ(小松製作所)の町としても発展しているし、飛行場もある素晴らしい街だよなぁ」
「小松はこれからまだまだ大きくなりますよ」
「だからお前、独立して自分の設計事務所を開くとき、この街を選んだのだろう?」
なんと本日のご案内役ケイスケは昨日もお話にでてまいりました加賀藩四代藩主光高様、そう利常様と珠姫の大切なご長男でございます。
しかもこのケイスケ、現世ではリョウスケとは実の兄弟なのですが、私のちょっとしたいたずら心で今まで隠していましたのフフフ。メモリーズって面白いでしょう?
姫を驚かそうという私の計画にやむなく乗ったリョウスケ兄弟でしたが、昨夜の宴会で初めてケイスケ(前田光高)と会った時の珠姫の顔は圧巻でしたわよ。思い出しても笑いが止まりません。
そして一夜明けた今日、利常の隠居城だった小松をご案内したいと、お迎えにきたケイスケの手をしっかり握ったまま車に乗り込んだ珠姫。…とても幸せそうですこと。
「ねぇケイスケ、よくそんな立派なお城を建てるお許しが幕府からでましたねぇ」
「はい、僕の正室は将軍家光様の養女大姫ですし母上のご存命の頃と同じくらい江戸とはうまくいってましたから」
「よかったわね。江戸とはうまくいってたんだ。で、ケイスケさんそのお城は?」
「残念ながら明治のはじめ頃にほとんどが解体され痕跡はわずかしかありません。
でも、この小松市立博物館に展示されている古い扉などは当時の貴重な物ですから。どうぞゆっくりご覧ください」
「まあ、なんと立派な趣のある細工ね」
「ちょうど今、兼六園にある成巽閣 ※2に保存されている扉もこちらの博物館に展示されてます。あとは小松園町来生寺の山門としても現存していますよ」
「そう…ここで利常様は晩年を…ならこの扉にももしかしたら…お手をそえられていたかもしれないのね……」
「往時はなかなか素晴らしいお城でした」
「広大な湖沼に十二の島を浮かばせ、本丸二の丸も水堀で囲み、それぞれを石橋や木橋で連結していた美しい城だったと。昨夜内記がいってたわね」
「築城技術がピークになった時代ですから『切込み接ぎ』という珍しい工法を使った石垣はそれは見事なものでした」
「利常様が亡くなった後は城番がおかれ明治まで存続していたそうね、ケイスケ」
「はい。城はなくなりましたが、利常様はこの小松城建立にあたり、多くの副産物を御残しになられました」
「利常様はやっぱりすごいわ。嬉しいわぁ。
あら?でもなんだか可笑しくなぁい?あなた光高でしょ?ということは…私はあなたの母で利常様は父上よね?」
「確かに、でも現世では僕はケイスケですからややこしいのでやはりここは父上というより利常様で、ハハハハ」
「そうよねぇ確かに!」
「うーん。よく寝たのう。おい、たま。ここはどこじゃ」
「大御所様お目覚めでございますか?」
「おっ!お前は確か光高、いや、現世では確かケイスケ?とかいうたなぁ」
「昨夜はかなりご酒を過ごされておられましたが大丈夫でしたか?」
「ああ、珍しく深酒をしたわい。加賀の酒は肴も旨すぎていかんわい。すっかり寝過ごしてしもうた!」
「タケチョったらもう、頭の手毬から早く出て来てよ。髪がよだれで汚れるじゃないの」
「すまん、すまん、どれどっこいしょっと」
今はすっかり高校や公園になっている小松城址に往時の面影もありませんが、お堀に浮かぶ利常の隠居城は優雅でそれはそれは素晴らしいものでした。
博物館をでた一行は、唯一残されているという小松城天守台を目指して歩きはじめたようでございますよ。天守台は、今は小松高校のテニスコートの脇にあるということです。
「珠姫様、足元にお気を付けください」
「大丈夫よリョウスケ!
あったあった~この石垣が天守の跡なの⁉でも小さくない…?ほんとにこの上に天守があったのかしらケイスケ」
「いやいやご隠居城ですよ。この上には二重三階の数寄屋作りの風流な櫓が立っておりました。風雅を愛された利常様の美的感覚をあますところなく取り入れた素晴らしい粋な建物でございました」
「お住まい空間は別に。この石垣下あたりに御殿がございましたしね」
「それにしても意外と小さいのね~!あっ!石段がある、登ってみましょう」
「いけません姫‼ここに書いてありますでしょう!
落石倒壊の危険があるからこの縄張り内に入ること禁止!小松市と小松高校の校長の二つも看板があるでしょう」
「大丈夫よ~! リョウスケ、登りたいわぁ」
「いかに珠姫様とはいえ許可することはできません!ほらこの石段、崩れかけて危なそうではありませんか」
「そうなの……ダメなの…きっと利常様も毎日この石段を登られたんでしょうねぇ……上からの眺めを見たいのになぁ…登りたいな……」
石垣に張りめぐらされた縄に軽々と足をかけ今にもその古い石段を登りそうな勢いの珠姫とそれを必死で止めるリョウスケ。
おてんば姫のお守り大変でしょうけれど、利常さん恋しさでいじらしいではありませんかどうぞ許してやってくださいね。
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